「OODA LOOP(ウーダループ)―次世代の最強組織に進化する意思決定スキル」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-7です。 adventar.org

day-7は「OODA LOOP(ウーダループ)―次世代の最強組織に進化する意思決定スキル」です。

どんな本

スクラムの考え方にOODAループが大きな影響を与えている、という言及のされ方をチラホラと見かけるので、このカレンダーに入れています。

OODAループについてはコチラ。 ja.wikipedia.org

さて、本書は「OODA LOOP」というタイトルであり、実際に行動ツールとしてのOODAループを取り扱っています。
しかし、実際には「OODAループ的な思考態度で動ける組織を、どう作れば良いのか?」というのが主題であったように感じます。
むしろ「ビジネスノウハウ」的な観点で言えば、これよりも適切な本があるかもしれません。
いってみれば、「スクラムはタイムボックスベースで高頻度なコミュニケーションを用いてすすめる開発手法」と捉えるか「スクラム自己完結型組織の実現を目指して、よりよいコミュニケーションを実践しながら適応的な動きを志向したもの」と捉えるか?くらいの違いがありそうです。

という訳で、「その考え方がなぜ大事なのか」「それが重要になる局面とはどのようなものか」が分かる本です。

「日本語版への序文」の一節で、その雰囲気が感じられるでしょうか。

企業は調和のとれた情勢判断を活用し、「暗黙のレパートリー」(implicitrepertoires)を拡充していく必要がある。すなわち、フォーマルな審議や官僚的手続きを抜きにして、共通の情勢判断から迅速かつスムーズに一連の行動が実行されなければならない。暗黙のレパートリーとは暗黙的に実行される行動の束のことを意味する。
本書は、これをいかにして実現することができるのかについていくつかのアイデアを提供する。その結果、『ハーバード・ビジネス・レビュー』の記事が結論づけているように、ベストな企業は新しい方法を創造するのである。OODAループ・モデルはまた、チームメンバー間で類似した情勢判断を醸成する学習ループを含んでいる。その学習プロセスのなかで新しい行動が暗黙のレパートリーに加えられていく。

チェット リチャーズ. OODA LOOP(ウーダループ)次世代の最強組織に進化する意思決定スキル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.108-116). Kindle 版.

お気に入りポイントかいつまみ

OODAループについて勘違いをしていた!と思った

PDCAサイクル」と比較することもあってか、よく「観察→情勢判断→意思決定→行動」という流れをたどるものであると言われる気がします。 しかし、理想的なOODAとは「暗黙的な情報をそのままにしてでも、状況に応じて高速に進める」ことであり「それが適わない場合においてのみ、”意思決定”のステップを挟む」とされています。

f:id:o0h:20211208062030p:plain

そして、これ(理想のフロー)を回せる組織は強力な優位性を確保できます。

また、もう1点の自分の中で更新された知識としては「観察」についてです。
以前は、かなり受動的に「あるがままを認める」的なパートなのかと考えていました。主観を挟まずに、ニュートラルな状態で判断をするような。

しかし、実は「主体的に情報を揃えろ」という事になっています。
なんというか、前提として「戦場・空中線で勝ち抜くために考えられたもの」であるので、本当に一刻の余裕もないな!という感じです。
以下の一文が端的に「観察」を語っているのではないでしょうか。

まず、観察は単に「見る」(see)以上のことを意味する。「吸収する」(absorb)という言葉のほうが、その消極的な意味合いがなければ、より適切かもしれない。「外に出て、可能であればどのような手段をとってでもあらゆる情報を取ってこい」という文章のほうがさらに真意に近いだろう。

チェット リチャーズ. OODA LOOP(ウーダループ)次世代の最強組織に進化する意思決定スキル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1615-1617). Kindle 版.

「最強組織」になるために必要なこと

先程、「意思決定」を挟まずに進めるのが理想という点に言及しました。
すなわち、「上司の判断を待たずに動ける」ことで機敏で適応的な行動につながるようなイメージです。 本書では「皮膚感覚で判断する」という表現が頻繁に用いられています。

そのためにはどうするか・・・?というと、「考え方を揃えておく」というものです。
ここで「ミッションを理解し、浸透しておく」といった、言ってしまえば「いつもどこかで聞くような」話になっていきます。
アジャイルな組織づくりでも見かけるし、「ユニコーン企業のひみつ」でも書かれていたし、結局の所は組織の末端まで「自分の脳みそで動ける」ことが不確実性の時代における競争力の源泉なのだな・・・と感じました。

本書の主題は(副題を見て分かるように)組織づくりに置かれています。
例えば第4章「OODAループはビジネスに何をもたらすか」や第5章「OODAループを高速で回すための組織文化」などは、非常に興味深いのではないでしょうか。

まとめ

軍事ものとしての側面もあったり、「読み物としても興味深いな」と感じる面も多くありました。他方で、人によっては「少し冗長かも・・・?」と感じられる面もあるのかも知れません。

個人的には、「期待していたものをいい意味で裏切られた」という面で予想以上の内容でした。 読む前は「OODAループって、何となく知っているけどどういうものなんだろ〜」が知りたかったわけですが、蓋を開けたら「機動戦を制するための指南」という感覚のほうが近いです。そして、それは「単なるツール」を超えて「どうやって備えておくか = 組織を作っておくか」の方が寧ろ重要になってきます。

もし興味を持った人がいたら、巻末にある「訳者解説」をめくってみると雰囲気が分かりやすいかも知れません。

最後に2箇所ほど引用して、本日の記事を終わりにしたいと思います。

たとえば、本書でも強調されているように、OODAループは「観察」→「情勢判断」→「意思決定」→「行動」と時系列な段階を経て進展していくことを想定しているのではない。それは暗黙的コミュニケーションに失敗した場合であり、理想は、「観察」→「情勢判断」→「行動」のサイクルである。

チェット リチャーズ. OODA LOOP(ウーダループ)次世代の最強組織に進化する意思決定スキル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4698-4701). Kindle 版.

ここにあるように「失敗した場合であり」というのは、なかなか衝撃的な見方でした。

機動戦とは決して「鳴かぬなら鳴かせてみせよう」という奇策のことではない。あくまでも事実を素早く観察し、そこから事態の趨勢を判断し、決断につなげていくことである。つまり、「形」を観察しつつその背後にある「勢い」を洞察することがOODAループを効率的に回していく鍵だと思われる。情勢判断であるOrientがビッグOと呼ばれる理由はここにある。
このOODAループを単なる仕組み、ハウツーとしてだけ捉えたとすれば、その本質を見逃したことになるだろう。老子孫子リデルハート→ボイド、という系譜に共通する糸は、できるだけ戦いを避けるという不争の徳であり、無の働き、勢いの流れ(それはしばしば心理的な勢いとなる)に逆らわずにしたがうということ、そして、その勢いの方向性を有利な方向に展開するように、形を通じて間接的に働きかけるということである。

チェット リチャーズ. OODA LOOP(ウーダループ)次世代の最強組織に進化する意思決定スキル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.5266-5274). Kindle 版.