「アジャイルコーチング」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-22です。 adventar.org

day-22は「アジャイルコーチング」です。

どんな本

アジャイルコーチとしてチームに関わる」という題目です。どういう振る舞いを求められるのでしょう?といった話が書かれています。

もちろん役割としてアジャイルコーチを・・というのが、本書の最も合致しそうなシチュエーションだと思いますが、もっと広くの人に役立つ本です。
(アジャイルソフトウェア開発をやり始めた)チームのリーダー、マネージャー、スクラムマスターなど。個人的には役割としての「アジャイルコーチ」という存在を認識していなかった時に、「スクラムマスターのやるべき仕事」を理解したくて手にしました。
そして、実際にスクラムマスターの「コーチとして」「チェンジ・エージェントとして」の能力を開発していこうと考えた時には、手助けになてくれそうな本だなと感じました。

「どういう風に・どういう場面でコーチが求められるか」というのは、ひいては「自己管理型のチームを育むにはどう支援すべきか」という話にも通じます。そういう意味で、コーチやリーダーだけではなくてメンバーと一緒に本書を読んでみるのも、チームのレベルを上げる手助けになる気がします。
日本語版の推薦の言葉から、@kiroharadaさんの言葉を借りれば「コーチに限らず、チームでシステム開発をする難しさを知っている人には、ぜひ手にとって欲しい本」とのことです。

「コーチとは」から始まり、アジャイル開発の難しい局面(プラクティスXXを導入したが上手く行っていない、など)についての観察や介入の仕方、そして(チームだけでなく自身も含めた)持続的な成長をしていくための指南へと続きます。

いわゆるコーチングだけでなく、ファシリテーションティーチング的な「やるべきこと」についても扱われた本です。
扱う範疇もチーム作り、技術的プラクティス、カイゼンへと渡ります。

ボリュームの割には中身がギュッと詰まった、それでいて「実行に移すにはこれらはあまりにも状況によりすぎる、自己成長と徹底的な観察(と引き出し)が必要そうだ、それに対してこの本は重要な/頻出する問題についてベースとなるようなヒントを与えてくれているな」と感じた本でした。

お気に入りポイントかいつまみ

「直接手を動かさないでチームを支援する」ってどんなイメージ

サーヴァントリーダーシップやコーチなど、「自らがど真ん中に立って課題を解決するわけではない」という立ち回りがあると思います。
実際のところ、それは「出来るはずの人が出来ることをやっていない」というヤキモキした気持ちになったりもすると思うのです。特に、プレーヤーからマネージャーだったりスクラムコーチに転身した場合など。

それに対して、この本には「間接的に助ける」「そっと支援する」といった感じの関わり方を、考え方と具体的な行動指針をあわせて説明しています。

個人的には、第3章にある「質問してはいけない時」、第5章「デイリースタンドアップ」での「自分から先に言わないようにしましょう。」「問題そのものをあげてこないということもあります。コーチとしては、探究心を持ち続けてください。そして、改善の機会がないかと目を光らせてください。」といった箇所など、特に印象に残っています。

チームの成功を一緒に目指す存在ではありつつ、あくまで主役はチームであること、そしてコーチはその支援者である・・・なんて事を感じます。
(忍耐強く付き合っていく、というのがメチャクチャ大変そうではある!)

苦難

チームに対して自ら積極的に関わり影響を与えるのではないにせよ、全くもって放置して消極的・受動的に関われという話ではないはずです。
チームが失敗してしまっては(良い学習にもならない、という意味での失敗)、元も子もありません。

そうすると「チームの停滞」「間違った方向への進行」「自らの”エゴ”を抑え込めるか」などなど、色々な困難が発生します。

本書の多くの章で、「苦難」という節が設けられています。
その名の通り、コーチとしての読者がこれから遭遇するであろう苦難(とその処方箋)を紹介する節です。 こうしたインプットをくれることが、本書の「コーチを目指す人・取り組んでいる人に寄り添った本」としての特徴を際立たせているようにも感じます。

言ってしまえば、コーチに求められる最低限の資質は「自分で考えて最適な選択肢を講じることができる」ことだとも思っています。
なので、必ずしも「マニュアル的に、こうした苦難が現れてくると信じ込む・紹介されている対処を試みる」ことが正解ではないのだと思います。寧ろ、形を変えたり強弱を持って現場に出現してくる事が多いのではないでしょうか。
そういう意味では、別に「正解」や「How to」を与えてくれるものではないはず。

