「今すぐ実践! カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-9です。 adventar.org

day-9は「今すぐ実践! カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント」です。

どんな本

「現場でカンバンをどう使っていけばいいですか?」について説明する本です。
取り扱う内容をカンバン(プロジェクトマネジメント)に絞って、コンパクトにまとめ上げています。
(類似のテーマを扱う「カンバン仕事術」が310ページ超あるのに対して、本書は150ページ弱となっています)

「〜に絞って」と言っているのは、例えば「リーンなチームを作る」「アジャイルのプラクティスを現場に導入する」という題材の本には、「不確実性に対処する必要がある、その意義とは・・・」「安全で自律的なチームを作るためには・・・」といった、ビジネスやチームのコンテキストを補うように「周辺の話題」も扱われているものが多いです。
本書では、そうした話題だったり、あるいは「哲学」よりの話は抑制されているのかな〜と感じました。その分だけ、プラクティスよりの話の濃度が高いです。

とにかく「現場にどう導入するか」に集中をしている本であり、例えるなら「マニュアル」や「ガイド」といった感覚で付き合えるようなものだと感じます。
その内容は指示的であり、「どうすればいいか?」という迷いを誘発させずに、極端な言い方をすれば「表面的に乗ってみる」ことすら可能だと思います。それを可能にしているのは、「心底理解させる」のに距離を置くべき所で距離を置き、その代わりに端的で密度の高い文章・説明を実現している点だと思います。実用書としての側面が目立ちます。

他方で、「こうした疑問が出るだろうな」という部分は先回りして答えてくれています。
多くの章で「チェックリスト」「大雑把なQ&A」が掲載されていることなどは、そうした性質をよく顕しているものだと感じます。

お気に入りポイントかいつまみ

「カンバンってどうやるんだろう」が一通り分かる

いわゆる「タスク一覧の視覚化ツール」としてのカンバンボードではなく、プロジェクトマネジメント手法としてのカンバンとは・・・?というのは、この1冊で大凡つかめるのではないかと思います。
少なくとも、自分自身がプロジェクトをデザインする側ではなく、カンバンを利用しているチームの一員になる!という場面にあるメンバーロールにとっては、この本を一通り舐めてみると「完全に理解」できるのでは、と思います。
(※根本的に「今のチームに最適な方法は何か?」を模索して結論を出す必要があるリーダーに対しては、個人的にはカンバン仕事術の方を推したいです。その上で、「大雑把なQ&A」「トラブルシューティング」「チェックリスト」+第8-9章に目を通してみる、というのは効果的かも知れません)

大雑把なQ&A、トラブルシューティング

本文の説明を(文量的な意味で)軽量化している反面で、「困りそうな部分」をピンポイントで補うようなフォローが手厚いです。

例えば、「第2章カンバンのクイックスタートガイド」は全体でP7〜P26というボリュームなのですが、「2.6 トラブルシューティング」にP18〜P25を割いています。
その内容は以下のようなものです。

  • 問題1: 中間ステップの作業項目がすべて完了しているためにブロックされる
  • 問題2: 1つ前のステップに完了している作業項目がないためにブロックされる
  • 問題3: ある作業項目のせいでステップに通常よりも時間がかかっている
  • 問題4: 絶えずブロックされる
  • 問題5: チームの外部からの入力を待っている作業項目がブロックされる
  • 問題6: バグがチームに影響を与えている
  • 問題7: 作業項目に設計作業が必要である
  • 問題8: 重要なレビュー、デモ、カンファレンスが迫っている
  • 問題9: 新しい作業、計画の変更、要件の更新
  • 問題10: 多忙なチームメンバーに作業項目を割り当てる必要がある
  • 問題11: 一度に複数の作業項目を担当したがるチームメンバーがいる
  • 問題12: ツールや自動化を改善する時間が取れない
  • 問題13: チームに新しいメンバーが参加する
  • 問題14: デイリースタンドアップミーティングで設計について話し合っている時間が長い
  • 問題15: デイリースタンドアップミーティングに参加できないチームメンバーが居る
  • 問題16: チームがプロセスの細かい部分に気を取られすぎている

他の管理手法からの移行について言及されている

個人的に「この本を特徴づけている内容だな」と最初に感じたのは、「第4章 ウォーターフォールからの適応」「第5章 スクラムからの進化」という章が設けられている点です。
とりわけ、スクラムの難しさや「守破離」の次のステップを目指している人にとっては、第5章のテーマは目を引くものなのではないでしょうか。

個人的な理解として、カンバンの方がスクラムより進歩的なものだと感じています。
それは「ルールが少ない」からです。ただし、スクラムにあるルールは「何を成し遂げたいか」「それに対してどういう罠に陥りやすいか」という観点でデザインされたガードレールだとも考えています。すなわち、そこを外れて自由度が上がりすぎることで失敗のリスクも高まるはずです。

いずれにせよ「プロセスやツールより対話を」重視するのが基本姿勢だと思いますので、「ちょっと気になったからどうなるか試してみる、その上で結果を測定してみる」のもアリでしょう。
その際にも、こうした「移行ガイド」があるのは有難いことです。

「どういう点が共通なのか、どういう点は考え方を改める必要があるのか」という説明をしており、含まれる内容としては「役割と用語のマッピング」「イベントの進化」等です。
もちろん「カンバンとは」といった話や「スクラムガイド」の内容を咀嚼して、自分なりに両者の繋がりを作る事は可能かと思いますが、「比較をすることを主目的として書かれた説明」というのは腑に落ちます。

また、「スクラムで守られていたがカンバンで失われる(失われそうで不安になる)点」については、「大雑把なQ&A」で拾われます。
例えば「スクラムマスターがいなくなる」事で(組織パターンで言う)防火壁が失われる点はどうか?定期的なフィードバックを顧客から取り入れることで適応的・漸進的な開発を実現していたが、タイムボックスがなくなるとどうなるのか?など。

まとめ

スクラムやカンバンについては「やさしい本」がたくさんあるので、そうしたものに比べると本書は少し「お硬い」ような印象を受けるかも知れません。また、「背景・理念」と「方針・方法」の比重が後者に寄っている(印象がある)ので、少し統制的で指示的な内容にも感じられそうです。

その辺りも踏まえつつ、文量がコンパクトによくまとまっており、タイトルの通り「今すぐ実践!」を実現していると思います。
マニュアル的な雰囲気の本だな、というのが個人的な感想です。