この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-12です。 adventar.org
day-12は「Fearless Change」です。
どんな本
副題には「アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン」と付いています。
「Fearless」とは「(変化していくこと・受け入れることを)恐れない」というニュアンスでしょうか。そうした形で「アイデアを広げる」ためのパターン、つまり「押し付けたり、恐怖によって駆り立てるのではなく、手を組みながらポジティブに変容を起こしていくには?」というのが本書のテーマになります。
「アジャイル」とは付いていますが、それを標榜する組織やチームでなくても非常に有用な1冊だと断言できます。
扱っているのは組織の話、つまり「人と人」や「意思決定、フロー」の話・・・ピープルウェア風に言えば「社会学」の話になるかと思います。
そこに焦点を当てたパターンを共有していく、というもの。この「パターン」はパターン・ランゲージのパターンですね。
組織に新しいアイディアを広める(変化をもたらす)というのは、大変なことです。抵抗にあったり、人々の無関心を動かせなかったり。動き出したと思ったら状況が思わぬ方向に変化したり、勢いが失われたり。形になったかな?と思ったら、形式だけが出歩いてるような「やらされているだけで誰も乗り気じゃない」とか。
一筋縄ではいきません。
本書は、「ランゲージ」としての Patterns for Introducing New Ideas 、すなわち個々のパターンが総体として何を目指しているのか?どんなことをもたらし得るのか?について語る第1部と、変革の事例をパターンの観点から紹介した第2部(パターン32: 体験談の共有、ですね)、そしてパターン・ランゲージの「単語」となる各パターンのカタログである第3部からなります。
お気に入りポイントかいつまみ
それぞれのパターンが「人間的」であること
「恐れのない」というタイトルから分かる通り、組織の中にいる人達の「感情」に向き合っている本です。
人々の意思決定は決して合理的でも論理的でもない、というところからスタートしています。
なので「正論」「きれいな理想」だけでは、個人も組織も動かない。だから変革が難しい!!
そうした前提を抱えながら、どう取り組んでいくか・・・?というヒントになるの本書です。
第1章に引用されている言葉も目を引きます。
「事実とは便利なものだ。感情が正しいと決めたことに、正気で取り組めるようにしてくれる。」 P8
正に本書の根底にあるスタンスはこの表現に集約されているようなもので、「どうやったら受け入れてもらえるか、あるいは何が拒絶を和らげるのか」という処方箋をパターンとして取り扱っています。
納得感のある話、トークンとしての利用法
本書を一通り読んでみた時に、驚くほど「目新しい知識のインストールはない」ように感じました!
「パターン」とは、そもそも「名前のついて広く認められたパターンがあって、そこから行動が生まれる」ものではなく「頻出する課題と解放について、整理して名前をつけたもの」のはずです。
そういう意味では、自分が過去に実行した取り組みや考えてみた・意識したことが「ここに書いてある」というのは、この本の出来の良さを証明していると思うのです。
もっと言ってしまえば、「実際にそうすることで効果があるな」という納得感がしっかり得られました。それらが構造化され、「コンテキスト」「フォース」「結果」まで付与されている・・ということは、今後は「何となく知ってた」ことを、より適切で迅速に取り出すことが出来るようになるのだと感じます。
パターンの42に「トークン」が紹介されています。
自分にとっては、正にこの本が「トークン」として機能しそうだな、と思いました。
引き出しの中に何があるかな・・・?を、パターン一覧やこの本の目次を見るだけで即座に思い出せるのです。
また、これは少し余談ですが、パターン名が直感的なのも良かったですw
(「組織パターン」とかは、少し比喩性が強く感じられて中身が思い出しにくいようなものも多かったので・・・)
段階に応じて適用する方法を考えている
そのままパターン名として設定されていますが、「イノベーター」「アーリーマジョリティー」というような概念が出てきます。
そこから分かる通り、「最初にやり始めた頃から、どうやって全体へ波及させていくか?」という観点が大事にされているのです。
付録Bには、「序盤の活動に関わるパターン」「中盤移行の活動に関わるパターン」というグルーピングもなされています。
今、どうやって動けば人々に受け入れてもらえそうか・・?というのを客観視し、適応的に動いていくためのヒントになりそうです。
個人的に(今の気分で)お気に入りのパターン
パターンのチートシートが、監訳者であるkawagutiさんの手によって公開されています。
どんな本だったか?何を得たのか?をより濃くふりかえってみるために、48のパターンの中から”今の気分で”お気に入りなものをいくつか列挙してみます。
- 1 エヴァンジェリスト
- 「Fearless Change」の最も原初にあるパターンだ、という風に言及されています。
- まずは自分自身が、新しいアイディアに胸を躍らせ熱狂する!それがいかに素晴らしいものであるか、情熱を持って他人に伝える!!!
