「アジャイルレトロスペクティブズ 強いチームを育てる「ふりかえり」の手引き」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-12です。 adventar.org

今日から5日間は「レトロスペクティブ祭り」です。
day-12は「アジャイルレトロスペクティブズ 強いチームを育てる「ふりかえり」の手引き」です。

どんな本

(・・・全く本筋と関係ないのですが、これを忘れていて「訳者ふりかえり」を開いた時に笑ってしまった)

「ふりかえり」に関する本です! タイトルの通り、1冊の中でふりかえりに利用できるアクティビティが豊富に紹介されているのですが、「どうしてふりかえりを行うのか」「どのように効果的なふりかえりが実現できるのか」について語られた本です。

自分は、初めてこの本を読んだ時に「なるほど、こうやって組み立てるものなのか」と感銘を受けました。
それまで「ふりかえりをやりましょう」と言われると「KPTをやる時間」と思っていたのですが・・他のアクティビティの引き出しが無かったことも然ることながら、「ふりかえりの時間」と「KPTをやる」の主従関係が逆だったように感じます。
確かにそれがメインコンテンツであっても良いと思うのですが、それだけを実施するのでは不完全であり効果は半減するな、と。
もっと総合的・立体的に「ふりかえり」を扱う必要性があると感じました。

そうした「土台」を理解した上で、本書の約半分ほどを占める「ふりかえりのために使えるアクティビティのカタログ」に触れていきます。

最近は「プロセスを改善しても金にはならない、しかしプロセスを改善しなければ金を生めない」なんて気持ちで過ごしている日々です。
この本は、単なる「ふりかえり技法」ではなく「チームの状態を引き上げるために必要な手立て」と呼ぶのにふさわしいと感じます。
副題にある「強いチームを育てる」に偽りなしです。

お気に入りポイントかいつまみ

「ふりかえり」だけでなく、効果的なミーティングのファシリテーションに通ずる

具体的なアクティビティの紹介が始まるのが第4章ですが、それに先行する第1−3章では「振り返りミーティングの進め方・全体設計」を解説しています。
どういう流れで進めるか?何を見てチームに合わせた構成を行えばいいか?ファシリテーターとして何をすればいいか?といった事が書かれています。
例えば「3.4 あなたの管理」「3.5 次のレベルへ」などは、プロフェッショナル・ファシリテーターにも通ずるような内容でした。

書名の通り「アジャイル開発を実践している職場におけるレトロスペクティブの場をデザインする」という想定で作られている本なのですが、これは決してふりかえりミーティングだけに閉じた話ではないな、と感じます。
いかに生産的な時間にするか?どうチームの主体性を引き出すか?の話です。

この辺りがあるから、「単なるアクティビティの解説本ではないな」と本書の価値を1次元高めているように感じられたのです。

多様なふりかえりアクティビティ

言うまでもなく、本書には多量の「ふりかえりに使えるアクティビティ」が紹介されています。
アジャイル関連の本やスクラム関連の本では、「レトロスペクティブはなぜ必要か」「例えばどういうものが出来るといいか」を紹介しているものもありますが、決してアクティビティのバリエーションが多くありません。あるいは、種々のアクティビティが相対化されない事によって「どこが肝なのか」というメッセージが弱まってしまっているものもあります。

そうした意味で、この「レトロスペクティブ専門本」はとても頼りになります。
パラパラとめくりながら、気に入ったものを教科書的なカタログとして真似してみることが出来ます。
(実際に、自分もこの本を通読するより前に何度も「摘み食い」して活用していました)

ただ、「たくさんの数がある」「それぞれに少なすぎない分量の解説が加えられている」ことは、それ以上の価値があると思うのです。
こうした大量で質の安定したインプットを得られることで、読者の頭の中で「カクテル」が出来るようになるのではないでしょうか。
すなわち、これらをそのまま使うに留まらず、チームの観察に基づいてアクティビティをアレンジしたり、あるいはオリジナルの手法を編みだせるようになると思います。

どんなに良いアクティビティでも、ふりかえりのような知的生産活動においては「マンネリ化」が敵として立ちはだかります。
その点、多角的な「ふりかえり眼」をやしなっておけば、必要性があって効果的なものをいつでも提供できるようになるのではないか、と。

まとめ

自分の中で、本書は「実践への即効性が極めて高かった1冊」です。
ふりかえりは、ともすれば「ただ何となくやって終わった」「特に生産的な価値を感じられなかった」といった結果に至りがちです。
・・・「チームで喋ってみる」ことの効果はそれだけでも相応に高いと思うのですが、やはり参加者の実感、主観による「価値」は看過できませんので。
・・・ちなみに、「誰も積極的に発言しない」「発言する人が偏る」といった問題への対処、「ふりかえり自体をどうカイゼンするか?」も本書の中に解説されております。

他方で、ふりかえりという活動は、不安定だけどしっかりやった時にはユニークで大きな効果を生み出し得るものだと思っています。

ミーティングのファシリテーションをする人、プロセス改善や組織改善に興味のある人、スクラムチームで活動をしている人には必読なのではないでしょうか。