「スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-9です。 adventar.org

day-2は「スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術」です。

どんな本

スクラムの共同考案者でありスクラムの父と呼ばれる、ジェフ・サザーランド氏自身が、スクラムの誕生背景とともに「なぜ、スクラムなのか?」を語る本です。
技術要素はかなり少ないので、「ビジネスサイドの人」にも読んでもらいやすい内容だと思います。

"スクラムは誕生以来、ITの世界で新たなソフトウェアやプロダクトを開発する際の定番のフレームワークとなった。ただ、ソフトウェアやハードウェア関連のプロジェクトのマネジメントでは広く知られ評価されている一方、IT以外の分野ではあまり知られていない。この本が生まれた理由はそこにある。スクラムを使った仕事のマネジメント法を紹介し、IT以外のビジネスの世界に向けて解説するのが本書のねらいだ。"

ジェフ サザーランド. スクラム 仕事が4倍速くなる世界標準のチーム戦術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.69-73). Kindle 版.

(「はじめに」より)

では、どうやって「紹介し、解説」しているか?というと

  • 2章: サザーランド氏が米軍所属時代に学んだ経験(OODA的な行動原則)やその後の現場での体験で思考を深化させた過程(リーン的な思考、自己組織化など)と言った、「生い立ち」を引き合いに出してのスクラムの背景の紹介
    • もちろん「The New New Product Development Game」との出会いも
  • 3-5章: スクラムを取り入れる際に重要な要素(※スクラムガイドの「柱」とは別で)である、「チーム」「タイムボックス」「リーン/カイゼン」の紹介
  • 6-8章: スクラムを成功させるために必要な要素である「無理のない、現実的な取り組み(プランニング、Just In Timeな動き方)」や「優先順位」、「幸せに(人間的に、かつ意義のある)働くこと」の説明
  • 9章: IT分野以外でのプロジェクトにおけるスクラムの導入・活用エピソードの紹介

といった構成になっています。

その所々に「実際に筆者が出会った現場の話(炎上しているプロジェクトをどうやって導いたか!)」「自身の体験」などが織り交ぜられており、発明者の言葉で言及されることで「スクラムが、どうして・どうやって今の形になったのか?」について少しずつ納得していけるような形です。

今の時代に「スクラムを勉強する」ということは、既に名前がつけられて整えられたものに対して後追いするような形で識る・・・「まず公式を覚えてから、それを証明する」ような接し方になると思います。
一方で、この本は「生みの親」が生い立ちから語るものです。すなわち、「名前がつけられる前の出来事」だったり「どうやって発見したのか」について触れることが出来ます。

先日も触れたジョン・ボイド氏の話も出てきます。

スクラムの概要を理解してから読むことで面白みが増すと思いますが、必ずしも前提知識がなくても「なるほど、だからスクラムは効果を挙げられるんだね」というのが感じ取れるのではないでしょうか。

お気に入りポイントかいつまみ

スクラムの良さ」についての実体験が豊富に挙げられている

この本は、いわゆる「ルール本」のように「こういう仕組みになっています。実際にどう使われていくのかをみてみましょう」というものではなく、ある現場において何らかの課題があり、それを解決するための策が必要で、そうして生まれた取り組み方!のような”正引き”の順序で語られることが多いです。
平たく言えば「スクラムの元ネタ」を生みの親が語っている、とでもいうような。

また、軍隊での体験・経営学や組織理論・心理学など、スクラムは幅広い分野からエッセンスを取り入れているのだなぁという事も感じられました。

「非ソフトウェア開発者向け」であること

「開発チーム」「プロダクトチーム」でどうやっていくか?という視座は、ある意味で飛び越えて書かれている本です(勿論、その分だけ実践的な観点での解像度は下がります)。
その代わりに「スクラムは新しい働き方で、どのように世界を変えていくか」という地平で書かれているなと感じました。

実際に、第9章のタイトルは「世界を変える」です。

スクラムはソフトウェア開発の世界で始まった。今では、仕事という仕事のあらゆる分野に裾野を広げている。スクラムを採用しているプロジェクトは宇宙船の開発から給与支払いの管理、人材開発まで多岐にわたり、業種もファイナンスから投資、エンタテインメントからジャーナリズムまで幅広い。二〇年前、自分がソフトウェア開発を支援するために考案したプロセスが、これだけ幅広い分野で活用されているのを見ると感銘を覚える。スクラムは人の取り組みを後押しする。内容は問わない。
(中略)
アフリカで死んでいく人々や米国の学校で起きる暴力、人の上に立つ人が繰り返すうわべだけの行動といったニュースに、こんなものだ、仕方ないとあきらめるのは簡単だ。だがこうした困難な問題もスクラムを使って対処できる。今挙げた問題はどれも実際にスクラムを取り入れて解決に取り組んでいる人々がいて、ビジネスの世界と同様、目を見張る成果が上がっている。

ジェフ サザーランド. スクラム 仕事が4倍速くなる世界標準のチーム戦術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3194-3207). Kindle 版.

