読みながらメモとかはとっていなかったのだけど、これは記録に残しておきたいなーと思ったのでざっくりと読書記録を。
GWに対話や関係構築に関する本を読んでいたり(問いかける技術、アサーション入門、フォーカシング)、直近でもシャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方: <キャリア・アンカー>の正しい使用法を読んだりなどで、「コーチングとかマネジメントとかリーダーシップについては、色々と知らなきゃいけないことがあるぞ・・無限にあるぞ・・・そしてそれを自分が知らないことによって周りの人が失敗する確率が上がったり、本来望めたレベルが下がったりするのは嫌だな・・・」「知れば知るほど武器になるな、面白いな」っていう気分が高まっていたので。
とりわけ、キャリア・アンカーの話を見ていて「周りの人の実力・才能をもっと豊かに引き出すには?」を深めたいなーという意欲を濃くしてくれたので、積んであった本書を手にとった次第。
どういう本
「セキュア」という言葉が含まれていることから、心理的安全性とかそういう方面の話と関連があるのだろうなーと思いながら読んでみたけど、そうっちゃそう。
読了後に、この本を知った&買ったきっかけは何だったっけ・・・っていうのを思い出そうとしたんだけど文脈が掘り出せずに残念。購入タイミング的に、LeanとDevOpsの科学を読んでいた時期っぽかったので、その関連かな?
原題が「Care to Dare: Unleashing Astonishing Potential Through Secure Base Leadership」で、「思いやりで勇気を与える」「セキュアベースリーダーシップで驚愕的な才能を開花させる」みたいなニュアンスなのかなー
言うまでもなく、この「セキュアベース」が本書の中核的な概念であり、それがどのような効果をもたらすか?どのように実装・実行するか?を伝える本。
セキュアベースリーダーシップについては、まえがきの言葉を借りれば以下のように定義されている。
守れられているという感覚と安心感を与え、思いやりを示すと同時に、ものごとに挑み、冒険し、リスクをとり、挑戦を求める意欲とエネルギーの源となる人物、場所、あるいは目標や目的
『まえがき (P9)』
個人的なイメージでは、「私はここにいて良いんだ!という肯定感をもたらし、内発的な意欲をもって挑戦を促す」ような施しをもたらす「いつでも帰ってこれると信じられる基地、ホーム」的な存在なのかな〜という捉え方。
その存在は、からなずしも「接点をもった誰か」である必要はなくて、精神的支柱となるような「目標」であったり「過去の経験、エピソード」などでも良いよーと。ふとっちょのオバサンの為に靴を磨く、というのも近いだろうか。遠いか。
1冊を通じて、他人(フォロワー)にとっての「セキュアベース」たるようなリーダーになることを目指す。それは「具体的な何かの行動や思考」よりも総合的な、「人としてのあり方(P13)」として語られる。
そのために必要な「資質」を9つの要素に分解し、しかもそれを「明確で、現実的で、習得可能なもの(P61)」と断言している。
それぞれ、どうして必要なのか?具体的にどんな行動・心理に顕れてくるのか、表せるのか?自分自身がそう振る舞えているかを、どう点検すればいいのか?どのように獲得・強化すればいいのか?
