島田浩二@snoozer05さん訳の、8月26日発売「スタッフエンジニアの道―優れた技術専門職になるためのガイド」の感想のような記事を書きます。
翻訳レビューに参加した流れと、簡単な感想
今回、個人的には初めてとなる翻訳レビューに参加させてもらった関係で、物理本をご恵贈いただいた流れです。
まず圧倒的に信頼している技術書翻訳者*1であること、自分としても一応「VPoE」というタイトルで働いていたし領域的にも興味があること、翻訳レビューってやってみたいな〜!という憧れ
の100点+100点+100点の合計1000000点!!!って感じの参加動機です。
で、しかも、参加が決定して書籍名を聞いたら「もともと読もうと思って購入してたやつ!!!」となって、さいこ〜って気分でした。
実際に翻訳レビューに参加してみると、ほんの僅かとはいえ、「なるほどコレがプロの仕事・・!」と感激する部分があったり。
多種多様なフィードバックが飛んできて、そのタイミングも流れも一貫性がない中で、島田さんが1つ1つ丁寧に取り扱いながら、反映したり考えを述べたりされたいたのが印象的です。
どんなレビュー内容にも、1つ1つコメントを入れて対応してくれていて、非常に気持ちよく関わらせてもらえました。
貴重な経験の機会となりました。感謝申し上げます。
オススメ?
おすすめ。
なんで?
「技術が好きだから技術を中心軸に据えてやっていきたい」というのを、「しかし会社とはビジネスで動くものである」ことを踏まえて、「スタッフエンジニアとして組織の中で成功していくには?」「つまり、どんな風に存在価値を得ていくのか。雇用するべきだ、という価値を提供していくのか。専門技術職として組織や人に影響を与えていくとは、何なのか」を誠実に語っている1冊だと思います。
なので、うまく生き残るやり方を考えていく・・・ともすれば見直すための、指針になるような本であり、中堅以上(で技術や技術を使って何かを解決するのが好き!!)なソフトウェアないしITエンジニアにとって、オススメしたいのです。
好きなことをやっていくために、折り合いをつけるべきところや補われなければ行けないところを見つけていくヒントが多く含まれているかと思います。
どんな人が読む本なのか
本書の「イントロダクション」を引用すると、次のように記述されています。
もし、あなたがスタッフエンジニアの道を選んだ、もしくは考えている方なら、本書はあなたのためのものです。スタッフエンジニアと一緒に働いている方、スタッフエンジニアを部下に持つ方、そしてこの新しい役割についてもっと学びたいと思っている方も、本書から多くのことを学べるはずです。
(P. ⅹⅶ『イントロダクション』より)
正にスタッフエンジニアとしての当事者だけでなく、そういった人を相手に仕事をしている人たちであっても、中心的なターゲットと言えるのではないでしょうか。
加えて、「5年後にどんなエンジニアになっていたいか」について想像を膨らませるために、ミドルと呼ばれるレベルになりたて・・・くらいの人たちにとっても、読んで見る価値が非常に大きいであろうと考えます。
ここ2年くらい?で、エンジニアリングマネージャー(を目指す人)に向けて書かれた本や、更に最近になるとIC/スタッフエンジニアを取り扱う本など、日本語でアクセスできるリソースが一気に充実してきた印象があります。
例えば、自分が持っている&パッと思い浮かぶ範囲でも、2022-2024前半でマネジメントや上級職のようなトピックを扱った本は、こんなにも豊作で・・・(順不同)
- スタッフエンジニア マネジメントを超えるリーダーシップ
- エンジニアリングマネージャーのしごと ―チームが必要とするマネージャーになる方法
- エンジニアのためのマネジメント入門
- エレガントパズル エンジニアのマネジメントという難問にあなたはどう立ち向かうのか
- エンジニアリングが好きな私たちのための エンジニアリングマネジャー入門
- リーダーの作法 ―ささいなことをていねいに
「組織づくり、リーダーシップ」「開発組織の向上」の方面にまで視野を広げれば、、もっと充実したリストができあがることでしょう。
エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング や エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド *2が出版された2018年にも通じるような、”波”みたいなものを感じますね。
こうした書籍たちの中で、この本が「どんな立ち位置になるか」というのは考えてみると面白そうだなと感じます。
やっぱり、書名だけ見るとまっ先に比較対象となりそうなのがWill Larsonの「スタッフエンジニア」でしょうか。
実際、両者が読者として想定するターゲットは近いはずです。*3
- これから先、「人の開発を担うよりも、プロダクトや(ソフトウェア)システムに影響を与えていきたい」と考える人
- 既にその立場(や近い位置、手前)にあり、どのように組織の中で生き残るか道を探りたい人
- 「人・組織よりのマネジメント」として、スペシャリスト系の人を組織の中にどう組み込むか・活かすかを考えたい人
印象としては、本書「スタッフエンジニアの道」の方が、より網羅的で説明が詳細、論理的に描かれているように感じます。
これは「良い・悪い」とか、ましてや「質の高さ」みたいな話では決してなく、アプローチの違いです。
「スタッフエンジニア」は2部構成となっていて、単純にページ数で言えば「第2部 スタッフたちの実像」の方が(日本語版は?)多くなっています。これは、実際にスタッフとして活躍しているエンジニアへのインタビュー群です。
それと対比して言えば、「スタッフエンジニアの道」は、その「第1部」を全編を通じて展開しているようなものとも言えるのではないでしょうか。
その分だけ、抽象・全体像・理屈・・での充実度は高いな、という。
全体像を描いて解像度を上げる「スタッフエンジニアの道」、実例から学んで自分の道を考えて背筋を伸ばす「スタッフエンジニア」、なんて事を思いました。
その点で言えば、もし「結局、日本以外のスタッフエンジニアのケースを読んでも、なかなか共感しにくい・持って帰れるイメージが沸かない(置き換えて考えにくい)」とギャップを感じた人であれば、本書は落ち着いて読み進めやすいようにも感じます*4。
個人的に好きな所
まずは目次に目を通していただきたいのですけども。
全体的にグサグサとくる・・きませんか・・・?
