「スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-9です。 adventar.org

day-2は「スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術」です。

どんな本

スクラムの共同考案者でありスクラムの父と呼ばれる、ジェフ・サザーランド氏自身が、スクラムの誕生背景とともに「なぜ、スクラムなのか?」を語る本です。
技術要素はかなり少ないので、「ビジネスサイドの人」にも読んでもらいやすい内容だと思います。

"スクラムは誕生以来、ITの世界で新たなソフトウェアやプロダクトを開発する際の定番のフレームワークとなった。ただ、ソフトウェアやハードウェア関連のプロジェクトのマネジメントでは広く知られ評価されている一方、IT以外の分野ではあまり知られていない。この本が生まれた理由はそこにある。スクラムを使った仕事のマネジメント法を紹介し、IT以外のビジネスの世界に向けて解説するのが本書のねらいだ。"

ジェフ サザーランド. スクラム 仕事が4倍速くなる世界標準のチーム戦術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.69-73). Kindle 版.

(「はじめに」より)

では、どうやって「紹介し、解説」しているか?というと

  • 2章: サザーランド氏が米軍所属時代に学んだ経験(OODA的な行動原則)やその後の現場での体験で思考を深化させた過程(リーン的な思考、自己組織化など)と言った、「生い立ち」を引き合いに出してのスクラムの背景の紹介
    • もちろん「The New New Product Development Game」との出会いも
  • 3-5章: スクラムを取り入れる際に重要な要素(※スクラムガイドの「柱」とは別で)である、「チーム」「タイムボックス」「リーン/カイゼン」の紹介
  • 6-8章: スクラムを成功させるために必要な要素である「無理のない、現実的な取り組み(プランニング、Just In Timeな動き方)」や「優先順位」、「幸せに(人間的に、かつ意義のある)働くこと」の説明
  • 9章: IT分野以外でのプロジェクトにおけるスクラムの導入・活用エピソードの紹介

といった構成になっています。

その所々に「実際に筆者が出会った現場の話(炎上しているプロジェクトをどうやって導いたか!)」「自身の体験」などが織り交ぜられており、発明者の言葉で言及されることで「スクラムが、どうして・どうやって今の形になったのか?」について少しずつ納得していけるような形です。

今の時代に「スクラムを勉強する」ということは、既に名前がつけられて整えられたものに対して後追いするような形で識る・・・「まず公式を覚えてから、それを証明する」ような接し方になると思います。
一方で、この本は「生みの親」が生い立ちから語るものです。すなわち、「名前がつけられる前の出来事」だったり「どうやって発見したのか」について触れることが出来ます。

先日も触れたジョン・ボイド氏の話も出てきます。

スクラムの概要を理解してから読むことで面白みが増すと思いますが、必ずしも前提知識がなくても「なるほど、だからスクラムは効果を挙げられるんだね」というのが感じ取れるのではないでしょうか。

お気に入りポイントかいつまみ

スクラムの良さ」についての実体験が豊富に挙げられている

この本は、いわゆる「ルール本」のように「こういう仕組みになっています。実際にどう使われていくのかをみてみましょう」というものではなく、ある現場において何らかの課題があり、それを解決するための策が必要で、そうして生まれた取り組み方!のような”正引き”の順序で語られることが多いです。
平たく言えば「スクラムの元ネタ」を生みの親が語っている、とでもいうような。

また、軍隊での体験・経営学や組織理論・心理学など、スクラムは幅広い分野からエッセンスを取り入れているのだなぁという事も感じられました。

「非ソフトウェア開発者向け」であること

「開発チーム」「プロダクトチーム」でどうやっていくか?という視座は、ある意味で飛び越えて書かれている本です(勿論、その分だけ実践的な観点での解像度は下がります)。
その代わりに「スクラムは新しい働き方で、どのように世界を変えていくか」という地平で書かれているなと感じました。

実際に、第9章のタイトルは「世界を変える」です。

スクラムはソフトウェア開発の世界で始まった。今では、仕事という仕事のあらゆる分野に裾野を広げている。スクラムを採用しているプロジェクトは宇宙船の開発から給与支払いの管理、人材開発まで多岐にわたり、業種もファイナンスから投資、エンタテインメントからジャーナリズムまで幅広い。二〇年前、自分がソフトウェア開発を支援するために考案したプロセスが、これだけ幅広い分野で活用されているのを見ると感銘を覚える。スクラムは人の取り組みを後押しする。内容は問わない。
(中略)
アフリカで死んでいく人々や米国の学校で起きる暴力、人の上に立つ人が繰り返すうわべだけの行動といったニュースに、こんなものだ、仕方ないとあきらめるのは簡単だ。だがこうした困難な問題もスクラムを使って対処できる。今挙げた問題はどれも実際にスクラムを取り入れて解決に取り組んでいる人々がいて、ビジネスの世界と同様、目を見張る成果が上がっている。

ジェフ サザーランド. スクラム 仕事が4倍速くなる世界標準のチーム戦術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3194-3207). Kindle 版.

多様な領域でのスクラム事例を紹介する章になっているのですが、その内容は「教育現場」「社会問(貧困問題に取り組むNGO)」「政府」「創造的な企業での組織デザインの例」と多岐にわたります。

スクラムの理念や背景を共有することで、それが「小手先のフレームワーク」として捉えられずに、目の前の課題の解決の為に応用して実践できるポテンシャルがある・・というような事を語っているように感じました。

まとめ

スクラムって楽しいな、好きだな」と思っている人には一読の価値がある本だと思います。
「より実践的にスクラムを理解したい」や「自分のチームにスクラムを導入してみたい、入門してみたい」という要望に対しては、また違った情報リソースの方が役に立つものだと思います。
(もちろん、先述の通り「決してソフトウェア開発に従事したりプロダクトチームに居る訳ではないが、リーンやスクラムに興味がある(主に)ビジネスサイド」な人たちには、いわゆるビジネス書としてオススメできます)

個人的には、より「深み」を持って理解するための一助になるのではないか?と感じました。