「More Effective Agile ~“ソフトウェアリーダー"になるための28の道標」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-13です。 adventar.org

day-13は「More Effective Agile ~“ソフトウェアリーダー"になるための28の道標」です。

どんな本

アジャイルをやりたい」という組織が世の中に多くいるのはわかったが、「ただプラクティスを真似するだけではうまく行かないのはなぜか?」という所に意識を向けながら、現場でどのように効果を上げるか?について書かれた本です。

「概念」と「実践」の軸で言えば実践寄り、「入門」「活用」「応用・発展」でいえば「活用」みたいな温度感だと感じました。
教科書よりは参考書。「問題の解き方」が解説されている感じ。
アジャイルとほ」を読者に提供するものではなく、主眼をおいているのはタイトルの通り「効果的なアジャイル」ないし「アジャイルの本来の(本質的な意味での)効果を上げる」という部分。
また、エッジの効いたプラクティスや理論を扱うものではなく、世の中で広く取り入れられて効果を上げたものについて話をしています。そういう意味では、とてもベーシックで、ある種の「地味」さすらあるかも知れません。

本書は、うまくいくことが実証されているプラクティスに焦点を合わせている。アジャイル開発の歴史は、1人か2人の熱心なアジャイルファンによってひと握りの組織でうまく利用されていたものの、普遍的に有効なことが結局認められたなかったアイデアでいっぱいだ。本書では、そうした用途の限られたプラクティスをあれこれ説明しない。

1.3 他のアジャイル本との違い(P6)

アジャイルの本」と題してはいますが、内容としてはおおよそスクラムの本だと思って良いのではないかな?という感想です。

一部の説明について「むー、そうだろうか・・?」と個人的には完全に同意はしかねる記述も見受けられたものの、「うまくいかないアジャイル(スクラム)」の罠!みたいなところを抑えており、面白く読めました。
対応に必要な態度、観察眼を与えてくれるかも知れません。

アジャイルソフトウェア開発を導入してみたものの、いまいちしっくりこない・うまく行っていない気がする」といった現場リーダーに読んでみてもらいたい気がします*1

お気に入りポイントかいつまみ

考え方のベースとしてクネビンフレームワークを据えている

「なぜアジャイル(が必要)か」という説明をする時に、よく出てくる横文字や略文字としては「VUCA」「OODAループ「クネビンフレームワーク」があると思います。
もっとも網羅的に「なぜ」を説明しているのはクネビンフレームワークなのではないでしょうか。

第3章が「複雑さと不確実さという課題に対処する」というテーマを設定しており、ここで「背景となる基礎理論」「今日の時代背景の解説」が為されます。
他の本でよくあるのは、ここで「背景」を説明したあと、「もう状況はわかったね?」と言わんばかりにそれらの概念が登場しないような構成です。
本書では、全体を通じて「煩雑」「複雑」という概念を用いた状況なり課題の整理を行うなど、説明の筋を通しているような印象を受けます。

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索引を見るとその雰囲気が伝わってきませんか

何で実践的 → アンチパターンの指摘が豊富

「more effective」を題する本であって、「どう活かすか」に焦点を当てた内容です。
では、その「うまくいくやり方」はどのように表現されているか?というと、「活用できるtips」だけではなく「こうなってはいけない、要注意」「こうした課題に対処していく必要がある」という観点での指南が多く含まれている事も要因だと感じます。

例えば「モノリシックなデータベースを避ける」「テストカバレッジの基準を必要以上に振りかざさない」「(計測は重要だが)計測やその数値が目的になってはいけない」など。

全体を通じてアジャイル(スクラム、XP)・DevOps・リーンのプラクティスやコンセプトを幅広く扱っていますが、「うまくいくために」「失敗しないために」の両方の観点が意識的に提供されているように感じました。

各章末にまとめとして「検査と適応」のチェックリストがあるのが良かった

副題(28の道標)にある通り、項目立てて「必要なこと」を紹介する構成となっています。
それで、各章の末尾には「推奨リーダーシップアクション」として、「その章の内容をしっかり実践して、組織を導くためには」というポイントが紹介されています。
このポイントが、「検査」「適応」に区分けて簡潔にまとめられているのです。

これは、本書を通読した後にリマインダとして使える箇条書きになっていると思います。
そして「検査」「適応」という概念は、アジャイルの勉強をしている人にとっては非常にしっくり来るものですよね。これは個人的に良いな〜と感じた点です!

「検査」は、自身の行動や感覚だったり環境において起きていることについての観察項目を指摘します。
「適応」は、自他にある事象が立ち現れた際にどうするべきか、推奨される行動・心構えについて指摘するものです。

こうしたインクリメンタルによって「more effective」を目指せ、というメッセージ性を感じます。

まとめ

リーダーやスクラムマスターが自分1人で読んでも、あるいは「もっと良くなれそうじゃない?」と感じ始めたチームで読書会をしても面白いかもな、と感じた1冊でした。 比較的に幅広く扱っている割にはコンパクトに纏められている気もしており、また、各章および巻末に参考文献も豊富に示されていることから、「ざざっと読んで全体感を抑えつつ、特に今の自分のチームに足りていないと感じるところがあったら、勉強を深めてみる」という使い方が良いのかな?とも思います。

*1:本書の言葉によれば、対象読者としてCxOレベルの人も想定している様子