多様な領域でのスクラム事例を紹介する章になっているのですが、その内容は「教育現場」「社会問(貧困問題に取り組むNGO)」「政府」「創造的な企業での組織デザインの例」と多岐にわたります。

スクラムの理念や背景を共有することで、それが「小手先のフレームワーク」として捉えられずに、目の前の課題の解決の為に応用して実践できるポテンシャルがある・・というような事を語っているように感じました。

まとめ

スクラムって楽しいな、好きだな」と思っている人には一読の価値がある本だと思います。
「より実践的にスクラムを理解したい」や「自分のチームにスクラムを導入してみたい、入門してみたい」という要望に対しては、また違った情報リソースの方が役に立つものだと思います。
(もちろん、先述の通り「決してソフトウェア開発に従事したりプロダクトチームに居る訳ではないが、リーンやスクラムに興味がある(主に)ビジネスサイド」な人たちには、いわゆるビジネス書としてオススメできます)

個人的には、より「深み」を持って理解するための一助になるのではないか?と感じました。

「アジャイル開発とスクラム 第2版 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-10です。 adventar.org

day-10は「アジャイル開発とスクラム 第2版 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント」です。

どんな本

スクラムの祖父」野中郁次郎氏を含む、アジャイルスクラムの最前線やオリジンとも言える3名の共著・・・
(そしてジェフ・サザーランド氏へのインタビューも掲載されています)
なんというか豪華すぎる!って感じの面子です。

3部構成となっており、第1部こそ「アジャイル開発とは?スクラムとは?」といったプラクティス、ルール寄りの話も扱われるものの、基本的には副題にある通り「経営」や「組織」の話が主題といえます。どちらかというと、エンタープライズ系やSIerの組織内で管理側にいる人に向けた話題なのかな?と感じました。
(帯の言葉を借りれば 企業のリーダー層に向けた「アジャイル」と「スクラム」の解説書 です。)

そのため、「スクラムってどうやるんだ?」とか「導入のための手引」に関しては重く扱われておらず、それよりも「アジャイルスクラムによって、組織に何がもたらされるか?」という目線です。

・・・と言いながら、読後の感想としては「この本で言いたかったことは第3部に詰まっているな」という感じです。
アジャイル開発とスクラムを考える」という部になりますが、出てくる話題は「The New New Product Development Gameの再考」「知識想像」「実践知リーダー」と進んで、「野中・平鍋対談」にて対話とリーダーシップに関する話を掘り下げてフィニッシュです。

単なる「開発プロセス」としてのスクラムに留まらず、スクラムガイドが掲げる「より⼤きな組織に奉仕する真のリーダー」であったり、ScrumMasterWayの提唱する「Entire System」のレベルに共感したり惹かれたりしている人にとっては、この第3部は必読だと感じます。

お気に入りポイントかいつまみ

読むとエネルギーが湧いた気がする

2021年は、CSMを取得した流れで初めてアジャイルスクラム系のコミュニティのイベントに参加したのですが、登壇者や参加者のエネルギー量が凄いなぁと感じました。
(初めて参加したのが Scrum Fest Osaka 2021で、尋常じゃないタイムテーブルに圧倒された・・・という印象も強いかも知れませんがw)

なんというか、参加者同士が持つ創発的なエネルギーや、「(マネジメント3.0で語られているようなニュアンスでの)職場をもっと幸せなコミュニティにしたい」という場の空気を感じられました。

そんなエネルギー、パッションみたいなものを本書を読んで思い出しました。(特に第3部)

「原点」に立ち返って考えるスクラム

第10章「竹中・野中のスクラム論文再考」では、「論文のスクラム」と「アジャイルスクラム」を比較して論じています。
自分は本の論文をまだ読んだことがないのですが・・・
根底にあるコンセプトや全体性はほとんどそのまま継承されている、としつつ「ソフトウェア開発の文脈との比較」「スクラム(ガイド)では、どこにあたるのか?」といった観点で説明されています。
強いコンセプトを持つオリジナルに遡って知ることは、例えば「アレグザンダーのパタン・ランゲージに触れてみる」のような、自身の認識をアップデートすると同時に、原初たる方向性を確認することにつながってちょっとした自信のようなものを得られると思います。

更に、10章の後半にはサザーランド氏へのインタビューが続きます。これもまた原点を知れる嬉しいコンテンツです。
氏の原体験や視点については、先日紹介した「スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術」でも学ぶことができますが、本書では「竹中・野中がどうやって活きているか」や、やはり出会うべくして当該の文献に出会ったということで、「そもそも、なぜそうした組織・働き方に関心を持っていたのか。何を望んでいたのか?」が語られています。

このあたりは、やはりスクラムに惹かれた人間からしてみるととても面白いのです。

まとめ

全体的に、「(本や研修だったり実践を通じて触れている人にとっては)スクラムについての新しい知識・テクニックを提供する」という本ではないかも知れません。
ただし、第一人者たちの語る言葉には力があるなとも感じ、読後感としては「スクラムっていいよね、もっと楽しくできそうだな」と励まされたような気持ちになりました。

1人で読むより、同じような仲間たちと「どの部分が良かった?」なんて感想を言い合うのが楽しい本かも知れません。

「カンバン仕事術」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-8です。 adventar.org

day-8は「カンバン仕事術」です。

どんな本

ソフトウェア開発の文脈における「カンバンって何だ、どう凄いんだ?どう使っていけばいいの」という問いに答える本を1冊挙げろ、と言われたらこの本の名前を出すと思っています。
文体はカジュアルより(ゆるいイラストのキャラクターがでてきます!)だし平易でありながら、プラクティスの解説や背景理論の紹介も取り扱っている本です。

