「みんなでアジャイル」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-1です。 adventar.org

昨年末〜今年にかけて、アジャイルスクラムについてお勉強してみよう!!みたいな流れがありました。 ある程度まとまった量を読んだかもなーと感じたので、関連分野で自分が読んだ本を紹介する!というのをAdvent Calendarとしてまとめてみようと思いました。

というわけで、このカレンダーではスクラムを中心にアジャイル関連の書籍・研修参加の感想について文章を書いていきます。 完走できるように頑張ろうと思います。

day-1は「みんなでアジャイル」です。

(このAdvent Calendarの名前の元ネタにしたので、初日に選びました😏)

どんな本

よく間違えられる(?)気もしているのですが、「みんな アジャイル」ではなく「みんな アジャイル」がこの本のタイトルです。
ここが重要だと思っていて、「アジャイルに興味を持っている人(開発者)に優しく紹介する」というよりも「どうやって、組織全体で"be agile"になっていくか?」を考えるものだと思っています。
「非開発」文脈にまで「巻き込んでいく」という訳で、基礎入門というより応用実践発展っていう感覚があります。
(ただし、「いわゆるアジャイルから遠い気がする人を(ですら)どう巻き込むか?」を扱っているという話であり、開発チームや開発組織を考える上でも非常に重要な示唆に富む1冊です)

この本が何をなそうとしているのか?どういうものを捉えているのか?について、とりわけ顕著に表しているのが 「ムーブメントとしてのアジャイル」という表現だと思います。 これは第1章の「「アジャイル」とは何か?なぜ重要なのか?」に出てきます。

それと、個人的に考える象徴的な言葉としては(第2章のタイトルにもなっている)「北極星」を挙げたいところです。

この本に興味を持っている方、あるいは読んだ方も含めて、翻訳者の1人であるryuzeeさんが語っているpodcastがあるので必聴です!! (fukabori.fmはとても面白いですよねぇ)

fukabori.fm

お気に入りポイントかいつまみ

「ムーブメント」とは何か

この言葉は、「手法」「マインドセット」と対比する形で登場してきます。

「手法」に関して言えば、(アジャイルマニフェストにある「プロセスより対話を」に語られるように)「○○をやったらアジャイル」みたいな事ではないよね?という世界観をアンチパターンとして紹介します。例えば「2週間のタイムボックスで仕事をしているからアジャイルだ!」とかって話ですね。

そこから、「マインドセット」という捉え方でも不足があるとして批判します。
「プラクティスよりもマインド(考え方)」という点で、価値観への共感に基づいた行動であるはずです。何が問題なのか?それは、「まだ自分たちのものになっていない」ような点にあると言っていると感じました。
本書中の言葉を使えば、

"私は、アジャイルは「マインドセット」だとも聞いていた。アジャイルが思考の大きな転換を必要とするということには同意するが、それを「マインドセット」と表現すると簡単に責任逃れができてしまう気がするようにも思う。アジャイルな考え方だけでは不十分だし、「まあ、私はアジャイル的なものを全部理解しているけれど、一緒に働く人たちはこの新しいマインドセットを受け入れていない。なので私たちにできることは何もないね!」と言える余地を非常に多く残してしまう。”
抜粋:: Matt LeMay “みんなでアジャイル”。 Apple Books

という話であり、

"アジャイルの価値と原則はすでに他人が決めたものである。”
抜粋:: Matt LeMay “みんなでアジャイル”。 Apple Books

という態度では物足りないということです。

「みんなで」アジャイルをやっていくにあたって、此岸/彼岸があってはだめだな、と。
では、なぜ「あっち側」という考えに至る余地が残っているのか・・・?というと、恐らくは咀嚼の足りなさなのだと思います。「他人が決めた価値・原則」としての向き合い方なのか、と。

そして「ムーブメントとしてのアジャイル」という地平に辿り着きます。
ムーブメントってなんでしょうね。「感覚」と「行動」の両方が揃っている、「(組織や個々人の)内側から湧き上がってくる強い動機」「乗っかってみたくなるような強い方向づけ」のようなものを個人的に感じます。アツいエネルギーだぜ!

