「This is Lean 「リソース」にとらわれずチームを変える新時代のリーン・マネジメント」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-6です。 adventar.org

day-6は「This is Lean 「リソース」にとらわれずチームを変える新時代のリーン・マネジメント 」です。

どんな本

day3-day5で「リーンソフトウェア開発」についての書籍を取り上げてきましたが、こちらは「ソフトウェア」な本ではないです。
より純粋(?)に、「リーンとは何であるか」を解説した本です。
確かに、タイトルの通り「これがリーンだ!」という所に注目している内容でした。「どうやるか」みたいなHowToやプラクティスの話でなく「リーンそのもの」が本書のスコープです。

まえがきより。

本書の目的は、シンプルにすることの美しさを明らかにすることにある。〝リーン方式〟に関連する用語や方法論の誤解を取り除き、「ジャスト・イン・タイム」や「見える化」などの主要原則を用いたフローの効率という基本に立ち戻り、リーンの意味を再定義する。

二クラス・モーディグ,パール・オールストローム. This is Lean 「リソース」にとらわれずチームを変える新時代のリーン・マネジメント (Japanese Edition) (Kindle の位置No.32-34). Kindle 版.

どのくらい「具体的でない」か?というと、恐らく多くの人が「リーン(手法)」と聞いた時に想起するであろう「(固有名詞としての)カンバン」が本書には1度もでてきません!(「ビジュアルプランニング」という単語は5回でてきています)
そうではない道筋で「リーンとは」を説明しているという事になります。

そうした「ツール」「各論」的な材料の代わりに、本書では2種類の効率性に終始一貫して注目しています。
原著の副題が「Resolving the Efficiency Paradox」であるように、リーンとは何であるのか(何を解決しようとしたものなのか、どういった点でパラダイムシフトをもたらしたものなのか)を「効率性」の観点から説くのです。

それが、「リソース効率」と「フロー効率」でした。

監訳者まえがきに以下のような表現があります。

"リーンを正しく理解し、組織的に実践していくためのカギは流れにある。本書のキーコンセプトとなる〝フロー効率〟という概念だ。本書はあらゆる業種・業態の組織が手持ちのリソースの稼働率ばかりに目を向ける〝リソース効率偏重〟主義から脱却し、フロー効率を用いて顧客ニーズの芯を捉えた活動に焦点を当てるリーンの実践を行うための枠組みを提供する。"

二クラス・モーディグ,パール・オールストローム. This is Lean 「リソース」にとらわれずチームを変える新時代のリーン・マネジメント (Japanese Edition) (Kindle の位置No.49-52). Kindle 版.

では、「フロー効率に注目して生産活動を行う?」というのは、一体・・?という答えがこの本の中にあります。
「価値に直接結びつく活動」以外を「ムダ」なものとして、「リーン = 無駄をなくす」ようにしたい!という考え方に至るのですね。

加えて、「なぜリーンなるものの正体がわかりにくいのか?」についても課題意識を持って語っています。

"あまりにもたくさんの本が出ているので、何がリーンで何がリーンでないのか、よくわからない。リーンのことを哲学や文化、あるいは原則などのような抽象的な概念として説明する本があるかと思えば、働き方、方法、ツール、あるいはテクニックなど、もっと具体的なものとしてリーンを扱う本もある。誰からも受け入れられている共通の定義は一つも存在しない。"

二クラス・モーディグ,パール・オールストローム. This is Lean 「リソース」にとらわれずチームを変える新時代のリーン・マネジメント (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1361-1364). Kindle 版.

いわく、「リーン」と一口に言っても「着目している抽象度が違う」と。
「今、フルーツ(群)が食べたい?それともりんご(カテゴリ)?それとも青りんご(バリエーション)?」という質問を例に引きながら、次のように説明します。

”このようにたくさんの定義が存在するという事実が、リーンがさまざまな抽象度で定義されていることの明らかな証拠だ。これらの定義を抽象度ごとに分類するには、次の三つのレベルを区別しておく必要がある。
* フルーツレベル(哲学、文化、価値、生き方、考え方としてのリーン)
* リンゴレベル(改善法、品質システム、生産方式としてのリーン)
* 青リンゴレベル(メソッド、ツール、無駄の排除としてのリーン)"

二クラス・モーディグ,パール・オールストローム. This is Lean 「リソース」にとらわれずチームを変える新時代のリーン・マネジメント (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1392-1397). Kindle 版.

本書は、主に「フルーツレベル」の話を扱います。
「具体に固執すると、しなやかさを失って適用範囲が狭く、脆いものになる」というのはソフトウェア開発者であれば共感しやすいのではないでしょうか。

お気に入りポイントかいつまみ

「フローとは」がわかりやすかった

冒頭でいきなり架空のエピソードから入るのですが、重大な病気が疑われたので検査にかかろうとした患者の目線で

  1. 近所の病院に行き、精密検査が必要になったので紹介状を書いてもらい、そっちの病院でも別の検査が必要になり・・・という例
  2. ワンストップでの検査サービスを提供している病院があり、即日で検査が終わって・・という例

を挙げています。

病院サービスの価値の享受者は患者ですから、「作業時間あたりの生み出した価値」という点で、2の方が高効率となります。これが、フロー効率だと。
逆に、1の例は「専門領域ごとに分断されている」ことによって、提供側の稼働効率 = リソース効率は上がります。

リーンソフトウェア開発においた、よくフロー効率は「カンバン上にユーザーストーリーがINしてから、デプロイされるまで」のような説明をされますが、個人的には「頭では理解できるけど、それがどれだけ良いものかは腑に落ちてないかも?」という感覚もありました。
この本を読むと、ユーザーストーリーや実装されるべきフィーチャーが「潜在的な価値を持った塊」のようなものに思えて、確かに「仕掛りの時間をなるべく抑えることが重要だ」と感じられたのでした。

第1章〜第3章にかけて、フロー(効率)とはどのようなものであるか?を丁寧に説明しています。
そのうち、第3章においては「なにがフロー効率を妨げるのか」という理論を説明しており、他の本で「リトルの法則」「ボトルネックの法則」について触れたことがある人にとっては馴染みがありそうな話です。あるいは、それらの本を読んでもし「ピンとこなかったなぁ」と感じているのであれば、本書はオススメできます!