カンバンのコアである「スループットを計測せよ」「フロー効率を挙げろ、WIPを制限しろ」の実践方法を説明してくれます。
個人的には、This is Leanで「フロー効率」に関する理解を得て、この本で「カンバンとは?どう使うか?」を学んでみると、明日からでもやってみたいような気持ちになりそうだな!!と感じています。

基本的には、架空のチームが「うまくいくためにカンバンに取り組んでいく」という体裁になっており、1つ1つのプラクティス、それが必要となるコンテキスト、採用に際して心得るべきポイントを紹介していくような流れです。
そのため、「どんな事をすると良いか」の紹介が具体的になっています。
(読みながら「詳細すぎるな」と感じる部分は、パパっと読み飛ばしてしまっても問題ないはずです。そうした読み方をしても迷子になりにくそうだな〜と思うのは、ひとえにとっつきやすい文体と丁寧な説明が行われているからです)

お気に入りポイントかいつまみ

カンバンについてわかりやすい、やってみたくなる

個人的に、この本に注目したのは「スクラムをやるか・・?しかし、ちゃんとしたスクラムをやるには必要な条件が満たせなそうで曖昧なものになりそう。となると、プラクティスを削って"Scrum But"になってしまうのが関の山に感じる。アジャイルに動けるように志向したいが、うまく失うものを抑えて取り組めることはないか・・?」という流れでカンバンに興味を持ったからでした。

この本はその期待に十分に答えてくれます。

最初に「まず、こういう事をやってみましょう」というプラクティスやルールを説明したあとで、徐々にリーンの哲学についての言及も増やしていっているような流れに感じました。
そうした構成もあってか、「手軽にやってみてOK」というメッセージを発しているような印象を受けました。 「説教臭さ」みたいなのは少ないと思います。

「WIPの制限」について知ることが出来る

色々な原則や理論が(当然ながら)紹介されていますが、カンバンについてしっかりした知識がない状態で本書を手にとった自分にとっては「WIPの制限」というコンセプトがとても新鮮に感じられました。
その前提となる「バッチサイズを小さくする」という話も勿論扱われており、そうした上で「カンバンというプラクティスを最も効果的にしていくには("ならでは”の価値を生むには)、WIPの制限だな」という感想を持ったのです。

この辺りは、

  • 5章: 仕掛り作業
  • 6章: WIP制限
  • 7章: 流れの管理

で紙面を割いて丁寧に掘り下げられています。

ただの「タスク管理ツール」としてのカンバンを使ったことがある人であれば、3,4章はについては目新しい情報は少ないかも知れません。
自分にとっては、5章からが「カンバン」やこの本自体の本領発揮だなーという風に感じました。

カンバンをベースとした(生産性の)改善

11章に「改善のガイドとなるメトリクスの使用」という章があります。
継続的な改善ができるかどうかが、真の意味での「よい取り組み・プラクティス」といえるかどうか?の境目ではないでしょうか。
そうした意味で、「何をやっていくべきか」までしっかり抑えられているのは嬉しいです。

具体的には、以下のメトリクスについて解説されています

  • サイクルタイム
  • リードタイム
  • スループット
  • ボードにある課題やブロッカーの数
  • 納期遵守率
  • 価値要求と失敗要求

その上で、どう見える化するか?について2つの図を紹介しています

  • 統計的プロセスコントロールチャート(SPCチャート)
  • 累積フロー図(CFD)

何をするにしても一定期間が経つと「自分たちはうまく行っているのだろうか?」という心配がつきまといます。
その時に縋り付ける情報・テクニックがあるのはありがたいなーと思います。

まとめ

カンバン/Kanbanについて初めて学んだ本が、カンバン仕事術でした。
(恐らく非常に良い選択をしたと思っています。)

スムーズに行って気持ちのいい開発は楽しいもので、そのために状況やチーム課題にあった取り組み方を選べるように、引き出しを増やしておきたいものです。
そのためには「広く・本質的に知る」ことが欠かせません。

カンバンについては、この本がそのための案内人たる1冊になってくれるのではないでしょうか

「 アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方―――一人ひとりの能力を100%高めるマネジメント術」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-8です。 adventar.org

day-8は「アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方―――一人ひとりの能力を100%高めるマネジメント術」です。

どんな本

タイトルからしても、これが何で「スクラムとかの本のアドベントカレンダー」に入っているのか・・?という感じかもしれませんが。
「自己管理型チーム」そして「どのように実現するか」について書かれた本、としてココに置いています。
リーダーシップ論的な内容になりますが、チームを理想状態に連れて行くミッションを持っているスクラムマスターにとっては非常に深く関係する話だと思います。

CAL-1の研修でも事例として紹介された内容でした。 (確か認定スクラムマスター研修を受けた際にも紹介された、という気がしていたのですが・・記録が確認できなかったので不確か)

www.youtube.com

本書の内容は、研究や理論に裏打ちされた話をベースに、事例を紹介していく!!
という方向性のものではなくて、あくまでデビッド・マルケ氏の行ってきたことを紹介するという内容です。
そのため、ある意味では「成功者の自慢話」という属性もあると思います。眉唾に思えるかも知れません。
しかしながら、そこにあるのは確実に具体的なアクションであり、読者はリアルな印象を受けながら読み進めていくような体験になると思います。

いかに部下にとっての安全性を育むか、その安全性をしっかり活かせるように「自分の頭で考える・判断する」ように仕向けるか、失敗への向き合い方、自己効力感を高めたり、「全体を見る」ことの重要性と効果を現場に根付かせるか・・・などなど、理想的な組織像・リーダー像が描かれています。

お気に入りポイントかいつまみ

「綺麗事」で終わらせない「変革」の生み出し方

1冊を通じて、随所に「ただの理論・理想で終わらせずに、徹底的にそこへ向かうリーダーシップ」が描かれています。 そして、その態度は徹底して自責的です。

心に残った箇所をいくつか挙げると、

"真のリーダーシップとは、「教訓」ではなく、「実例」によって示されなければならないのだ。"

マイケル・アブラショフ. アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方一人ひとりの能力を100%高めるマネジメント術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.366-367). Kindle 版.

