「チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで 」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-6です。 adventar.org

day-6は「チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで」です。

どんな本

「チームをどうしていくか」という本です。
プロジェクトをどうマネジメントしていくか?プロダクトをどうデザインしていくか?という話が主ではなく、あくまでテーマは「チーム」や「リーダー」にあります。いわゆる「アジャイル開発」といった場合に多くの人にとって真っ先に想起されるであろう、「品質を保つために」「期限を守るために」「価値を磨き上げるために」といった話とは、違った所に焦点を当てています。 (いちおう、本書に登場するチームのスタイルはスクラムを基調としており、必須ではないものの各イベントやロールについての基礎的な知識もあると読解をする上での助けとなるかも知れません)

カイゼン・ジャーニーの著者の1人である市谷さんの著作であり、本の構成・アプローチは共通しています。そのため、もしカイゼン・ジャーニーが読みやすかった人であれば安心して読めるかと思います。また、物語の世界設定は引き継がれています(それ自体は内容を理解する上での障壁とはなりませんが、知っている名前が出てくるのは何となく楽しいものですよね)

アジャイルな開発をやっていく」と言った場合に、チームの底力というのは無視できません。teamingが必要であり、方向づけや相互理解は不可欠です。
XPの5つの価値、スクラムの価値基準にて掲げられる「Courage」「Respect」は疑うまでもなく「良いチーム」に強く求められる柱ですし、アジャイルマニフェストの背後にある原則での 意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成します を達成してこそbe agileが手に入るものです。

しかし、たまたま集まった個人の集合を「背中を預けあえるチーム」にするのは、一筋縄ではいきません。
誰にとっても平等に安全なチーム・・というのを築くのは難しいことですし、ましてやチームを取り巻く状況は刻一刻と変化していきます。困難に対して、リーダーが中心になって立ち向かっていく必要があるのです。1つの壁を乗り越えれば、また次の壁が現れます。同じレベルの要求ばかり提供され続ける、なんてことはありえないので。
「いいチームであり続ける」ことが成功するチームの条件です。

本書では、チームが歩みを進めていく「ジャーニー」を、その時々において向き合うべき課題と(必要に応じて)プラクティスをふんだんに紹介しながら描いていきます。
2部構成となっており、第1部が「単一のチーム」、第2部が「複数のチーム・組織」が話題です。

お気に入りポイントかいつまみ

「ファースト」の考え方

「どこに向かうか」を揃えることがチームにとって必要ですが、「チームに求めること・何を重視するか」も意識する必要があります。
これを本書では「ファースト」という概念で扱っています。それによってリーダーシップのスタイルも変わる」、と。

例えば「チームの成長」のファーストを取れば「自走できるようにする」「気付きを与える」ことが重要になり、コーチとしてのリーダーになりそうです。あるいは、「タスクを徹底的に潰すことで成功に導く」のであれば、コマンド&コントロール重視で統制的なリーダーになります。チームが持つ力を遺憾なく発揮していくことだ、となればサーヴァント型のリーダーになるかも知れません。

チームのメンバーや取り巻く状況に応じてリーダーがスタイルを変える必要がある、というのはエラスティックリーダーシップにも詳しく説明されています。
「今どんな状況にあるか?」への観察によって、適切な判断をしながら、その局面において何を重視すべきか?を自覚的に選択していけるのが理想です。
本書のストーリーは、最初の状態からチームが理想的にワークするところまで「こういう課題があるので、このファーストを選択する(あるいは、そのファーストが選ばれている状態に、どう向き合って連れ出すか)」といった方法を見せてくれます。

具体的には、第1部の状況は次のように説明されています。

  • 第1話: タスクファースト
  • 第2話: タスクファースト
  • 第3話: チームファースト
  • 第4話: プロダクトファースト
  • 第5話: チーム成長ファースト
  • 第6話: プロダクトファースト
  • 第7話: プロダクトファースト
  • 第8話: 状況突破ファースト

こうして、「状況とは変遷していくものである」ということをとても分かりやすく説明してくれています。

臨機応変さには、「観察」と「引き出し」が欠かせないと思います。
概念のインストールによって認知のフレームワークを、その観察に対して適応すべき手法のカタログを提供してくれるような本になっています。

生々しいチーム

これは・・・個人的には「読んでて嫌な気持ちになるくらい辛いチーム状況」だったり「自分がリーダーやっている時に周りにいたらメチャクチャ嫌な奴」というのが、しっかり描かれています。
(だからこそ立て直していく価値があるのですが・・・

「チームにとっての困る存在」という部分へ個人的にとても深く共感ができた事が、本書の説得力を増しています。

(「お気に入り」なのか「嫌い」なのかは微妙なところかもしれない

幅広プラクティスと理論

先の「ファースト」の話もそうですが、「チームや組織の直面する課題」というのがしっかりと言語化されて説明されています。
モデルだったりパターンだったりを用いながら、「こうした問題が如何に発生し、どういう形で現れるか」の根拠を示してくれるような感覚です。
そうした「左脳で理解する」という側面が、自身では未踏の自体に対しても観察眼を提供してくれるのではないでしょうか。

また、それぞれに対して適用可能なプラクティスというのもふんだんに紹介されているのも嬉しいポイントです。
「こういうワークショップをすることで、チームの目線を揃えよう」といった話だったり「こういう役割分担・フォーメーションで問題に立ち向かおう」など、立ち振舞の引き出しを増やしてくれます。

まとめ

この本は、今までいろいろな本を読みながら「どういう風にチームを作っていくか」と考えていた時期に手にとった1冊でした。
なので、自分にとっての新しい発見がめちゃくちゃ多い・・・とまでは行かなかったかも知れませんが、「しっかりとまとまって1冊だけで十分に使える」という手応えを感じたのは確かです。
実際に、社内で新しくリーダーを務める人や「チーム作り」に興味を持ち始めたメンバーに対して、「ひとまずこの本の第1分を読んでみて」といって紹介したりしています。

もちろん、自分自身として「何も発見や学びがなかった」ということは断じて無く、改めて認識したり、アップデートしたり、新鮮でグサッときたコンセプトなどもいくつもありました。

「チームしたいね!!」という人にはとてもおすすめです。