そもそもが、アジャイル自体が「色々な地点で同時多発的に発生した考え・プラクティスが合流した大きなうねり」であったよね、という事を指摘します。
「XPやっている人とかスクラムやっている人とかが集まって共通の言語に落とし込んだのがアジャイルマニフェストだったよね」のような点です。(このあたり、『パターン、Wiki、XP』あたりを見ると非常に分かりやすい)

そういった、「必然性と共感可能な強い価値観が揃って発現する大きなうねり」みたいなものであると良いよね、と。

第1章の締めくくりにある言葉です。

アジャイルを価値と原則によって駆動されるムーブメントとして取り組むとき、個別のチームや組織のニーズを満たす方法でそれらの価値と原則を実現するためにはどうすれば最善かを考える余地が私たちにはあるのだと主張し続ける。そうすることで、私たちは単なる受動的なフォロワーではなく、アジャイルムーブメントの能動的な進行役としての責任を負うのだ。”
抜粋:: Matt LeMay “みんなでアジャイル”。 Apple Books

北極星について

先にも述べたように「プラクティスや”正解”としてのマインドセット」から脱却していく必要があります。
そこで「目的・意義」を揃えてダブルループ学習を進めていく、現状に対して建設的な批判と改善を絶えず続けていく・・・というのが不可欠になります。
組織にとっての「北極星」がそれにあたる、と。

アジャイルをやっていこうとして陥りがちな罠」について、次のブログ記事を参照しながら説明しています。

toolshed.com

アジャイルを今の仕事のやり方をちょっと変えるだけのことと思っているなら、アジャイルから得られるメリットもちょっとだけになるだろう。今のやり方を選んだ元になっている現時点の思い込みや想定に疑問を持たなければ、どんなフレームワークを試しても今のやり方は変わることはないだろう。アジャイルラクティスを試す前に、以下の質問に答える必要がある。
・チームや組織が将来なりたい状態は?
・チームや組織の現在の状態は?
・将来なりたい状態になれないと思う理由は何か?
これらの質問に答えるのは簡単ではない。より良い仕事のやり方を知りたいと思っている人がほとんどだとしても、「より良い」の意味することを考えると、現時点での思い込み、期待、ふるまいなどを疑問視せざるを得ず、現状の心地よさと安定性を変えてしまうことになる。”
抜粋:: Matt LeMay “みんなでアジャイル”。 Apple Books

ある意味では、「アジャイルマニフェストで掲げられている価値観」についてすら、「自分たちの考えで意義を感じないなら肯定しなくて良い」と言っているようにすら見えます。アジャイルマニフェストを超えていくようなアジャイル、こそが「意義のあるものだ』とでも言うような。
何がそんなに強いエネルギーや深い思考を生み出すんでしょうね?それこそが、「自分たちにとって本当に意味のある実現したい・到達したい世界』であり、北極星なのだと思います。

その他の点も凄い。刺さりすぎる言葉がたくさん

他にも、(先のpodcastで触れられているのでぜひ!)組織重力という考え方であったり。
第5章なんてタイトルから良すぎて「不確実性を計画するのがアジャイル」であったり。(ここに「良い方向に進んでいる兆候」というセクションもあるので、これもワクワクポイントですよね)

また、第7章が「あなたのアジャイルプレイブック」です。
書籍「アジャイルサムライ」のファンは多いと思います。そこで紹介されている「インセプションデッキ」は、特に見かけたことがある人も多い印象です。自分の周りでも、「スクラムフレームワークは説明できないが、インセプションデッキは見たことがある」といった人も見かけるくらいです。
「概念はわかった、どう始めればいい?良い世界にどう近づいていけばいい?」という手引は一定の需要があるものです。オリジナルそのままで使えなくても、「考え方の考え方」としてヒントになる可能性が大いにあります。
って考えた時に、「あなたのアジャイルプレイブック」は尊いな〜と。

まとめ

非常にコンパクトに纏まっている本ではあるものの、「アジャイルを心底体感していくにはどうすればいんだろう?」についてグサグサと刺さります。そんなヘビー級の威力を持っている1冊。
定期的に読み直したい本のうちの1つです!