人は言葉を喋りますが、心からの理解を生むのは難しいものです。
「実例」というのは、考える人にとって最も説得力を持つ形なんだと思います。

"私自身は、自分が思うような結果を部下たちから得られなかったときには、怒りをこらえて内省し、自分がその問題の一部になってはいなかったかどうか考えた。自分自身に次の三つの質問を投げかけたのである。
①目標を明確に示したか?
②その任務を達成するために、十分な時間と資金や材料を部下に与えたか?
③部下に十分な訓練をさせたか?"

マイケル・アブラショフ. アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方一人ひとりの能力を100%高めるマネジメント術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.379-384). Kindle 版.

これも中々に胸に刺さる言葉・・・
ただ、「どうして動かないんだ、あちらにどんな原因があるんだ」と考えるより「自分がもっと出来ることがあるだろうか?」と捉えるのはヘルシーなことだと思っています。
(そういう考えに至ったのは、本当にココ数年ですが。。)

とりわけ「目標を明確にしたか」というのは、最近しばしば考えることもあったので、改めて大事にしたいなぁと思わされました。

自信は伝染する。うぬぼれだろうが見えすいた言葉だろうが、大きな成果がある。実際にはまだいちばん優秀と認められていたわけでなかったが、われわれは確実にその〝ゴール〟へと向かっていた。

マイケル・アブラショフ. アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方一人ひとりの能力を100%高めるマネジメント術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.593-595). Kindle 版.

これは、「他の艦隊に向けて、自分たちの船を”最も優れた艦”と称した」というくだりの後に繋がっています。
「言葉一つで揺るぎない信頼を築く」として語られており、そうした「隅々での配慮・振る舞い」が大きな自信につながるんだなと考えると。
力強く前に進む際に、個人であれ集団であれ、自信は非常に重要なものだと思います。その「自信をどう作るか」みたいなヒントは、いくらでも引き出しに入れておきたいものです。

まとめ

とにかく「心から部下を信じる」ということを徹底的にやっている、というのが本書の物語への感想です。
ただし、それは「先天的な楽観主義」や「ある種の悟り」によるものなのではないと思います。
自身の経験も踏まえて、その「他人を信じる、他人の存在に尊敬の念を向ける」というのをやろう!!という意志と努力、信念や忍耐を感じました。

まず「読んでいて元気をもらえる本」であったし、その上で心に刻みたい文章がいくつも散りばめられていました。
また折に触れて手にとってみたいな、と思います。その時々でまた新しい発見がありそう

「OODA LOOP(ウーダループ)―次世代の最強組織に進化する意思決定スキル」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-7です。 adventar.org

day-7は「OODA LOOP(ウーダループ)―次世代の最強組織に進化する意思決定スキル」です。

どんな本

スクラムの考え方にOODAループが大きな影響を与えている、という言及のされ方をチラホラと見かけるので、このカレンダーに入れています。

OODAループについてはコチラ。 ja.wikipedia.org

さて、本書は「OODA LOOP」というタイトルであり、実際に行動ツールとしてのOODAループを取り扱っています。
しかし、実際には「OODAループ的な思考態度で動ける組織を、どう作れば良いのか?」というのが主題であったように感じます。
むしろ「ビジネスノウハウ」的な観点で言えば、これよりも適切な本があるかもしれません。
いってみれば、「スクラムはタイムボックスベースで高頻度なコミュニケーションを用いてすすめる開発手法」と捉えるか「スクラム自己完結型組織の実現を目指して、よりよいコミュニケーションを実践しながら適応的な動きを志向したもの」と捉えるか?くらいの違いがありそうです。

という訳で、「その考え方がなぜ大事なのか」「それが重要になる局面とはどのようなものか」が分かる本です。

「日本語版への序文」の一節で、その雰囲気が感じられるでしょうか。

企業は調和のとれた情勢判断を活用し、「暗黙のレパートリー」(implicitrepertoires)を拡充していく必要がある。すなわち、フォーマルな審議や官僚的手続きを抜きにして、共通の情勢判断から迅速かつスムーズに一連の行動が実行されなければならない。暗黙のレパートリーとは暗黙的に実行される行動の束のことを意味する。
本書は、これをいかにして実現することができるのかについていくつかのアイデアを提供する。その結果、『ハーバード・ビジネス・レビュー』の記事が結論づけているように、ベストな企業は新しい方法を創造するのである。OODAループ・モデルはまた、チームメンバー間で類似した情勢判断を醸成する学習ループを含んでいる。その学習プロセスのなかで新しい行動が暗黙のレパートリーに加えられていく。

チェット リチャーズ. OODA LOOP(ウーダループ)次世代の最強組織に進化する意思決定スキル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.108-116). Kindle 版.