それでも、どうやってチームを観察していくか?どういった部分を(特に)気をつけていれば全体をつかめるか?といったポイントとして非常に有用だと思うのです。

また、「どんな素晴らしい(と自分が思える)ことであっても、人と人がいるところには必ず苦難がつきまとうものだな」とも、改めて感じました。

まとめ

各章・各節をパラパラと捲って見て見るだけでも、思い出しがてら気付かされたり学べることの多い1冊だなと感じます。
時折、手にとってみたいです。

個人的には、より「チェンジ・エージェント」的な側面を強化するのにはFearless Changeと併せて読むことで「踏み出し方」「促し方」「辛抱のやり方」も学ぶと良さそうという気がしました。相性の良い本同士ではないでしょうか。

「チームを育てていきたい」と考えている人には、今の役割や立場に関係なく得るものがある本だと思います

「いちばんやさしいアジャイル開発の教本 人気講師が教えるDXを支える開発手法」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-22です。 adventar.org

day-2は「いちばんやさしいアジャイル開発の教本 人気講師が教えるDXを支える開発手法」です。

どんな本

アジャイル開発ってどういうものなんだろうね?」というのを扱った本です。
「教本」というシリーズ名の通り、レベル感としては初学者向け・実践よりも知識や効果について重心を置いている、それに挿絵が多く見出しもキレイなので紙面の印象としてメリハリのある感じも受けました。読みやすい・見やすいと思います。

個人的には、「アジャイルって全く触れたことがなくて」とか「スクラムやカンバンを始めてみようと思うんだけど」という人たちに渡しやすい本ってないかな?と思って探している中で、手にとった本です。

経営層・マネージャー層に向けて「アジャイルとは」を説明する本は読んだことがあったのですが*1、「開発者だけに向けたわけでなく、PdMやビジネスサイドだけに向けた訳でもなく、本当に概要や思想の感覚を知るためにアジャイルを概説した本」という意味で少し珍しく感じました。(自分がこれまでに読んでいないだけで、そういった書籍はたくさんあるとも思っていますが)

アジャイルについて、登場の背景・考え方の特徴や強み、弱み・(スクラムを例にした)活動の雰囲気を知ることができそうです。

お気に入りポイントかいつまみ

概要的であり「なぜ」「なにを」に終止している点

「入門書」にはいくつか方向性があると思うのですが、その中の1つは「真似してやってみれるようにする」ためのプラクティカルな本だと思います。
で、この本はその真逆、とても「概要を広くそれなりに浅く」のレベル感を保っているように感じました。
そのため、開発職が読んでもいいし、非開発職(プロダクト制作/製作に関わっていない人、プロダクト部門でない人も含め)が読んでもOK!なバランスになっています。

「はじめに」で述べられているコンセプト、

アジャイル「開発」という名が示すように、技術者をターゲットとしているのはもちろんですが、経営者やマーケッター、セールスパーソンなど非技術者でもアジャイル開発を理解し実践できるように心がけました。

市谷聡啓,新井剛,小田中育生. いちばんやさしいアジャイル開発の教本 人気講師が教えるDXを支える開発手法 (「いちばんやさしい教本」シリーズ) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.39-41). Kindle 版.

が実現されているように感じます。

程よく「どうやって」にも触れている

執筆陣には、「カイゼン・ジャーニー」のコンビの名前もあります。
あちらあとても「現場的」な本でした。まさに「このとおりにやってみよう、真似してみよう」というプラクティカルなところが先にあり、そこに対して理論や背景を解説するような。
もちろん、その「やり方」「理論」の両軸ともしっかりと質が高かったから良い本足り得るわけです。

そんな面々が関わっている本なので、本書も「どういうことなのか」の説明が分かりやすいです。
先に書いたとおり、全体を通じて「概要」レベルの話を展開している訳ですが、そこから「実際にはどんな感じなの」を感じさせる程度に少しだけプラクティスの話も入っています。(例えば「プランニングポーカー」とか「ペアプログラミング」「KPT」なんて単語も出てきます)
これがあることで、「だたの理論」で終わらずに、「実際に現実の開発プロジェクトで使われているんだろうな」というイメージをするための橋渡しになっているように感じます。