- 長い道のり、まずはそういう風にスタートさせていかねば・・・と感じました
- 2 小さな成功
- 「エヴァンジェリスト」である自分は、多少は長くなっても良いと思うです。
- ただ、2人称・3人称のアイディアになってきた時に、そこにいる人達はどうか・・・?と考えると、「辛抱強く待つ」だけでは熱が冷めてしまうかも知れません
- まずは「わかりやすい結果を残す」とうのも大事、そういう視点は意識していかないとなーと
- 3 ステップ・バイ・ステップ / 34 ちょうど十分
- 「小さな成功」とも関わりますが、急進的すぎる試みは着地させにくいものですよね
- 大事にしたいアイディアだからこそ、歩調を合わせて進めるようにしないとなーと
- 求めてない所に突っ込んでもたぶん実らない
- 22 種を巻く / 23 適切な時期
- まさに「CAL-1」で言われたことだなーと
- 26 テイラーメイド
- 他者に賛同者になってもらうには、綺麗事や理性的な話だけでなく「あなたにとっても、素晴らしいことだって分かるでしょ?」って言う共有をしないとですよね
- 「わからせる」ではなくて「感じさせる」みたいな雰囲気を感じました
- 心から乗っかってくれる他人こそ1番強いと思うので、自分の好きなアイディアに「乗せる」のも丁寧にやっていきたい
- 40 成功の匂い
- これもCAL-1で解説されていた事に通じるな〜と感じていて、何かというと「面白そうに・楽しそうにやってたら、隣りにいた人も興味を持ち始めて覗きに来る」みたいなやつ
- (Culture Bubbleの話です
- まぁ命名的に「理を感じると、(アーリーマジョリティなどの人でも)やってくる」という話な気はするのですが、もっと踏み込んで「自分たちが、いかに良い匂いを演出していけるか?」も大事になりそうだな、と思った次第
- あと、「解決方法」の中に書かれている「彼らの質問から学ぼう」という態度も凄い大事にしたいなって思ったのです
- 47 お試し期間
- この本を読む前に、まさに「ちょっと破壊的で抵抗を食らいそうだな?」って思ったアイディアについて「まずh2ヵ月って期限を設けた上で実験的に取り組んでみたい」と交渉をしたことがありまして。
- その結果・・だけではないのですが(パターンの観点から見ると、凄い色々と仕掛けている動きになるなーとふりかえって思う)、「まぁ2ヵ月ならやってみるのが良いんじゃない』という声を実際にもらえたので、自身の体験として「最初から明確に時限や終了条件を示しておく」ことの価値は感じます
- 46 恐れは無用
まとめ
読みやすい・わかりやすい本でした。
見る人によっては「あたり前のことしか書いてない」とか思うのかも知れませんが(だって「根回し」とかパターンとして取り上げられているんですよ!)、遥かにそれより大きな価値のある1冊で、周りの人にもじわじわと薦めたいなぁ・・・と感じます。
これを見て「新しい動き方をしよう」ってなるよりかは、今の自分の置かれている状況や抱えているものを自省して、何が足りないか?もっと出来ることはないか?を棚卸しする際に手元においておきたいなって感じます。
「みんなでアジャイル」「チーム・ジャーニー」あたりと一緒に読んでも面白いかも。