お気に入りポイントかいつまみ

OODAループについて勘違いをしていた!と思った

PDCAサイクル」と比較することもあってか、よく「観察→情勢判断→意思決定→行動」という流れをたどるものであると言われる気がします。 しかし、理想的なOODAとは「暗黙的な情報をそのままにしてでも、状況に応じて高速に進める」ことであり「それが適わない場合においてのみ、”意思決定”のステップを挟む」とされています。

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そして、これ(理想のフロー)を回せる組織は強力な優位性を確保できます。

また、もう1点の自分の中で更新された知識としては「観察」についてです。
以前は、かなり受動的に「あるがままを認める」的なパートなのかと考えていました。主観を挟まずに、ニュートラルな状態で判断をするような。

しかし、実は「主体的に情報を揃えろ」という事になっています。
なんというか、前提として「戦場・空中線で勝ち抜くために考えられたもの」であるので、本当に一刻の余裕もないな!という感じです。
以下の一文が端的に「観察」を語っているのではないでしょうか。

まず、観察は単に「見る」(see)以上のことを意味する。「吸収する」(absorb)という言葉のほうが、その消極的な意味合いがなければ、より適切かもしれない。「外に出て、可能であればどのような手段をとってでもあらゆる情報を取ってこい」という文章のほうがさらに真意に近いだろう。

チェット リチャーズ. OODA LOOP(ウーダループ)次世代の最強組織に進化する意思決定スキル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1615-1617). Kindle 版.

「最強組織」になるために必要なこと

先程、「意思決定」を挟まずに進めるのが理想という点に言及しました。
すなわち、「上司の判断を待たずに動ける」ことで機敏で適応的な行動につながるようなイメージです。 本書では「皮膚感覚で判断する」という表現が頻繁に用いられています。

そのためにはどうするか・・・?というと、「考え方を揃えておく」というものです。
ここで「ミッションを理解し、浸透しておく」といった、言ってしまえば「いつもどこかで聞くような」話になっていきます。
アジャイルな組織づくりでも見かけるし、「ユニコーン企業のひみつ」でも書かれていたし、結局の所は組織の末端まで「自分の脳みそで動ける」ことが不確実性の時代における競争力の源泉なのだな・・・と感じました。

本書の主題は(副題を見て分かるように)組織づくりに置かれています。
例えば第4章「OODAループはビジネスに何をもたらすか」や第5章「OODAループを高速で回すための組織文化」などは、非常に興味深いのではないでしょうか。

まとめ

軍事ものとしての側面もあったり、「読み物としても興味深いな」と感じる面も多くありました。他方で、人によっては「少し冗長かも・・・?」と感じられる面もあるのかも知れません。

個人的には、「期待していたものをいい意味で裏切られた」という面で予想以上の内容でした。 読む前は「OODAループって、何となく知っているけどどういうものなんだろ〜」が知りたかったわけですが、蓋を開けたら「機動戦を制するための指南」という感覚のほうが近いです。そして、それは「単なるツール」を超えて「どうやって備えておくか = 組織を作っておくか」の方が寧ろ重要になってきます。

もし興味を持った人がいたら、巻末にある「訳者解説」をめくってみると雰囲気が分かりやすいかも知れません。

最後に2箇所ほど引用して、本日の記事を終わりにしたいと思います。

たとえば、本書でも強調されているように、OODAループは「観察」→「情勢判断」→「意思決定」→「行動」と時系列な段階を経て進展していくことを想定しているのではない。それは暗黙的コミュニケーションに失敗した場合であり、理想は、「観察」→「情勢判断」→「行動」のサイクルである。

チェット リチャーズ. OODA LOOP(ウーダループ)次世代の最強組織に進化する意思決定スキル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4698-4701). Kindle 版.

ここにあるように「失敗した場合であり」というのは、なかなか衝撃的な見方でした。

機動戦とは決して「鳴かぬなら鳴かせてみせよう」という奇策のことではない。あくまでも事実を素早く観察し、そこから事態の趨勢を判断し、決断につなげていくことである。つまり、「形」を観察しつつその背後にある「勢い」を洞察することがOODAループを効率的に回していく鍵だと思われる。情勢判断であるOrientがビッグOと呼ばれる理由はここにある。
このOODAループを単なる仕組み、ハウツーとしてだけ捉えたとすれば、その本質を見逃したことになるだろう。老子孫子リデルハート→ボイド、という系譜に共通する糸は、できるだけ戦いを避けるという不争の徳であり、無の働き、勢いの流れ(それはしばしば心理的な勢いとなる)に逆らわずにしたがうということ、そして、その勢いの方向性を有利な方向に展開するように、形を通じて間接的に働きかけるということである。

チェット リチャーズ. OODA LOOP(ウーダループ)次世代の最強組織に進化する意思決定スキル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.5266-5274). Kindle 版.

