この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-3です。 adventar.org
day-3は「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK」です。
どんな本
表紙の装丁から、SCRUM BOOT CAMPの続編のようにも感じるかも知れませんが、これは別物です。
(もちろん、SCRUM BOOT CAMPで学んだ人が、その後の道程でこの本を読んでみるのは素晴らしい体験になると思います。)
前者は日本語で執筆された本であり、こちらは翻訳本になります。
ざっくり言ってしまえば「スクラムマスターってどんな事をする人なの?」について示してくれる本です。
ただし、「はじめてのスクラムマスター」ではありません。インターネットミーム的に言えば「完全に理解した」人たちに向けた本だと思っています。
つまり、スクラムマスターのロールを担って熟達していくに際しての「形式知」から「実践知」へと結びつけてくれるような内容が扱われます。
アジャイルの中核的な価値観や原則、そしてスクラムについての基礎知識を持っている人が対象読者となります。
また、「本書の対象読者」では「スクラムマスーとしての経験があること」も併せて前提としている、と説明されています。
「日本語版に寄せて」から、本書の特徴を端的に示していると感じる部分を2つ抜粋するとこんな感じ。
"かつての組織になかったロールなので、スクラムマスターはなんのためにいるのか、いったいなにをすべきかがよく誤解されます。しかしこの本を使うことで、スクラムマスターは自分の考えを整理できるし、チームメンバーとマネージャーとのコミュニケーションにも生かせます。中でも、スクラムマスターの役割を兼務するときの落とし穴と自己組織化したチームはどうあるべきかの部分は特に役立つと思われます。"
Zuzana Sochova. SCRUMMASTER THE BOOK 優れたスクラムマスターになるための極意メタスキル、学習、心理、リーダーシップ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.106-109). Kindle 版.
そして、その直後に
"本書の著者が頻繁にワークショップを開いていることは、読みながら強く感じ取れます。なぜかというと、これは読み物より、ワークブックであるからです。各キーポイントのあと、読者はそれが自分にどう当てはまるか、自分の仕事にどう応用できるかを考えるよう求められます。こういったエクササイズをしっかりとやっておけば、この本の価値は随分と上がるでしょう(個人的には「アジャイルの車輪」を顧客と一緒にぜひやってみたいと思います)。"
Zuzana Sochova. SCRUMMASTER THE BOOK 優れたスクラムマスターになるための極意メタスキル、学習、心理、リーダーシップ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.110-114). Kindle 版.
と述べられています。
目次を見るだけでも「この本が、いかに「スクラムマスターのルール」よりも踏み込んだ、「スクラムマスターとしてどう発展していくか」を扱った本である」という様子が感じ取れると思います。
- CHAPTER 1 スクラムマスターの役割と責務
- CHAPTER 2 心理状態モデル
- CHAPTER 3 #スクラムマスター道
- CHAPTER 4 メタスキルとコンピタンス
- CHAPTER 5 チームを構築する
- CHAPTER 6 変化を実装する
- CHAPTER 7 スクラムマスターの道具箱
- CHAPTER 8 私は信じています
「スクラムをうまくやるために」ではなく「良いスクラムマスターであるためには」の本であり、実際に「具体的なknow-how、tips」を扱うよりも「スクラムマスターとしてのあり方」が中心的な話題です。
それは、副題に「メタスキル、学習、心理、リーダーシップ」とあることにも着目すると、なんとなく期待すべきことが透けて見えてくるのではないでしょうか。
とはいっても、高圧的だったり説教じみていすぎることはなく、あたたかみのあるイラストと優しい語り口で紡がれた温かみのある1冊です。
お気に入りポイントかいつまみ
偉大なるスクラムマスター / あるいは #スクラムマスター道(#ScrumMasterWay)
「お気に入りポイント」というか、本書を貫く根底のコンセプトが「偉大なるスクラムマスター」であり、「#スクラムマスター道」です。
そもそも、書籍の原題が「The Great ScrumMaster: #ScrumMasterWay」であることが重要です。
本書では、スクラムマスターの役割について一般的な説明より幅広い定義を与えています。#スクラムマスター道のコンセプトを用いて、偉大なスクラムマスターの行動を3つのレベルで定義します。スクラムマスターであり続けることは、アドベンチャーゲームをプレイするのと似ています。あなたはゲームの途中でいくつかの道具を拾いますが、はじめから道具の使い方を知らなくても大丈夫です。時には創造的にさまざまなやり方を試し、時には大胆な一歩を踏み出す必要があります。時にはやけくそになり、やめたくなることもあるでしょう。でもその後、ある状況においてうまくいく、これまでと違う方法があることに気づきます。アドベンチャーゲームの例でいえば、壁に小さなひびを見つけて秘密のドアを開けたり、いつもの道具をまったく違う方法で使ったり、といったことです。
Zuzana Sochova. SCRUMMASTER THE BOOK 優れたスクラムマスターになるための極意メタスキル、学習、心理、リーダーシップ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.283-291). Kindle 版.
