この記事は、ワインバーグさんにまつわるAdvent Advent Calendar 2025の1日目です。
さて、『一般システム思考入門』という本があります。
日本語訳は、紀伊國屋書店から1979年に出版されています*1
今回は、この本について少しだけ紹介させてください。
イントロ
いま、「システム思考」と聞くとどんな事を思い浮かべますか?
多くの人は、ドネル・メドウズの名前や、あるいは『学習する組織』なんかの書籍名が挙がるかも知れませんね。
私もそうです。
最初に興味を持ったのは『システムづくりの人間学』を読んでいた時で*2、第2部にド直球で「一般システム思考」という部があるのですが・・・読んでみると、殆ど何を言っているかが分からないぞ、ピンと来ないぞ!!となりまして。
それで、「もうちょっと、ちゃんと話してもらわないといけない」と思ったのが、最初にこの本を手に取ったきっかけです。
一般システム思考 ≠ 「システム思考」
ワインバーグは、『一般システム思考入門』の中で、あるいは『システムづくりの人間学』の中で、 世の中にあるシステムなるものを、どう捉えていくか について語っています。
メドウズやセンゲの紹介する、例の「因果ループ図、氷山モデル、レバレッジポイント・・等と絡んでくるよな問題解決のツール的なシステム思考」とは、かなり重心が違う話であると心得ておくことは重要なのではないでしょうか*3。
前者が「世界を、システムとして、どう理解していくか」なのに対して、後者が「どう問題を解決していくか」というニュアンスが強いものと、個人的には感じています。
もちろん、両者は不可分ですし、「なぜ理解したいのか?といえば、問題(課題)を定義するため」「解決のためには理解が必要」というモチベーションがある事は確かです。
また、「一般システム理論」「サイバネティクス」といった歴史的な発見にルーツを持っているであろうことは、どちらにも共通しています。
いずれにせよ、こうした「違い」について勘違いしていると、この『一般システム思考入門』という本はどうにも読みにくくなると感じます。
例えば、索引を覗いてみても「フィードバック(ループ)」という単語も出てこないですからね。
実のところ、私も「あのフィードバックループの図はいつになったら出てくるんだろう?そこからが、きっと本番だよな」と思いながら読み進めていたら、おかしなことに随分とページが減っていき・・・中盤に差し掛かって、「もしかしたら別物か?」と気付いた次第です!
一般システム思考とはどんなものなのか
いくつかのキーポイントがあると思いますが、まずはシンプルで直感的(かつ「システム思考」と感覚を共有されている、と言える)なところから挙げていきましょう。
その1つで合成の法則, これは少なくともアリストテレスにまで遡ることができる.
全体は部分の単なる寄せ集め以上のものである.
これに対する 分解の法則 は次のようになる.
部分は全体の単なる断片以上のものである.
(P60)
その次に強調しているのは、「観察」でしょうか。
システムとは物の見方である
(pp. 70-71)
これは、どういう事か?といえば、「システム(もしくは問題)が、客観的・絶対に的に存在するのではない。それを観察した人が、何を見出して、どう”境界線”を引くかによって、その形が変わる」という話になります。
非常にワインバーグらしいな、と個人的には感じます。「品質とは 誰かにとっての 価値である」とか、「それは 誰にとって 問題なのか?」とか、常に相手(ないし自分)ありきで事象を捉えるスタンスを貫いているイメージがあるのです。
このあたりは、『システムづくりの人間学』の第2部にある章『システムの数え方』でも強調されていましたね。
そこで紹介されていたのは、「羊を数えるためには、羊とそれ以外(山羊や狼)を見分けられないといけない」という喩え話でした。
こうした観点を頭に叩き込んでいると、 完璧なシステムの記述(分解だったり、モデリングと読み替えても)など存在し得ない 事に、自然と納得できそうです。
システム思考とは、「おおよその事に役に立つ」が「完全な回答には成り得ない」といった感覚にも繋がります。
そして、「観測者自体もシステムの一部」となります。観測者が変われば「システムがかくあるか」も変わるわけですからね。
「一般」とは
この『一般システム思考入門』は、ベルタランフィの「一般システム理論」を念頭に書かれたものです*4。本文の記述を引用すると、こんな感じに。
この本は, 元来, 普通の人たちに役立てるという目的で生じてきた一般システムを, 再度, 普通の人間の手に取りもどそうとして書かれたものであり, そしてその絶望的な意思表現なのである.
(P65)
「專門」の反対が「一般」です。
特定の領域(たとえば学問領域)においての思考や物の見方を超えて、学際的に「一般化されて適用できる観点」が、一般システム思考です。
物事の、すなわち「システム」について、どう読み解くか?また、観察者として何に注意を払うべきか?の手解きをしているのが、この『一般システム思考入門』だと感じました。
まとめ・どんな本でどういうモチベで読めば良いのか
この本はコンピュータ・プログラムを教えはしないが, コンピュータ・プログラマーが, なすべき思考法を教えるものである.
(P5)
「科学的な見方」として「帰納的・分解的な解釈」を指しながら、そういった「”絶対的” ”客観的”なものなど、ありえない」としたら、いったい目の前にあるものを、どう捉えて記述していけばいいのだろうか?を語っているのだ、というのが個人的な理解です。
・・・もう少しじっくり読み込んでみたら、また違って見えるかも知れませんが。
「そんなものがない」のだとしたら「どうしたら、そういう罠(思い込み)にハマりやすいだろうか」「どう気をつけていけば良いのか」というヒントを与えてくれる本です。
本書の表現を借りれば、
- 思考過程の改善──"思考を方向づけ, 鋭い質問を提起する"
- 特定のシステムの研究──"実際の必要あるいは目的"
- 新しい法則の創造と古い法則の整備──”創り適用を試みて回る"
(P61)
これらが、一般システムのモデルを手に入れることで役立てる働きだ、と言えます。
この1冊を読んだある日、突然そんな能力に目覚める・・とまでの確信は、今のところ自分としては持てていませんが、ただし「一般」的な見方を手に入れること・「システムとは物の見方」の観点に立つこと、これらが非常に重要な価値を持っているような予感はするのです。
んー、改めてじっくり読みたいなと思っています。
とても1回では咀嚼しきれなかった!
ただ、その一方で、いつもながらの「ワインバーグっぽい、ユーモアと親切心が大いに盛り込まれた本だった」とも感じています。小難しく抽象的ではありつつ、それでも所々で肩の力を抜けて読めたのは、こうした側面があるからでしょう。
ワインバーグさんにまつわるAdvent Advent Calendar 2025、2日目となる明日は@genneiさんです!👏