─といった話が展開されていくのだ。
論理的な話であり、自己啓発的な側面も多分に含みながら、具体性・実践的なレベルによく落とし込まれているな〜と読んでいて嬉しかった。
トータルの所感
いわゆる「尊敬・敬意」「謙虚さ」「安全であること」「優しくすること」は、語るまでもなく重要である事には異論はないが、やはりビジネスの局面においては「厳しさ」も必要なのでは?と感じる面もある。
要するに目標達成に向けた力学だ。それが無くて、どうも片手落ちな、ただ他人を恐れて日和ったような平和主義じゃないか・・・と感じてしまうような本もしばしば見かける。
その点、この本は「健全なプレッシャーのかけ方」についても視野に入れているように感じられて、その点がとてもよかった。
個人的にはチームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチを初めて読んだときに、「あくまで目標達成に向けたチームの強化(学習促進)のために、手段として心理的安全性を確保しに行く」というスタンスに目から鱗!!が落ちたのだが、この本もまた「ただ優しいお兄さん的な”安心できる基地”になろう」というだけの話の展開はしておらず、好きな感じだ。
全体的な構成の工夫として、実際にあった(セキュアベースリーダーシップを発揮していると言える)顕著なエピソードを頻繁に織り込まれていて、それも読者の興味を維持し続けるのに貢献していると思う。ワクワク感があった。*1
少しだけ話の展開が冗長に感じられる部分もあるかも知れないが、そういう「何度も1つの物事を少し言い換えて述べる」的な配慮を頼って、少し気楽に読んだりスピードを上げても大丈夫そうだな〜って安心感を個人的には感じた所。
お気に入り箇所
9つの特性
主題であり、本書の論(の具体的な部分)の骨子になる要素。
これらの要素・行動を安定的に実践することで、フォロワーのセキュアベースになろう!というもの。
- 冷静でいる
- 人として受け入れる
- 可能性を見通す
- 傾聴し、質問する
- 力強いメッセージを発信する
- プラス面にフォーカスする
- リスクを取るよう促す
- 内発的動機で動かす
- いつでも話せることを示す
それぞれが「思いやり」と「挑戦(の誘発、促進)」を高いレベルで獲得し提供するために欠かせない、と。
特性1つずつに対して、「(調査で収集した)セキュアベース・リーダーが、それを表し実践していると言える顕著な発言」「あなたのセキュアベース・リーダーシップ行動を評価しよう(点数が低かった部分が重点的に伸ばすべき項目になる)」「特性を伸ばすためのヒント」といった節を設けて肉付けしている。
例えば、特性5「力強いメッセージを発信する」についていえば、
- リーダーの発信
- 「彼はこんなメモを書いて渡して売れました。『君は間違いなく正しいことをやっているよ』。メモ用紙に書いてもらったこのひと言が、わたしにとってはとても大きかったのです。本当に大きかった。今でもその紙を持っています」
- 「彼女は私に『いつでもチャンスはある』と言いました。身動きが取れず、誰も助けてくれないと思い始めていた苦しいときだったのですが、彼女の言葉から自由を感じ、力を得ました」
- 「わたしが上司との間に問題を抱え、会社を辞めることを決心したとき、人事部門の同僚が、『辞めるときには常に堂々と、落ち着いて』と言いました。彼の言葉がずっと心に残り、この変化の時期を温かい気持ちとプロ意識を忘れずに、乗り切ることができました」
- あなたのセキュアベース・リーダーシップ行動を評価しよう
- 力強く覚えやすいメッセージを発信している
- はっきりと簡潔に話している
- 非言語のメッセージやジェスチャーを使って、覚えやすいメッセージをさらに強調している
- 伸ばすためのヒント
- 言葉だけでなく、非言語のメッセージにも気を遣う
- その一瞬を逃さない
- 力強いメッセージをはっきりと、簡潔に、ゆっくりと伝える
- 力強いメッセージを書く
- 力強く短いメッセージをノートに書きためておく
のように紹介されている。これが、9個とも全てにおいて繰り返される。
各特性についての「あなたのセキュアベース・リーダーシップ行動を評価しよう」に従って、セルフアセスメントをしてみたら、以下のような結果になった。
主に職場において部下・同僚・上司とのコミュニケーションを想起しながら点数を付けてみたもの。
(各設問、1=まったくできていない〜5=常にできている で答えるのを3問ずつ)
