「プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-17です。 adventar.org

day-17は「プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」です。

どんな本

この本は以前にも読後感想記を上げています。

daisuki.nichiyoubi.land

2020年に読んだ本の中で個人的ベスト3に入るような良書だと思っており、「とても読みやすくて、刺さって、自分の中にある”理想”が研ぎ澄まされる」みたいな印象を受けました。あと、ページ数が少ないという点でも凄い。他人に薦めてぇ〜〜ってなる1冊です。

この本は直接的に「アジャイルになろう!」なんて扱ったものではありませんが、「顧客に価値を届けよう」というのは正にアジャイルが手に入れたかった「結果」そのものであり、「答えを最初に決めず、仮説を持って実験をして常に最適を目指し続ける」というのはリーン思考やアジャイルの精神性そのものであるように感じました。

という訳で、ちょっとアジャイルスクラムを齧ってみた今の自分から、この本はどんな意味を持っているのか?をまとめてみようと思います。

お気に入りポイントかいつまみ

アウトカムに焦点を当て、実験マインドを取り入れる

これは、4章「プロダクト主導組織」での「○○主導」を類型化する中で、プロダクト主導組織について触れた節にある表現です。
本書の最も主要なテーマの1つであると同時に、個人的にもかなり刺激を受けた考え方でした。

そして、これは「動くソフトウェアを」「計画に従うことよりも変化への対応を」「価値のあるソフトウェアを早く継続的に」「フィードバック(XP)」「検査と適応(スクラム)」といった、アジャイルマインドとでも呼ぶべき重要な態度と同じ地平を見据えていると感じます。

本書の副題である「ビルドトラップ」が、「価値から逸脱した開発活動」や「柔軟性を欠いた硬直的なリリース計画」の先に陥る状況だとして、「顧客の方を向いて、必要なことをやっていこう」というのは偉大な処方箋となります。

そして、そんな「プロダクト主導組織とはどういう在り方か」「何が必要で、どう作るか」が本書で説明される話題でもあるのです。

既知/未知のマトリックス

「プロダクト開発は不確実性に満ちている」とし、それに対応するために「学習」が挙げられていますが、では何から学んでいけばいいのか?
状況を紐解いて進むべき方向(学ぶべき課題)を整理する、というための考え方として「未知・既知」を組み合わせたマトリックスが紹介されています。

「既知の既知」「既知の未知」「未知の既知」「未知の未知」という4象限で、情報を整理しようと試みるものです。 プロダクトマネジメントは、それらの「未知」との向き合い方が非常に重要になります。リソースをどう活かし、課題をどう解くか?に直結するからです。

この考え方・整理の仕方は、「プロダクトをどう作るか」という枠組みをこえて、今の自分がプロジェクトや組織だったり、あるいは自分自身がやるべきことを考える上で、非常に重視する考え方のフレームワークとなりました。
実際に、これをベースとしたフレームワークを、チームの形成期においてアイデンティティ強化のためのワークとして扱ってみたり、ファシリテーションをする際に情報の整理のための観点として利用したりしています。パワフルなツールだな、と感じました。

スクラム(など)との組み合わせ

スクラムは時折、勘違いされて期待されすぎている・・というように感じることがあります。
乱暴に言えば、「どうやってうまく協働するか」というフレームワークとして、スクラムガイドで説明されている内容は主に組織面をクローズアップしている”だけ”のはずが、「良いものが作れて、価値が最大化される」ところまで期待を背負い込まされてしまっているような、そんな違和感です。

価値のあるものを作りましょう、とは言うものの価値の求め方を教えてはいない。品質を上げましょう、とはいうものの品質の上げ方を教えてはいない。といったような。
そのシンプルさと汎用性が強みで魅力だと感じるのですが、それ1本で「完璧」なはずではないのです。

プロダクト開発を「プロダクト(やプロダクトビジョン)」「技術」「チーム」の3本柱から成るものとして捉えるなら、スクラムは「チーム」の話だと言うのが、個人的にはしっくりきます*1

それに対して、本書は「プロダクト」の側面を語ったものです。 「ウケるサービスの作り方」ではないけど。
プロダクトを考える、それを組織レベルでやるには?という。

(プロダクトを測定する)良い指標、戦略・戦術の策定と展開、プロダクトマネージャーのキャリア(階層と責任)、オペレーション・・といった内容です。

まとめ

アジャイルの本」で補いきれない部分を、しかし志を共にしながら描いてくれている!!という気持ちになる1冊です。
実現するには相当にレベルが高いとも思います。が、始めなければ進まないはずです。
理想的な組織状態に至るまでの大まかな道筋を与えてくれる良書だなと。

・・・この記事を書くにあたって、パラパラとページを捲りながら軽く読み返していたのですが、直近で抱えている個人的なモヤモヤに刺さりすぎてヤベェなってなりましたアドベント終わったら1回ちゃんと読もう!

*1:ただ、例えば「チームビルディングのためのパターン」とでもいうような、具体的な話を扱っている訳ではありませんが。「どこにでも適用できる」といった最大公約的な話をしており、チームによって「足りないものを補う」「細かい所を作り込む」という創意工夫は要求されます