概要は(著者が記したWebサイトの日本語訳である)以下のページで確認することができます。
スクラムマスター道は、「偉大なるスクラムマスター」へ至るための発達段階を3つのレベルで示した道筋です。
(余談ですが、私が認定スクラムマスター研修を受けた時*1に最後の演習が「偉大なるスクラムマスターになるには」だった事が印象に残っています)
いわく、
- レベル1: 「私のチーム」
- 自身が直接扱う単体のチームについて、自己管理型のチーム状態を目指します
- レベル2: 「関係性」
- チームが、その接する範囲にも「よい関わり方」を出来るようになることを目指します
- レベル3: 「システム全体」
- 組織全体(例えば会社)において、アジャイルの価値・原則を達成できるようになることを目指します
というような段階です(原文は上記のサイトを参照してください)。
アジャイルマニフェストに「計画に従うことよりも変化への対応」とあるように、またスクラムを支えるアプローチに「漸進的」が挙げられているのと同様に、スクラムマスター自身がその仕事の定義やマインドセット、すなわち「価値を届ける先」についてインクリメンタルに適応してかないとね!!と個人的に感じました。
CHAPTER8から、印象的なセンテンスを引用します。
偉大なスクラムマスターは、まず第一にリーダーであることを忘れてはいけません。良いリーダーとして、自発的であり、周りの人々を成功させられなければなりません。人々に活躍してもらいましょう。人々を輝かせましょう。偉大なスクラムマスターは文化人類学者でもあります。他人に興味を持ち、彼らの習慣と働き方を尊重しなければなりません。遊び心を持ち、勇敢でなければなりません。
Zuzana Sochova. SCRUMMASTER THE BOOK 優れたスクラムマスターになるための極意メタスキル、学習、心理、リーダーシップ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2218-2222). Kindle 版.
Implementing Change
スクラム(スクラムガイド)は、「どういう風にあるべき」という最終到達地点は示してくれますが、そこに至る発展過程において 「リーダーが何をするべきか」「どういう観察をするべきか、どんな罠があるか」は示してくれません。(もちろん、「プロセスよりも対話」を基調とすべきです。観察と適応が最大の武器ではあります)
本書において、 #スクラムマスター道 の道のりの中で「スクラムマスターとして、どんな壁にぶつかる事があるか?チームが何を感じるか?どう注意すべきか?」のヒントが提供されます。チェンジ・エージェントたるスクラムマスターとして、どういう事に対処すればいいのか?というヒントです。
Implementing Change(変化を実装する)は、CHAPTER6の章題です。
変化を促すための考え方がまとめられており、読みながら、「単なるヒントを得た」を超越して「しっかりと変わり続けていかなければならないのだ」と覚悟をもたらすような内容が散りばめられていました。
まとめ
決して「SCRUM BOOT CAMPの次に読むべき本」といったレベル感ではありませんが、早く出会うことには重要な価値がありそうな内容であり、また折に触れて何度も読み返す事でその度に発見がありそうな1冊だと思います。
スクラムマスターという役割(職能?)自体が、非常に複雑で流動的な期待値を背負い込むものであり、まさに「VUCA」に対処する必要があるポジションです。
そうすると、「不変なもの=コア」が重要になるはずで、この本はまさに「スクラムマスターの中核にあるべきもの」を扱った内容でした。
偉大なるスクラムマスターになりてぇ〜〜って思います!
*1:コレは後日、このアドベントカレンダー内でふりかえってみようと予定しています