特性 | 評点 |
---|---|
1. 冷静でいる | 6/15 (3未満が2つ) |
2. 人として受け入れる | 14/15 (3未満が0) |
3. 可能性を見通す | 13/15 (3未満が0) |
4. 傾聴し、質問する | 15/15 (3未満が0) |
5. 力強いメッセージを発信する | 9/15 (3未満が1) |
6. プラス面にフォーカスする | 14/15 (3未満が0) |
7. リスクを取るよう促す | 11/15 (3未満が0) |
8. 内発的動機で動かす | 12/15 (3未満が0) |
9. いつでも話せることを示す | 8/15 (3未満が2) |
意外と高いかもな????(今はそこそこ機嫌が良いからですね、多分)
元々の素質として「人のことを観察してポイントをつかもうとしている」「ちゃんと他人を褒める」という面は持っている*2のに加えて、コーチングを勉強しながら「目の前の相手を信じる」「内側に持っている可能性を引き出せるようにする」というのも重要性を理解しトレーニングしているので、他者に対する尊重は概ね評点が高いのかも。
(傾聴と発問は、座学や読書だけでなく機会を作って実践訓練を積んでいるので。伸びていないと困る・・)
他方で、自身を律することや、他人に対して「課す」ような方面は依然として弱そう。
この辺りは、他人に対する弱気とか、「相手の望みに対する確証が持てない」的な、コントロールできないものへの不安が強く出ているのかな〜という感じがする。自己肯定感が低い(自分の持っているもの・見ているものへの疑いが強い)性質からくるものな気がする。
「力強いメッセージを〜」についても、「簡潔に伝える」が弱いと感じている(=話がダラダラしがち)ので、これもまた「伝わっているかな?と不安がつきまとっているから」という意味で根が似ていそう。
こうした面が、どのようにリーダーシップや(組織内で果たすべき)他人への影響の与え方に影響しているか?が分かるし、その重要性も解説されている!!というのが本書。
・・・にしても特性1😇
コレに対しての「ヒント」として、(自身の感情や気分に自覚的になって、それを収束させる術を用意すること〜という意味で)「マインドフルネスの練習をする」というのが挙げられている。
いや〜、そうですよねガッハッハ!という気持ちになったけど、課題感はあってちゃんと 積んでいる 勉強しようとしているんですよ!!!というのが下の図。
方向性はちゃんと合っているんだなーとも言えるので少し自信になった。
4つのリーダーシップのアプローチ
本書全般を通じてリーダーシップは「フォローとリード」もしくは「CareとDare」のような軸の掛け算で描かれているが、その「思いやること」と「挑ませること」を用いた四象限で「リーダーシップのアプローチ」を説明している。
これがまた面白かった。チームを動かすときに、リーダーがどのように行動したり判断したりするか・・・?
「思いやりも強く、挑ませる面も強い」となったときに「勝利を目指す」ようなリーダーシップとなる。
逆に、「思いやりも挑ませる面も弱い」場合には「回避を目指す」と。
要するに、チームとしてのリスクのとり方や、「自分でやるか・誰かにやらせるか」という意味でのリスクの置き方が変わってくる。
これもまた、そのようなアプローチを端的に表現するような言葉(セリフ)─「この表現にピンときたら、あなたのアプローチはコレですよ!」といったものが例示されていて、イメージが湧きやすかった。
例)
- 勝利を目指すアプローチ(思いやり:強、挑ませる:強)
- 成功するには人間関係が重要だ
- 必要なときには、フォロワーが私を助けてくれる
- 意思決定をするのは楽しい
- 他者とともに仕事をすれば、最高の結果が出せる
- 支配を目指すアプローチ(思いやり:弱、挑ませる:強)
- 最終的には、重要なのは結果だけ
- 部下はわたしの信頼を勝ち得なければならない
- 一人でいたほうがいい
- 部下はお金のためだけに働いている
- 負けないことを目指すアプローチ(思いやり:強、挑ませる:弱)
- 自分で決定を下したくない
- どうなるか様子を見よう
- 他の人からも同意を得る必要がある
- 批判や反対は回避する
- 回避を目指す(思いやり:弱、挑ませる:弱い)
- 熱心にやる意味はない。これはただの仕事だ
- リスクはとらない
- 感謝されていない
- 部下は勝手にやるだろう
こうしたアプローチについて紹介した上で、重要なのは(個人的に心に留まったのは)
