「カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-5です。 adventar.org

day-5は「カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで」です。

どんな本

背表紙の「本書の特徴」には、「アジャイルをこれから始める人だけでなく、もっとうまく実践したい人にも最適」と書かれています。
という感じで、アジャイル(主にスクラム)の入門〜チームへの導入くらいの位置づけの本です。

レベル感としては、SCRUM BOOTCAMP THE BOOK以上アジャイルサムライ未満な感じがしますが、この3冊については特に読む順番などは気にせずに「入門者におすすめできる、読みやすい本」と言えると思います。

架空の開発会社の小説をベースに、各章が「ストーリー」「解説」という構成で話が進んでいきます。
筆者ら自身が「これまで経験し、実践してきたことを下敷きにして、どのようにして初めて、周りを巻き込み、前進していくのかを具体的に示し」たとのことです。そのおかげで、とても現場感のあるストーリーであり解説になっていると思います。
(もちろん、主人公の吸収力や成長はすごいですが!)

スクラムを導入するぞ!」という目線ではなく、「どうしたらチームでより良い働き方が出来るんだろう?」という課題に対して、アジャイルスクラムのプラクティスがインストールされていくといった流れになります。
主にアジャイルコーチ役のキャラクターがプラクティスの輸入元です。終盤に向かうにつれて、主人公自身が自律的になり、チームも自己完結型といえる状態に進歩していき、複数チームの協働へと至ります。その要所要所で、価値や原則からコミュニケーション設計までをも含めて「前に進むために必要なこと」が取り入れられていく感じです。

扱われているのは、タスクマネジメントや「見える化」・バックログの管理やユーザーストーリー(PBI)・チームビルディングのプラクティス・ふりかえり・VSMなどのリーンよりのツール・・と多岐にわたります。
しっかり深く解説しているか?というと、文量や難易度とのトレードオフがあるので致し方ないのかなと言う面もありますが、それでも要所をしっかり抑えているし説明も平易なので十分に掴みやすい内容になっています。深堀りしたかったり体系だった知識を求めるようであれば、巻末の参考文献に当たることが可能でしょう。

お気に入りポイントかいつまみ

読みやすさがとても工夫されている

「小説仕立てのビジネス書」のようなものが嫌いでなければ、こうした「段階的に取り入れ、漸進していく」というテーマにこの形態はとても相性が良いなと感じました。
主人公が直面している課題や抱えている悩み、そこに師匠との出会いによって試練を乗り越え、「良い実践が自分や周囲を成長させた」のもわかるし、また「その前との差分」も感じ取りやすくなっています。つまり、「どういった課題が解決されたか」を主人公の表情(テキストですが)からも汲み取れるような。

その他の登場人物もキャラクターが立っているので、「あぁやっぱコイツはそういう事言うよね、わかる、厄介だな」なんて思いながら読みすすめることができました。

・・・しいていえば、チームの状況(特に序盤)が悪すぎて読んでて魂が濁るかも知れない

網羅的なプラクティス群

スクラムはシンプルなフレームワーク」なのですが、それを現場で実践するには中身が必要で、基本的には様々なプラクティスを用いて補完していくことになるかと思います。
どういう時に(コンテキスト)、何を使うか(ソリューション)?の組み合わせが重要になってきますが、その取捨選択は手腕を問われるものです。特に、「それっぽいのを表面的に取り入れた」ではミスマッチが起きる可能性もあり、ヘロヘロになりかねません。

その点、本書は形成期〜機能期までその時々に応じたプラクティスを、時に背景理論の説明も交えながら扱っていきます。
「一見うまく行ってたのにワークしなくなる」という状況設定も取り込んで、チームのむきなおりもテーマにしたり・・というのは生々しくて良いよな、と感じたポイントの1つ。

「越境」というキーワード

この主人公は「周囲に影響し、変革をもたらすエージェント」として描かれており、ムーブメントを起こす人物です(になります)。
小さなうねりをどうやって拡大していくか・・・?というのは、どの組織においても課題になるものだと思いますが、本書は一貫して「越境」というテーマを扱っています。
1人から他の個人へ伝播し、所属しているチームを巻き込み、そのチームが真の意味でチームとなり、組織のレイヤーでチーム外も巻き込んでいく・・という流れです。
(読み物なので、ハイペースではありますが)一歩一歩乗り越えていくんだな、という物語になります。「どうにかして殻を破る必要がある、境界線を超えていく必要がある」のをこの物語は知っているのです。

単なる「スクラムを導入しよう」というよりも大きな「越境をする」といったテーマの本でもあり、勇気をもらえるような気がします。

まとめ

入門書的の中でも、何となく「今からリーダーをやってみようという状況にある部下や後輩」とか「初めてチームを持ったけど悩んでいる」みたいな人に渡したくなる本かなー?いう気がしています(続編の「チーム・ジャーニー」と悩みそうですがw)。

平易で読みやすいながらも、メリハリのある本なので充実感はあると思います。