まとめ

自分としてはサラサラと読む感じでしたが、初学者が2,3冊目に読むような本としては薦められそうだなと思いました。
例えば「カイゼン・ジャーニーを読んでみたが、より理論的な所を知りたい」と感じた人にとってこの本が答えになるかも知れません。

「あのチームはアジャイルなんとかっていうのをやっているらしいぞ」「なるほど、それは一体何なんだ?」って感じになったら読んでみて欲しい本。

「アート・オブ・アジャイル デベロップメント ―組織を成功に導くエクストリームプログラミング」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-21です。 adventar.org

day-21は「アート・オブ・アジャイル デベロップメント ―組織を成功に導くエクストリームプログラミング」です。

どんな本

「アート・オブ〜」シリーズは須らく名著が多いですが、これもその内野1冊・・・

タイトルには「アジャイルデベロップメント」とありますが、本書は数あるアジャイルの手法のうちエクストリーム・プログラミング(XP)に手法を当てており、XPのプラクティスについての包括的な解説書になっています。
『アート・オブ・アジャイル・デベロップメント P ix』

と、監訳者まえがきにて説明されています。
ただし、例えば「アジャイルには興味あるけど今のチームがスクラムだから、XPはちょっと」みたいな話があったとしても、両者には通ずるところも多いので「スクラムの人」にとっても読んで見る価値は非常にあると思います。
むしろ、「フレームワーク」性が高いスクラムよりも、「価値・原則に対してシンプルに解放を提供している」というXPのプラクティス群は、寧ろ本質を感じ取りやすいのかも知れません。

お気に入りポイントかいつまみ

体系的・網羅的なプラクティスの説明

(体系的とは?っていうのが少し本書の目指しているニュアンスともズレるかも知れませんが)

先に紹介している、「エクストリーム・プログラミング(XP、XP入門)」「エクストリーム・プログラミング 導入編」よりも、プラクティスを広く扱っています。
それと同時に、オリジナルのXPにないプラクティスを追加したり、あるいはあるものを削ってみたり。
そうやって「体系・網羅性」の面での完成度、説得力を高めています。

とりわけ「特徴的だな」と思ったのは「XP 第1版」「XP 第2版」「スクラム」と並べて「本書で扱っているプラクティス」の相互的な有無・対応をまとめている表でした。
それぞれのフレームの中に存在するプラクティスや、近接する・別の名前が付いているプラクティスの対応表が作成されています。
そして、このような表を見ながら改めて考えてみると、「XPもスクラムも、(時系列的にはそうじゃないが)根は一緒。『どうアジャイルさを獲得するか』という部分から、それぞれのアプローチを取っているだけで、本質的に望んでいるものや描いているものは変わらないんだな?」という気持ちになりました。

どういうのがアジャイルなんだっけ、というヒントになりそう

XPの本をいくつか読んでいると、それぞれのプラクティスが不思議と「当たり前にやれているべきこと」のように感じられてきました・・・。
タイムボックスを決めて、イテレーションを重視して、ペアプロを含めコミュニケーションを重視して、わかりやすい言葉でストーリーを書いて価値をみんなで考えられるようにする。

もちろん、「言うは易し行うは難し」です。
じゃあ実際にやってみようぜ!というと、価値→原則から踏み込んだプラクティスの話も当然ながら必要になってきます。
その点、この本は十分なボリュームでXPを語っていることもあり、プラクティス側面の話も「不足なし」といった感じです。
なので「じゃあ今の職場で○○プラクティスを導入するとしたら、どんな感じになっていくんだろう?」と、自身の身に置き換えて考えやすいような気がしました。
(もちろん、かといって原則以上のレイヤーの話が蔑ろにされているか?というと、そんなことはなく!)

XPを(フレームワークではなく)パターン・ランゲージとして見た時に、「少しずつ、成功の匂いがするところから始めて見る」というのはアリなんだと思います。
パート2「XPを実践する」の章立ては、「考えること」「リリースすること」「計画すること」「開発すること」と、アクティビティ別に分類されています。
これを見ながら、いま困っている所・弱い所を当てはめて考えながらその時々に読み返してみる〜なんて使い方も可能だろうな、と思いました。

まとめ

XPないしアジャイルソフトウェア開発の本ではありますが、「開発を良くしたいな」と考える開発者やチームリーダーにとっては目を通してみる価値のある1冊だと感じます。
もし「XPについて知りたい」ということであれば、まずはXP入門(白本)を読んで、そこから「導入編」に進むか本書に進むか?くらいの位置にあると思います。(「導入編」の方がプラクティスに寄っている印象)

