「アジャイル開発とスクラム 第2版 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-10です。 adventar.org

day-10は「アジャイル開発とスクラム 第2版 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント」です。

どんな本

スクラムの祖父」野中郁次郎氏を含む、アジャイルスクラムの最前線やオリジンとも言える3名の共著・・・
(そしてジェフ・サザーランド氏へのインタビューも掲載されています)
なんというか豪華すぎる!って感じの面子です。

3部構成となっており、第1部こそ「アジャイル開発とは?スクラムとは?」といったプラクティス、ルール寄りの話も扱われるものの、基本的には副題にある通り「経営」や「組織」の話が主題といえます。どちらかというと、エンタープライズ系やSIerの組織内で管理側にいる人に向けた話題なのかな?と感じました。
(帯の言葉を借りれば 企業のリーダー層に向けた「アジャイル」と「スクラム」の解説書 です。)

そのため、「スクラムってどうやるんだ?」とか「導入のための手引」に関しては重く扱われておらず、それよりも「アジャイルスクラムによって、組織に何がもたらされるか?」という目線です。

・・・と言いながら、読後の感想としては「この本で言いたかったことは第3部に詰まっているな」という感じです。
アジャイル開発とスクラムを考える」という部になりますが、出てくる話題は「The New New Product Development Gameの再考」「知識想像」「実践知リーダー」と進んで、「野中・平鍋対談」にて対話とリーダーシップに関する話を掘り下げてフィニッシュです。

単なる「開発プロセス」としてのスクラムに留まらず、スクラムガイドが掲げる「より⼤きな組織に奉仕する真のリーダー」であったり、ScrumMasterWayの提唱する「Entire System」のレベルに共感したり惹かれたりしている人にとっては、この第3部は必読だと感じます。

お気に入りポイントかいつまみ

読むとエネルギーが湧いた気がする

2021年は、CSMを取得した流れで初めてアジャイルスクラム系のコミュニティのイベントに参加したのですが、登壇者や参加者のエネルギー量が凄いなぁと感じました。
(初めて参加したのが Scrum Fest Osaka 2021で、尋常じゃないタイムテーブルに圧倒された・・・という印象も強いかも知れませんがw)

なんというか、参加者同士が持つ創発的なエネルギーや、「(マネジメント3.0で語られているようなニュアンスでの)職場をもっと幸せなコミュニティにしたい」という場の空気を感じられました。

そんなエネルギー、パッションみたいなものを本書を読んで思い出しました。(特に第3部)

「原点」に立ち返って考えるスクラム

第10章「竹中・野中のスクラム論文再考」では、「論文のスクラム」と「アジャイルスクラム」を比較して論じています。
自分は本の論文をまだ読んだことがないのですが・・・
根底にあるコンセプトや全体性はほとんどそのまま継承されている、としつつ「ソフトウェア開発の文脈との比較」「スクラム(ガイド)では、どこにあたるのか?」といった観点で説明されています。
強いコンセプトを持つオリジナルに遡って知ることは、例えば「アレグザンダーのパタン・ランゲージに触れてみる」のような、自身の認識をアップデートすると同時に、原初たる方向性を確認することにつながってちょっとした自信のようなものを得られると思います。

更に、10章の後半にはサザーランド氏へのインタビューが続きます。これもまた原点を知れる嬉しいコンテンツです。
氏の原体験や視点については、先日紹介した「スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術」でも学ぶことができますが、本書では「竹中・野中がどうやって活きているか」や、やはり出会うべくして当該の文献に出会ったということで、「そもそも、なぜそうした組織・働き方に関心を持っていたのか。何を望んでいたのか?」が語られています。

このあたりは、やはりスクラムに惹かれた人間からしてみるととても面白いのです。

まとめ

全体的に、「(本や研修だったり実践を通じて触れている人にとっては)スクラムについての新しい知識・テクニックを提供する」という本ではないかも知れません。
ただし、第一人者たちの語る言葉には力があるなとも感じ、読後感としては「スクラムっていいよね、もっと楽しくできそうだな」と励まされたような気持ちになりました。

1人で読むより、同じような仲間たちと「どの部分が良かった?」なんて感想を言い合うのが楽しい本かも知れません。