このモデルから得られる最も重要な学びは、「プレッシャーを受けたときにどの方向性に動くか」である。
『第6章 「勝利を目指す」マインドセット (P228)』
という部分。
ただ8行程度でサラッと書かれている内容ではあるが、リーダーシップというのは、固定的で唯一性のあるものではなく、あくまで変動的であり脆いものなのだなーとハッとさせられた。
人は「良い面よりも悪い面のほうが目に付き、印象に残る」ようにできていると思う。
なので、プレッシャーがかかったとき = 弱さに飲まれた時に、どのように力を発揮できるか・・・・?は重要な課題であると感じた。
愛着スタイル
セキュアベース・リーダーになるためには「他者とどう関わるか」が重要になる。
その要素として「自分自身が、自分に対してどのような関係モデルを持っているか」「自分自身が、他人に対してどのような関係モデルを持っているか」の2軸からなる4象限のパターンとして「愛着スタイル」を表せるという。
自己に対する肯定感の+or−、他人に対するそれの+or−の組み合わせだ。
- 自分を肯定し、他人も肯定する: 安定型 - 勝利を目指す
- 近づきやすい
- 自尊感情が大きい
- 自分を肯定し、他人を否定する: 回避・拒絶型 - 支配を目指す
- 一匹オオカミ
- 自分を否定し、他人を肯定する: 不安型 - 負けないことを目指す
- 不安
- 過度の依存
- 自分を否定し、他人も否定する: 孤立型 - 回避を目指す
- 引きこもる
- 気落ちする
これも「基本的なスタイル」があり、様々な要因によって「別のスタイル」が誰しも現れるものだという。 (それぞれの象限が、先のリーダーシップアプローチにもリンクしてくる)
これも本書の中で特に気に入った部分のひとつで、各愛着スタイルごとに、「調子の良い日」「調子の悪い日」におけるそれぞれの行動特徴を説明している。
こうした説明に自身の行動を照らし合わせて、「自分はどの愛着スタイルが基本なのだろう?」とアセスメントをすることができるのだ。
(そして、ここでも「安定型」を目指すための処方箋が紹介されている)
自分に当てはめて考えてみると、自信に満ち溢れている時は安定型で居られることが歳を取るに連れて増えてきたようにも思う。
その一方で、2〜4のどれも出てくるんでないかい???という気もした。明らかに「引きこもる」「気落ちする」という反応はあるので。
ただ、そこまで行くことは減ったorリカバリは効くようになってきたとも思うし、少なくとも「他人にそのままぶつける」ほどの問題は抑え込めるようになってきたんじゃないかなー・・・
2,3でいえば、昔だったら拒絶型が強そう、今だとやや不安型に行き着くのかな?という気も。
まとめ
他にも、とても重要な概念が出てくる。「絆」や「信頼構築スタイル」、「喪失」「離別」や「悲しみのプロセス」だったり、「6つのリーダーシップのスタイル」など。
セキュアベース・リーダーは、そのコンセプトだけをなぞると、かなり崇高で聖人君子なビジョナリーでエナジャイザーで・・・・といった現実離れしたコンセプトになりそう。
しかし、本書では「セキュアベース・リーダーになるためには、リーダー自身にもセキュアベースが絶対に必要」とか「リーダーシップや関係性のスタイルは、プレッシャーやストレスによって(一時的に)変動するもの」といった現実的な面を見落とさない。
この「絶対壊れない完璧性」よりも「弱った時に素早く認知して、どう回復するか」と向き合った話に、とても希望を感じた。
自分自身がぼんやりと感じていた課題(「思いやり」はまだがんばれても、「挑ませる」が上手くない気がする)についても、その症状と課題、そして処方箋を得ることができたはずだ。
改めて、「リーダーシップってなんだっけ?」って考えてみたくなるきっかけとなった1冊だった。
自分自身、ここのところ(というかCAL-1を受けてからかなー)は「サーヴァント性よりも自己変革性を伴って行動するリーダーシップを獲得したいな」と感じていたところだったので、この「けしかける」ような側面・・・「フォロワーがしっかりと高いレベルの挑戦を続けられるか」に重きをおいた話は非常に面白く感じた。
強いて言えば、「自分自身がどのようにビジョンを掲げ、それに邁進していくか/周りを巻き込むか」に関しては扱いが薄かった気がする(あくまで「フォロワーを内発的な動機によって行動させる」が目的)ので、その辺りはまた別の本や理論で補っていきたいところ