XP全体的な話題を取り扱っており、それぞれについて言葉足らずにならないように説明をしている・・ということで、全体のボリュームはやや多めになるのかも知れません。
ただ、全体的に文章が平易であるのと展開も拙速すぎず、内容も理論的なものと具体性を適度に織り交ぜていることから、読後感としては「重かったなー疲れたなー!」といった感じはしませんでした。

「UltimateAgileStories 10th Anniversary」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-21です。 adventar.org

day-21は「UltimateAgileStories 10th Anniversary」です。

booth.pm

どんな本

国内のアジャイル系のコミュニティの人達による、同人誌です。
内容はさまざま!!目次を眺めていると、Scrum Festみたいなイベントのタイムテーブルを見ているような感覚になりました。楽しいですね。

見方を変えると、「当たり前なこと」が書いていなくて「好きな人が好き勝手書いている」という感じでもあるので、オタク感というか同人誌っぽさがあり素敵でした!

お気に入りポイントかいつまみ

全体的にどういう話か、というのをまとめるのが難しいので、(今の気分で)好きだった話をいくつか。

アジャイル放談

最初の記事。
アジャイル、XPにせよ何にせよ基本的には『物理的に空間を共有し、近い距離で働くこと』を強く推奨しているものが多いと思います。
そんな中で、2020年に出された本誌では「リモートワークどうよ?」といった話を。座談会の書き起こしです。

色々な所に話が飛び火しながら、後半以降の「アジャイルとは何だったのか」「スクラムは、XPは、」なトピックが出てくるとギアが1つ上る感じが。
アジャイルコーチやスクラムマスターたちの「実際にやってみて何が起きたか、どうなったか」という話には、なるほどなぁと感じる部分が多くあります。
(あと単純に皆さんの知識の深さや話題の広さがすげぇ・・)

その中でも、「いきいきとした開発(とアジャイル)」という話があったり、「スクラムほどXPが(「マーケティング」的に)成功しなかったのは。何が違ったのか」とか「でも、ワクワクするのはどっちだ・・・」とか、めちゃくちゃ面白いなーと思いました。

そして角谷さんの↓の講演が見たくなる・・・アーカイブとかあるのだろうか

speakerdeck.com

Fearless Change でやってみる現場改善

Fearless Changeかなり好きな本なのですけど、それを「使う」事に目を向けた話です。
もともとがパターンランゲージの本として書かれているので、個別の「パターン」を取り入れていくだけでなく「組み合わせることで全体を作り上げる」というための機能もしっかり備えているのです。
流れ、組み立て、そうした後に得られるアウトカムを・・・というのは、「うんうん、そうだよねやっぱりそれをやりたいんだもんな」と思いながら読みました。

新任のスクラムマスターが観察すべき5つのこと

私のCSM研修の際のトレーナーであるharadakiroさんの章。
とてもコンパクトなのですが、力強さを感じました。

自分自身として、今は(スクラムチームでもないのだけど)プロジェクトを直接指揮するよりもプロジェクトリーダーの壁打ち*1役のような関わり方が多いです。
で、プロジェクトって生き物だよな〜と思っているので、「まぁ元気そうならどうにかなるんじゃない」という感覚もあり。勝手に立ち上がれる、自分で進める、適度に進んで行ければゴールには着くでしょう!と。 逆に「まだ元気が足りねぇな」ってなると、必死でテコ使ってぐいぐい押したりするわけです。

この章で言っていること、すなわち「観察すべきこと」は全て「○○は元気か」「○○に活気はあるか」で纏められています。
元気があれば何でも出来る。あ、これで冒頭の話・・「そもそも、開発っていきいきとやりたかったはずだよね」的なものにも繋がっていくんですかね。

中動態と感覚統合とアジャイル

書いてある内容が難しい・・・という感じはしつつ、これは深く頷きながら読みつつ「はぁ〜ん」と嘆息しながら読みました。

そこでアジャイルを中動的に捉えることを推奨したいです。自分ごとと して内なる主語としてその過程の中にいる立場で地に足をつけ、成長し ていく姿勢です。そこには「〜する」も「〜される」もありません。そ の状態になるためには自己を見つめ、自由と強制のどちらでもない立ち 位置に「いる」ことが大切になるはずです。プラクティスの実践や学び に高揚することは大事なことですが、今自分たちはどのような過程に「い る」のかに着目することで情熱と冷静の間に身を置くことができるので はないでしょうか。複数の人たちが集まり協働するチームだからこそこ の姿勢が大切だと実感しています。 『UltimateAgileStories 10th Anniversary P111』