オライリー・ジャパンのサイト上は章タイトルまでしか見えませんが、実際の書籍中ではその下のレベルである節まで目次で見通せるので、可能であればそちらを確認していただきたいです。
とりわけ、「6章 なぜ止まってしまったか?」と「7章 今はあなたがロールモデル(お気の毒さまながら)」は、自分がコレまでに仕事の中で足掻いてきた部分や大きな覚悟を伴うように感じた話題が直球で論じられており、お気に入りです。
考えさせられたり、あるいは読書をしていて「本が寄り添ってくれている」という感覚に至ったり、と。
読み方、使い方
IMOでしかないですが・・・・・・と断った上で、「全部を読むのは大変だ!時間がないぞ!!」*5とか「何周かする前提で、1周目はまずつまみ食いしたい」なんて人を想定して、この本はどうやって読めば良いかな?なんてことを、自分なりに考えてみます。
本書においては、各章が独立しているので、必ずしも連続して読み通す必要もないかな?と思います。
自身のキャリア像や組織ごとの課題やスタッフへ期待される内容は、とても多様なものだと思うので、「今の自分やちょっと先の自分に関心がありそうなもの」をピックアップして読むのが良いのではないでしょうか。
目次がしっかり作られているので、そこから選べそうです。
まずは「イントロダクション」を読んで本書の全体的な構成を知り、その後に目次に目を通してみてください。
(「コラム目次」もあるのでお見逃しなく!)
これを前提に、自分としては
- まずはイントロダクションを
- 次に1章・2章は本書を読むにあたって誰でも読むべき
- 以後、好きな章から読んでいく
- 主観で分類するなら、「個人として効率を上げる」を説くのが4章、「組織として効率を上げる」の解説をする5・6章、「組織の実力を上げる」に踏み込む7・8章、「より長期的な目線で自分自身と向き合う」のが9章・・・みたいなカラーだな、と思います
という進め方を提案してみます。
まず、1章・2章は必読。この2つの章が、全体像を描く役割を担っていると感じます。
すなわち「スタッフエンジニアとは何だったっけ」「組織の中において、どんなリーディングを担うべきなんだっけ」という話が展開されます。
また、2章で「地図」「地層」という表現が出てくるのですが、本書を通して何となく「土地のイメージから連想したっぽい雰囲気の表現が出てきたな」と感じる箇所がチラホラありました。ある側面において、この章が本書の重要な位置を占めている印象を受けています。
続く第3章が正に「全体像を描く」という章題ではあるんですが・・・こちらの意味するところは、「技術リーダーとしてのミッションの1つ『全体像を描く』という仕事について」のようなニュアンスですので。
この章でいえば、3.2は一旦目を通しておくと良いかも知れません。技術ビジョンと技術戦略について、何であるか・どんなものか・なぜ必要か?を整理しています。
第Ⅱ部(4〜6章)と第Ⅲ部(7〜9章)は、特に関心が強そうな所を気ままに読んでいきましょう!!という感じで良いのではないか、と思います。
例えば、「5章 大規模プロジェクトをリードする」は、組織の規模によってはあまりピンとこないかも知れません。
自分としては、それよりも「6章 なぜ止まってしまったか?」の方が痛いほど分かる!なるほど!!と感じられたりと。
逆に言えば、「既にスタッフとしてやっている(そうしたポジションが必要とされている規模の組織に属している)」という状況になくても、実践的と思えそうな章もありました。
6章であったり「8章 良い影響力を広げる」などは、決してスタッフのレベルに上がっていなくても、チームやプロジェクトのテックリードクラスの人たちであっても、明日から意識してやってみよう!と思えるはずです。
そんな訳で、(もし1冊まるまると読む時間がない!!!というのであれば)自分なりに関心のあるトピックや本書から学び得たいトピックを考えた上で、絞り込んで読んでみるのもオススメしたいです。
最後に: 全体的な感想
島田さんの翻訳した本、いつも非常に読みやすい日本語に仕上がっていて、大変ありがたく・・・というのが今回も引き継がれていると感じます。
執筆・翻訳された順番とは変わりますが、本書「スタッフエンジニアの道」を読んだ後に「スタッフエンジニア」を読むと、生のスタッフたちの声が綴られており、2倍も3倍も面白くなるかも・・!という気もします。どちらも優れた本であり、「両方を持っていて冗長だった、かさばった」とは、なりにくいのではないでしょうか。
特に、テックリードや技術的な面で組織を引っ張るポジションにいる人達には、ぜひ読んでもらいたいです。
自分もそうでしたが、「結局何をする仕事なんだ、ゴールはどこにあるのか?どうしたら期待に答えられる?」が曖昧な立場でもあると思います。そうした人たちが、協働し共闘していく同レイヤーの仲間たちと、こうした本を読んで議論をしていくことで、自分たちが為すべきミッションの解像度が上がっていくのではないでしょうか。
この本を、「スタッフになる前に読んでおこう」と選択できるのは、非常に恵まれているのかも知れません。