「LeanとDevOpsの科学[Accelerate] テクノロジーの戦略的活用が組織変革を加速する」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-7です。 adventar.org

day-7は「LeanとDevOpsの科学[Accelerate] テクノロジーの戦略的活用が組織変革を加速する」です。

どんな本

リーンシンキングをベースとして、「高パフォーマンスな組織とはどういうものか、何ができているのか」について考察と提言をしている本です。
本文に入る前に設けられているクイックリファレンスの表現を借りれば、"ソフトウェアデリバリのパフォーマンスを改善する効果の高いケイパビリティを24個特定できた”としており、それらを5つのカテゴリに分類しています。

  1. 継続的デリバリの促進効果が高いケイパビリティ
  2. アーキテクチャ関連のケイパビリティ
  3. 製品・プロセス関連のケイパビリティ
  4. リーン思考に即した管理・監視に係るケイパビリティ
  5. 組織文化に関わるケイパビリティ

(例えば、書籍「プロダクトマネジメント」で語られているような)マーケットにおいて高価値性を発揮するプロダクトを発見し開発するには?といった話まではスコープではないかも知れませんが、ソフトウェアデリバリ(平たく言ってしまえば「素早い開発、高頻度なデプロイ」のようなもの)が「成功する組織」の鍵になっているものと捉えて、その実践方法を紐解いていきます。

その上で、「生産性を計測するメトリクスとは」を探り、「ハイパフォーマンスな組織とローパフォーマンスな組織の生産性(≒競争力)の開き」を暴き、そして「組織文化」「マネジメント/プロセス」「技術プラクティス」といった多角的な観点で「成功の秘訣」を扱っていきます。

本書の特徴としては、徹底的な「エビデンスありき」な点が挙げられると思います。
"ソフトウェアの開発とデリバリを高速化し、ひいては組織全体への価値提供をも高速化する効果が高いのは、どのようなプラクティスとケイパビリティなのか"という研究をした結果を基にしたものであるとし、その研究は”寒冷上、学問の世界でしか用いられてこなかった厳格な研究方法を用い、結果を産業界にも公表することで、ソフトウェアの開発とデリバリの状況を改善すること”に目的があったとしています。
(いずれも「はじめに」より)

加えて、「本研究の動機」については、”ハイパフォーマンスな技術系組織を生み出す要因は何か」「ソフトウェアは組織をどのような形で改善しうるのか」を解明するためであるとしています。
この「ハイパフォーマンス」のベースがリーン思考にあり、すなわち「フロー効率を高める」「価値(マーケットにデリバリをする)に直結する活動を増やす」といったものを「正」としているという事になります。

第1部で研究結果と考察を、第2部ではその研究自体の調査・分析手法に関する解説、第3部では取り上げたケイパビリティのもたらす効果に関するケーススタディという構成になっています。

最近は紙書籍を読む時は付箋を使って見るようになったのですが、かなり貼りまくりな形になりましたw
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お気に入りポイントかいつまみ

ケイパビリティ

「どう測るか、どう伸ばすか」に徹底的に拘っているのが本書ですが、その鍵になる=観察対象とすべきは「ケイパビリティだ」ということを述べています。

すなわち「計測して、変革して、結果を出す」ことが必要になるわけですが、その計測・評価については「成熟モデルではなくケイパビリティモデルを用いるべき」とのことです。
これらは第1章1節にて述べられています。

成熟度モデルでは「特定の成熟段階に達成すること」が目的とされており、また各段階において取り入れるべきソリューション(テクノロジー、プラクティス、ケイパビリティ)が提案される・・しかし、それは過度なモデル化のような弊害を呈しており、非現実的であるとしてきしています。
ケイパビリティモデルは、より流動的な状況を想定します。「特定のケイパビリティが、組織の改善にどのように貢献しているか」を評価しながら、特定地点への到達よりも「更に効果を出すこと」を目的としており、企業や組織の状況に応じたアプローチの採用と重視すべきケイパビリティの剪定を伴うことが可能です。

「過去のプラクティスを重視する」のはクネビンフレームワークで言うところの安定が優位な世界(右側の象限)に当てはまると思います。本書の説明するところの成熟度モデルは、これらに当てはまるように感じられ、他方のケイパビリティモデルはより「探索的」なアクションを促すのかな?と感じました。

ケイパビリティとはなにか?について、一言ではなかなか掴みにくい感じもありますが、本書を通じて「ケイパビリティこそ向き合うべき」という感覚は味わえるのではないかと思います。

4つのキーメトリクス

「デリバリに関するパフォーマンスを定量化する」というのはとても野心的な目論見に感じます。しかも、シンプルで少ないメトリクスで測れるものなのか・・?
それをやり遂げたのが、本書の最も価値の高いポイントの1つであると思います。

第2章2節においてとりあげられています。(ずっとこの辺りの話は出てくるけど、最初に概説されるのがこの部分)

たとえば「コード量」が「生産性」として用いられれば「ムダに長いコード」ができますし、「クローズしたチケット数」だけを取ると「バグだらけでもマージする」といった反作用をもたらしかねません。
こうした点も考慮しつつ、以下の4つの項目がキーメトリクスになると結論づけています。

  1. リードタイム
  2. デプロイの頻度
  3. 平均修復時間
  4. 変更失敗率

リードタイムについては、リーンでやっていれば欠かせない観点になると思います。
また、デプロイの頻度についても「バッチサイズ」として捉えることができるとリーン思考の最重要観点であるというのは同意できるはずです。「デプロイ=バッチなのか?」を成立させている根拠は、「バッチサイズを小さくすることで、フロー改善・安定とフィードバックの高速化が得られる」ことから代替的に利用可能なものとされています。工業製品と違って「1度に出荷できる量」という概念こそ存在しないものの、デプロイであれば「出荷」でありながら計測の容易性も担保できるのです。