「する」でも「される」でもなく、「ある」とでも言うような。 強い意志を持って(ぐいっと自他を押すように)動くでもなく、誰かに命令されてやるでもなく、自然と「次の行動が湧く」という感じなのかな?と捉えています。
で、これってOODA LOOPでいうところの「皮膚感覚」だな、と。

私は、数年前より感覚統合とアジャイルチームをテーマにして講演やデ ィスカッションを重ねてきました。そこで大切なことは、アジャイルや チームでの活動においては、如何にチームとして感覚統合できるかがプ ロダクトとチームの成長に関係しているのではないかということです。 (中略)
チームの感覚統合とは、「今の状況がわかっている」(固有受容覚)と 「バランスが取れている」(前庭覚)であり、これを土台として姿勢・ 言葉・感情 → 学習・対話・実践へと繋がっていきます。土台がないと 学習・対話・実践したことが定着せず、能動態と受動態の対立構造に陥 ってしまい、本質的な取り組みに注力できなくなるという構図です。 『UltimateAgileStories 10th Anniversary P112』

ミッション(プロダクトビジョン、ワーキングアグリーメント等のValue)による方向付けと、「見えるか」による現状理解の解像度を揃える&十分に情報を流通させ続けることによって、自然と「これが今やるべきことだな」といったタスク感覚が自然と(内発と外発の中間、もしくは融合地点から)湧いてきて、それに違和感もなく動く。気付いたら勝手に体が動いているような、そんなチームはとても強いよなぁと思います。

まとめ

この記事を書くために、改めて目次を読み返していると「あれもこれも面白そうなものがたくさんあるよな〜」と再実感しました。
気が向いた時にパラパラとめくって読みたい本だな、と思います。
あと同シリーズの過去の版も興味あるかもな、読んでみたいな〜

*1:というよりは積極的にティーチング〜コンサルティング寄りのコミュニケーションが多いですが

「Software in 30 Days スクラムによるアジャイルな組織変革"成功"ガイド」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-20です。 adventar.org

day-20は「Software in 30 Days スクラムによるアジャイルな組織変革"成功"ガイド」です。

どんな本

スクラムの生みの親である二名による、「ソフトウェアを開発”しない”人に向けて書いた」、なぜスクラムが成果を上げるのか?を説明した本です。
すなわちシニアな管理者や経営者向けの本ですね。これまでに自分が読んだ本だと、アジャイル開発とスクラム スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術辺りと対象読者が近いのかなぁ。

これまでの開発プロセスから脱却すべき理由や、スクラムの原理についての説明、そしてプロジェクトレベルでのスクラムの動き方から複数チーム、組織レベルでの変革について取り扱っています。
「現場レベルでのコツ、ガイドライン」みたいな話はスコープ外ですが、「ビジネスに対してどう有効なのか」を集中的に記述しています。

お気に入りポイントかいつまみ

ビジネスサイドや管理側から見たスクラム

スクラムについて「実際にやる側としてどう頑張るか」という本はとても多く、役立つものだと思います。が、「そうじゃない人向け」の説明が多くあるのはそんなに多くないかも知れません。自分の見ている範囲が狭いだけな気もするけども。

概要レベルで「スクラムチームは何をしているのか(どういう風に動いているのか)」と、「どうやったら良い・悪いを判断できるのか」をチームの外から知るのには大きな価値があると思います。
そうした話こそ、本書に書かれていることです。

第1部では「経験主義」に主に焦点を当てながら、自己組織化や透明性についても紹介されていました。
この辺りを押さえながら、スクラムでよく使われるメトリクス = ベロシティだったりPBIの数だったり、を知ることでコミュニケーションに役立てていけるはずです。

目のさめるような事例

スクラムをやってどうなったか」という話が実在の企業のエピソードとして所々で紹介されています。
顧客満足度の改善、技術的負債の減少、進捗の透明化と従業員の活性化、etc・・・

