「正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-14です。 adventar.org

day-14は「正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について」です。

どんな本

スクラムを扱いながら「どうやって開発を進めていくか」という話をする本はたくさんありますが、それぞれ「どういう切り口で推すか」という所に個性も出てきます。
この本で言えば、「いかにフィードバックを獲得するか」「仮説をもって検査(検証)を進めていくか」というところにフォーカスを当てていたように感じます。
実際に、「仮説検証型アジャイル開発」というコンセプトが本書のメイントピックとなっています。
開発者やスクラムマスターを主たる対象とした本が多い中で、ロールとしてはプロダクトオーナー向けの1冊になるかと。

著者は、「カイゼン・ジャーニー」「チーム・ジャーニー」の市谷さんです。
副題に「アジャイルのその先について」とありますが、これはプロダクト開発につきまとう「不確実性」を乗り越え、あるいは味方につけたその先にある「チームによる共創」という姿について最終章で語られています。
ここでも「越境」というキーワードに触れられており、これは「目的(個人的には”ミッション”と読み替えてもいいと思います)で繋がったチーム」が辿り着けるものと書かれていました。

最後に。越境チームは、目的に忠誠を誓うチームのことだ。だが、目的が誤っていたとしても、目的に心中することなく、方向を自ら変えることができる。これが可能なのは、「自分たちは正しいものを正しく作っているか?」という問いを抱いているからだ。問いに向き合い続けられるならば、目的自体を捉え直すこともできる。
これからも高まっていくであろう不確実性に適応するためには、役割を中心とした調整によるプロダクトづくりから、問いと向き合い続ける共創によるプロダクトづくりが、より「ふつうのプロダクト開発」となっていくはずだ。そういうチームが次々と増えていくことを願っている。ともに前進しよう。

市谷 聡啓. 正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4916-4922). Kindle 版.

グッときたポイント

いかにプロダクトづくりの「仮説立て」を行うか

アジャイルがターゲットとしている「不確実性への対処」と「学習の向上」については、しっかりと仮説を持って実験を行うことが重要です。
本書では、「モデル化(仮説立て)」「検証」を繰り返すことをベースとしています。

そのための手法として、仮説キャンパス・ユーザー行動フローのモデル化と、どのタイミングでどんな手法を取り入れるか?が体系立てて説明されていました。
こうやって日々の活動の中でプロダクトを磨き込んでいくのか・・というのがイメージできました。

正しくないものを作らない

書籍タイトルが「正しいものを〜」ですが、実は「正しくないものを作らない」という事にこそ著者の気持ちが籠もっているのでは・・?と感じるくらい、個人的にはグッと来た表現でした。

ネガティブな結果、つまり「正しくないこと」の学びを積み重ねていき、そうした正しくないことを「除外」することで、結果的に正しさを残していく。これが、プロダクトづくりにおける仮説検証の戦略となる。すなわち、「正しくないものを作らない」だ(図4)。「プロダクトとして何が正しいのか」に対するチームの基準(共通理解)とは、正しいものを見つけようとして見定めるものではない。正しくないものの理解からこそ、その基準の輪郭を浮かび上がらせることができるということだ。

市谷 聡啓. 正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3445-3451). Kindle 版.

「ユーザーのために」と思って考えたつもりでも、いつのまにか「自分たちの頭の中にある都合のいいもの」になっていた!という事は多々あるかと思います。
そのくらい、「こういうのあったら良いよね」とか「これを作りたいな」という方向に物事を思考するのは自然なことです。
しかし、当然ながらそこに飲み込まれてしまうと望んだ結果は得られません。

なぜ「学び」「仮設を立て」「やるべきことを選ぶのか?」というと、自らが自然と持つ内発的な方向づけを律して、「失敗しないようにする」ためなのではないかと思います。
それが、「正しくないものを作らない」ということなのかと思いました。

わからないことを増やす

不確実性に対処するために、例えばクネビンフレームワーク等で想定されるような道筋は「分かることを増やす」のが王道だと思います。
しかし、本書では、それだけでは壁に突き当たることがあると言います。
そうした壁を突破する必要があります。

そこで、自身やチームが理解していることを時にはずらしたり捨てたりしながら、自分たちが知らないものを増やす事が重要とのことです。

わかっていることを並べてみて、そのうえでプロダクトの構想に行き詰まりを感じたら、それは今わかっていることだけではもっと先へ進んでよいのか判断できないということだ。そんな時はむしろ、「わからないことを増やす」活動を始めよう。守破離に則って表現するならば、「わからないことをわかるようにする」が「守」であり、「わからないことを増やす」は「破」にあたる。

市谷 聡啓. 正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4559-4562). Kindle 版.

そのための手段としては、視座・視野の操作をすることが挙げられています。

3回目の越境は、自分たちが見えている風景を変えること、つまり自分たちが捉えている現状への理解から離れて、新たな理解の獲得へと進むことだ。自ら不確実性を高めにいくような行為には強い意思が求められる。現状の理解に留まることは、コンフォートゾーン(安全領域)に身を置くのと近い。そこから出ていこうとすると、自分たちのこれまでの理解や経験が通じない可能性が高い。
この越境で求められる活動は、より高いアジリティでの実験と、そこから得られる学習への適応だ

市谷 聡啓. 正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4577-4582). Kindle 版.

ずっと同じところにいることが、ある種の「正しさ」への固執とも言えるのかも知れません。
そういったものを飛び出していくことで、自分たちの持っていた「正しくないもの」を客観視できるチャンスを獲得できるのかな?と考えています。

まとめ

概念っぽい話、説明っぽい話が多いものの、なるほどなるほど〜と思わされる部分も多くありました。
何よりも、プロダクト開発を「意味のあるものを作る行為」へと結びつけようとする、強いメッセージ性のようなものを感じました。

自分があまりPO的な立ち位置で働いたことがないため、少し読み飛ばし気味に進めてしまった部分もありますが、そういう場面が来たら改めて手にとってみたい感じがあります。