MTTRについては、「複雑化した原題のソフトウェアに置いて欠陥を出さないことは難しい」とした上で、「組織は、故障が発生した後の対応力・機動性を高める必要がある」という意味合いで重要視しています。
かといって、故障の数が増えれば対応コストが上がる事は免れません。非付加価値活動にコストを割くことは、リーンではないでしょう。そのために変更失敗率=プラスの価値活動に対するマイナスの活動の割合、というのも最重要項目の1つになる、とのことです。

これらのメトリクスを基にして「パフォーマンスの高い/低い組織」というのを炙り出すことができます。
その結果が本書にて紹介されていますが、定量化された数値で如実に「ハイパフォーマンス組織の壁」が現れていて、唖然とするくらいでした・・

この辺りの話は次の記事も興味深いと思います。 codezine.jp

リーンと品質

変更失敗率という話がでてくる、というのは先述のとおりです。
くわえて、個人的に「低品質がムダを生む」という文脈でハッとさせられた部分が他にもありました。

第4章3節に「品質に対する継続的デリバリの効果」というセクションがあり、ここでは「継続的デリバリというプラクティスが品質に好影響を与えるであろうという仮説を、どういう指標で評価すればいいだろう?」という話がなされております。
「品質を測定するには何を見ればいいか」です。

その過程で、変更失敗率以外にも意味のありそうな項目も用意していたとのことでした。

  • アプリケーションの質とパフォーマンスに対する担当者の治験
  • 修正作業や予定外の作業にかかった時間の割合
  • エンドユーザーがいつけた不具合の修正にかかった時間の割合

これら全てが「デリバリのパフォーマンス塗装感を持つ」とのことで、その中でも「予定外の作業時かかった時間の割合」の相関が強かったようなのです。
「作業時間の全体」に対して、例えば「不具合の修理・調整」「緊急デプロイ」「監査書類の緊急作成養成」などの作業時間が占める割合です。 継続的デリバリによってこの項目が低下(向上)すると言われています。

ハイパフォーマーの場合は新たな作業に費やす時間が49%、予定外の作業や修正作業に費やす時間が21%であったのに対し、ローパフォーマーの場合はそれぞれ38%と27%であった。生産工程の最初から「品質」の概念を組み込むのに失敗したことを示す事象が修正作業や予定外の作業であるため、この事象は品質を測る有用な尺度となりうる。

4.3 品質に対する継続的デリバリの効果(P63)

「品質の定量化」や「品質の低下によって失われるモノ、発生するコスト」というのは非常に説明が難しいものだと考えています。
その点で、こうした観点は、計測値が何を示しているのが実感を持って理解しやすい上に「現状を生々しく反映してくれそうだな」と思い、とても興味深く感じました。

組織文化とパフォーマンス

「パフォーマンスに影響するものはなにか」の調査ということで、組織文化にも焦点を当てています。
例えば「変更失敗」や「リードタイム」に対して、「組織やそこで働く人がどういうものを大事にしているか」が影響しそうだというのは直感的に理解できるのではないでしょうか。

組織文化が「基本前提」「価値観」「アーティファクト」からなるとした上で、特に「価値観」に注目して扱っています。

組織文化を3つに類型化しています

  1. 不健全な(権力志向の)組織
  2. 堅牢的な(ルール志向の)組織
  3. 創造的な(パフォーマンス志向の)組織

これらは、例えば「失敗」に対する態度にも影響してきます。 そして、この「3タイプの分類でハイパフォーマンスの良し悪しも予測できる(P40)」という先行研究の結果を取り入れて、本書の話が進みます。

リーンにせよDevOpsにせよアジャイルにせよ「態度」の問題は最重要視されている内容の1つですが、それを「どう測るか」「どう影響しているか(パフォーマンスに差が出るのか)」という観点で踏み込んで話しているのはとても面白かったです。

第11章では変革型リーダーシップの話も出てきたり、第16章でもリーダーシップとマネジメントが扱われていたりと、本書が技術的プラクティスだけではなくもっと総合的な課題に向き合っていることが感じられます。

まとめ

「非常に濃密!!」という印象を持った本です。
全体で250ページ強と手に取りやすいボリュームで、とにかくリーダー層やマネジメント層にいる人たちは問答無用で読んで欲しい・・・という風に感じました。
とりわけ、第1・3部が必読だと思います。

DX系の話題や技術組織づくりの文脈で、カンファレンス発表等での引用が多く見受けられる書籍です。
自分が学んだり感じたことの3割程度しか言及できていないような感覚もありますが、素直に「かなり良かったな」と言える本でした。

「チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで 」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-6です。 adventar.org

day-6は「チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで」です。

どんな本

「チームをどうしていくか」という本です。
プロジェクトをどうマネジメントしていくか?プロダクトをどうデザインしていくか?という話が主ではなく、あくまでテーマは「チーム」や「リーダー」にあります。いわゆる「アジャイル開発」といった場合に多くの人にとって真っ先に想起されるであろう、「品質を保つために」「期限を守るために」「価値を磨き上げるために」といった話とは、違った所に焦点を当てています。 (いちおう、本書に登場するチームのスタイルはスクラムを基調としており、必須ではないものの各イベントやロールについての基礎的な知識もあると読解をする上での助けとなるかも知れません)