中には「Adobe CSの開発にスクラムを導入したら品質が上がった」といった、「あのプロダクトの裏にもそんな話が・・・」という(内容以上に?)ワクワクするものも含まれています。

まとめ

本書が組織内でのレイヤーの高い人に向けて書かれていることもあり、大きな話も扱われています。
スクラムとは」から始まり、導入の拡大、そして「企業の変革」へと話が展開されました。副題にもある通り「組織変革”成功”ガイド」というのが、やはり最終的に目指している地平だと思います。
スクラムを始めてみましょう!」といった本に比べれば、なかなか息の長い話になっていきそうです。実践していって、その「ゴール」にたどり着く・・というには時間がかかりすぎてじれったさもありそうです。
ボリューム自体はそんなに多くない本ですが、今の自分達がどこにいるのか?を分析して比較しながら、タイミングに合わせて必要な所を読んで見るというのも良いかも知れません。

「エクストリームプログラミング」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-19です。 adventar.org

day-19は「エクストリームプログラミング」です。

どんな本

アジャイル開発とは何だったのか、その原点を再考する新訳
優れた技術力と良好な人間関係をもってしてソフトウェア開発を成功に導く、ケント・ベックによるXP(エクストリームプログラミング)のすべてを集約した> 名著“Extreme Programming Explained: Embrace Change” の新訳版。アジャイル開発の原点を知る、必読の一冊です。
(amazon.co.jpの書籍紹介より)

「Extreme Programming Explained: Embrace Change (English Edition) 2nd」の翻訳で、出版時期は2004年なので「アジャイルソフトウェア開発宣言」後となります。初版は1999年なので、その前ですね。

いずれにせよ、XPの父と呼ばれる1人であるKent Beck本人が、「アジャイル」や「XP」がその概念も言葉も今ほど一般的に普及させる前に書かれた、「XPとは何であるか」という本です。(それもあって、第2版は初版よりも少し「前提」が変わっている感じもありそうです。)
逆に言えば「アジャイル」という言葉を用いずにXPを説明しきっている本であり、実際に本文中に「アジャイル」という単語は基本的に出てきません*1
「既に存在する概念を取り扱った本ではない」という立ち位置だからこそ、読者に対して本質的な説得力を見せつけてくれるような印象を持ちました。

内容としては、「価値」「原則」を全体の4割近くを割いて説明した後に、「主要プラクティス」「導出プラクティス」があり、ここまでが「第1部 XPの探求」。そして「第2部 XPの哲学」として、哲学やルーツ、現在について語られています。

お気に入りポイントかいつまみ

XPの価値・原則

第1章の書き出しが「エクストリームプログラミング(XP)はソーシャルチェンジである」から始まっているように、XPは根本的で広大なインパクトをもたらす(or与えようとしている)取り組みだと思います。

では、それは一体なにを目指しているものなのか・・・というのが、まさに「価値」の部分に現れてくるのです。

同じく第1章の最初のページにある文言。

XPとは、自分たちのできることをオープンにして、それを実行に移すことだ。そして、そのことを他の人にも認めたり、期待したりすることだ。「自分は頭がいいんだから、ひとりで上を目指せばいい」などという未熟な思い込みを克服することだ。もっと広い世界で成熟した場所を見つけることだ。ビジネスや仕事も含めたコミュニティーのなかで、自分の居場所を見つけることだ。自己超越のプロセスのことだ。そのプロセスのなかで、開発者として最善を尽くすことだ。ビジネスのためになる優れたコードを書くことだ。

Kent Beck,Cynthia Andres. エクストリームプログラミング (Japanese Edition) (Kindle の位置No.273-278). Kindle 版.

何かをするには、個人であれチームであれ「思考」と「行動」が必要になりますが、その裏には「何が良いと判断するか」「どうしたら上手くいくか」といった、色々な指針があります。
そこで「価値」「原則」「プラクティス」という、ハッキリと違うようで似通った部分もあり、どうにも言葉で説明が難しいような概念が出てきたりもします。

ケントは、ここの違い(=何をもたらすか)をまずは明確にした上で、「価値を明確にすることが重要だ」と言います。
ペアプロ、CI、TDDなどの「プラクティス」もそれぞれ単体で非常にパワフルな効果を発揮します。
しかし、XPはもっと壮大な話だと知りました。
それらを意味づけて統合していくものが「価値」です。