効率性マトリクス

「すべて100%フロー効率に振るべきだ!それが完璧なリーンである!!」としないところが、個人的なお気に入りポイントの1つです。
むしろ、「巷では、まるで「リーンが良いものである」というのが自明の理のように扱われることで、批判や検証が不可能なものになっている」と指摘した上で「リーンの意義を相対化して扱う」ことにも試みています。

"自明の理を避けるためにも、リーンが何のために存在しているのか、何のためではないのか、はっきりと理解することが大切だ。リーンの助けを借りてどのゴールを目指せばいいのだろうか?どのゴールを目指すべきではないのだろう?リーンはとにかくいいもので、いいものは何でもリーンだ、というわけではない。リーンとは、分かれ道に立つ選択肢なのである。"

二クラス・モーディグ,パール・オールストローム. This is Lean 「リソース」にとらわれずチームを変える新時代のリーン・マネジメント (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1503-1506). Kindle 版.

リソース効率とフロー効率をそれぞれY,X軸にとり、4つの象限を形成するマトリクスが示されています。

リソース効率もフロー効率も共に100%であることが理想状態だ!(しかしそんな事は不可能だ!)
では、「どちらを選択」すれば良いのだろう?そもそも、「なぜ不可能」なのか、何によって妨げられるのか・・・?
といった話題を扱ってでてくるのが、「効率性マトリクス」です。

いわく「変動」であり、「どんなニーズが生まれ得るか?(ex: 顧客のリクエストはどんなものがあるか?)」の予測が難しい。これが「フロー効率」を引き下げるフォースになる。「常に供給可能で、しかも信頼できるリソース(ex: 十分なパフォーマンスと機能を持ち、かつ絶対に故障しない機械。どんな仕事もできて絶対に体調も崩さない従業員)」を確保することは難しい。これが「リソース効率」を引き下げるフォースになる。

こうした変動の存在やその度合によって、「どこまでリソース効率とフロー効率が下がるか」が決定されるという考え方です。 これを用いれば、「フロー効率(リソース効率も)をもっと高められるか・高めるべきか」を整理して考えやすくなりそうです。

こうした「バランスを取っていく」という考え方や、あるいは「目標状態(x,yで座標を考える)」を設定しえるのかな?という観点は、なるほどなぁと思いました。

「ムダ」と「二次ニーズ」

顧客の価値に直接的につながるものを一次ニーズ、そうでないものを二次ニーズと呼んでいます。
リソース効率偏重は多くの二次ニーズを生みやすいものである、というのが本書の主張です。

例えば「生産機の稼働を100%にして(リソース効率)、多くの在庫ができたので、それを保管するための倉庫に移さなければ」というのが二次ニーズの例です。いわば、仕事のための仕事という感じでしょうか。

自身の仕事や職場を思い返してみると、随分と二次ニーズにあふれているなぁと思ったのでした。

"二次ニーズは組織にとって有害だ。なぜなら、それらは私たちが「余計な仕事」と呼ぶもの、つまり二次ニーズを満たすためだけに必要な追加の仕事をもたらすからだ。余計な仕事は、言い換えれば無駄ということ。なのに、私たちはそれが無駄だと気づかないことが多い。価値を増やしている、と私たちは考えるが、実際にはそうではないのである。それでもなお、二次ニーズを満たすことをやめるわけにもいかない。"

二クラス・モーディグ,パール・オールストローム. This is Lean 「リソース」にとらわれずチームを変える新時代のリーン・マネジメント (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1025-1029). Kindle 版.

「仕事が忙しいのに価値が生まれていない」みたいなのは辛いものです。
例えば「アプリケーションのバグがあるから直さなければ」は、あくまで顧客を守るためのものですが、そうした「ニーズ」は本来は必要なかったものだとも言えます。こうした話は、フロー効率やリーンとは関係ないかも知れませんが、正に「仕事のムダが如何に恐ろしいものか」という点では共通するものを感じざるを得ないのでした。
そして、スループット時間の長大化が多くの二次ニーズを生んでいるとしたら・・?それは見過ごしたくありません。より、フローの観点からの効率化をやる意義があるな!と感じます。

まとめ

Kanbanの本などを読むと「TOC理論」が根拠として用いられていますし、そこで語られるのは「確かにリソース効率100%って危ういんだね」という感想をもたらすと思います。
背景に「フロー効率を上げるべきだ!!」があるわけです。

本書は、そうしたリーンの土台となる「フローとは?」という考え方を丁寧にまとめているなぁと感じました。
また、「青りんご」の話まで踏み込まないことで、1冊を通じて話題が散逸しなくて済んでいるのも理解の助け、ひいては読書体験の向上になっています。