カイゼン・ジャーニーの著者の1人である市谷さんの著作であり、本の構成・アプローチは共通しています。そのため、もしカイゼン・ジャーニーが読みやすかった人であれば安心して読めるかと思います。また、物語の世界設定は引き継がれています(それ自体は内容を理解する上での障壁とはなりませんが、知っている名前が出てくるのは何となく楽しいものですよね)

アジャイルな開発をやっていく」と言った場合に、チームの底力というのは無視できません。teamingが必要であり、方向づけや相互理解は不可欠です。
XPの5つの価値、スクラムの価値基準にて掲げられる「Courage」「Respect」は疑うまでもなく「良いチーム」に強く求められる柱ですし、アジャイルマニフェストの背後にある原則での 意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成します を達成してこそbe agileが手に入るものです。

しかし、たまたま集まった個人の集合を「背中を預けあえるチーム」にするのは、一筋縄ではいきません。
誰にとっても平等に安全なチーム・・というのを築くのは難しいことですし、ましてやチームを取り巻く状況は刻一刻と変化していきます。困難に対して、リーダーが中心になって立ち向かっていく必要があるのです。1つの壁を乗り越えれば、また次の壁が現れます。同じレベルの要求ばかり提供され続ける、なんてことはありえないので。
「いいチームであり続ける」ことが成功するチームの条件です。

本書では、チームが歩みを進めていく「ジャーニー」を、その時々において向き合うべき課題と(必要に応じて)プラクティスをふんだんに紹介しながら描いていきます。
2部構成となっており、第1部が「単一のチーム」、第2部が「複数のチーム・組織」が話題です。

お気に入りポイントかいつまみ

「ファースト」の考え方

「どこに向かうか」を揃えることがチームにとって必要ですが、「チームに求めること・何を重視するか」も意識する必要があります。
これを本書では「ファースト」という概念で扱っています。それによってリーダーシップのスタイルも変わる」、と。

例えば「チームの成長」のファーストを取れば「自走できるようにする」「気付きを与える」ことが重要になり、コーチとしてのリーダーになりそうです。あるいは、「タスクを徹底的に潰すことで成功に導く」のであれば、コマンド&コントロール重視で統制的なリーダーになります。チームが持つ力を遺憾なく発揮していくことだ、となればサーヴァント型のリーダーになるかも知れません。

チームのメンバーや取り巻く状況に応じてリーダーがスタイルを変える必要がある、というのはエラスティックリーダーシップにも詳しく説明されています。
「今どんな状況にあるか?」への観察によって、適切な判断をしながら、その局面において何を重視すべきか?を自覚的に選択していけるのが理想です。
本書のストーリーは、最初の状態からチームが理想的にワークするところまで「こういう課題があるので、このファーストを選択する(あるいは、そのファーストが選ばれている状態に、どう向き合って連れ出すか)」といった方法を見せてくれます。

具体的には、第1部の状況は次のように説明されています。

  • 第1話: タスクファースト
  • 第2話: タスクファースト
  • 第3話: チームファースト
  • 第4話: プロダクトファースト
  • 第5話: チーム成長ファースト
  • 第6話: プロダクトファースト
  • 第7話: プロダクトファースト
  • 第8話: 状況突破ファースト

こうして、「状況とは変遷していくものである」ということをとても分かりやすく説明してくれています。

臨機応変さには、「観察」と「引き出し」が欠かせないと思います。
概念のインストールによって認知のフレームワークを、その観察に対して適応すべき手法のカタログを提供してくれるような本になっています。

生々しいチーム

これは・・・個人的には「読んでて嫌な気持ちになるくらい辛いチーム状況」だったり「自分がリーダーやっている時に周りにいたらメチャクチャ嫌な奴」というのが、しっかり描かれています。
(だからこそ立て直していく価値があるのですが・・・

「チームにとっての困る存在」という部分へ個人的にとても深く共感ができた事が、本書の説得力を増しています。

(「お気に入り」なのか「嫌い」なのかは微妙なところかもしれない

幅広プラクティスと理論

先の「ファースト」の話もそうですが、「チームや組織の直面する課題」というのがしっかりと言語化されて説明されています。
モデルだったりパターンだったりを用いながら、「こうした問題が如何に発生し、どういう形で現れるか」の根拠を示してくれるような感覚です。
そうした「左脳で理解する」という側面が、自身では未踏の自体に対しても観察眼を提供してくれるのではないでしょうか。

また、それぞれに対して適用可能なプラクティスというのもふんだんに紹介されているのも嬉しいポイントです。
「こういうワークショップをすることで、チームの目線を揃えよう」といった話だったり「こういう役割分担・フォーメーションで問題に立ち向かおう」など、立ち振舞の引き出しを増やしてくれます。

まとめ

この本は、今までいろいろな本を読みながら「どういう風にチームを作っていくか」と考えていた時期に手にとった1冊でした。
なので、自分にとっての新しい発見がめちゃくちゃ多い・・・とまでは行かなかったかも知れませんが、「しっかりとまとまって1冊だけで十分に使える」という手応えを感じたのは確かです。
実際に、社内で新しくリーダーを務める人や「チーム作り」に興味を持ち始めたメンバーに対して、「ひとまずこの本の第1分を読んでみて」といって紹介したりしています。

もちろん、自分自身として「何も発見や学びがなかった」ということは断じて無く、改めて認識したり、アップデートしたり、新鮮でグサッときたコンセプトなどもいくつもありました。

「チームしたいね!!」という人にはとてもおすすめです。