価値を明確にすることが重要だ。価値がなければ、プラクティスはすぐに機械的な作業になってしまう。活動そのものが目的となり、本来の目的や方向性が失われてしまう。プログラマーが欠陥を認めないとすると、それは技術ではなく価値の問題だろう。欠陥そのものは技術の問題かもしれないが、欠陥から学ぼうとしないのは、そのプログラマーが学習や自己改善に価値を置いていないことの表れだ。これでは、プログラム、組織、プログラマーのいずれの利益にもならない。プログラマーがプラクティス(ここでは根本原因分析)を効果的な時期に、正当な理由で実行できることが、価値とプラクティスが結び付いているという意味である。価値はプラクティスに目的をもたらしてくれる。

Kent Beck,Cynthia Andres. エクストリームプログラミング (Japanese Edition) (Kindle の位置No.461-468). Kindle 版.

「価値」を咀嚼し、それをプログラマや開発チームの世界に落とし込んだ「原則」、その実装としての「プラクティス」。「価値」を中心に、どれかに偏りすぎることなく抑えていくことが、開発活動にエネルギーを与えてくれる感じがしました。

また、価値は時代が変わっても変化しにくいもので、プラクティスは技術の進化によって陳腐化(当たり前化)したり不要化したりもするのかな?という気もします。

XPについて触れる

XPは、マインド・チーム・技術プラクティス・コミュニケーション・計画・・・と、非常に多岐に渡って話をしています。
スクラムほど普及しなかった」という言説も見かけますが、その理由としては「大きすぎてとっつきにくい」という性質にもあるのかな?と思います。
(反面、スクラムはとても小さくまとまっていると思います。なので「やってみた」とは言いやすい。理論、価値基準をしっかりと理解しそこから実践につながらなければ・・という点では同じことが言えると思いますが。)

訳者あとがきにある説明にも、グッとくるものがあります。

すでにXPのプラクティスを実施しているのであれば、「私のチームはエクストリームですか?」と聞きたくなるかもしれない(第21章参照)。ここがXPの難しいところであり、魅力でもあるのだが、XPが提唱する「価値、原則、プラクティス」は、絶対に守らなければいけない「決まりごと」ではない。したがって、何も考えずに、本書に書かれたとおりに機械的にプラクティスを実施していては、XPとはいえないのである。それはむしろケント・ベックが否定する「計画立案と実行作業の分離」に近い(第18章参照)。XPの本来のあり方とは、「価値、原則、プラクティス」のそれぞれを言葉にして、場合によっては利用者であるあなた自身が自分の言葉を生み出しながら、利用することに他ならない。

Kent Beck,Cynthia Andres. エクストリームプログラミング (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3445-3452). Kindle 版.

というわけで、「どういうやり方がXPなのか」は、多くのプラクティスが内包されて入るものの「これがXPだ」と言いにくいのだと思います。
逆に、テストファーストプログラミングや継続的インテグレーションリファクタリングなどの非常に多くの個別的なプラクティスについては、多くのチームで取り入れられているのではないでしょうか。もはやXPよりも有名になっているものすらあるかも知れません。

自分自身、なんか「良い開発のやり方」を知るたびに「XPのプラクティスの1つに数えられているものだ」と言われるような経験を幾度となくしていました。
XPってなんなんだ・・・・それを、やっと雰囲気をつかめた気がします。

多くのアジャイルの本がXPを貴重としている感じがあるのも、頷けるような気がしました。完成度というか網羅性みたいなものが凄いんだな、と・・・

まとめ

スクラムに最初に触れた当初は、XPといえばTDDやCI/CDとかでしょ?技術的プラクティスを補うものだよね、なんてイメージを持っていました。
それが、少し勉強をし始めると、「なんだかアジャイルの人たちの間ではXPって大人気だな、最終的にはXPに至りそうな雰囲気すらあるな」と感じ始めます。
そうした時に覚える「何があるんだろう、不思議だなー」という感情に答えてくれる1冊でした。

アジャイルが〜とか、ましてXPが〜なんて関係なく、現代のプログラミングを仕事にしている人にはひとまず読んでみる価値がある1冊なのでは・・・とすら思います。
やはり、様々なパターン・ランゲージと同様に「経験的に導かれた上手くいくプラクティス、それを全体性を持ってまとめあげた体系ないし集合」という側面がXPにもあります。前者を掻い摘んで見るだけでも言いし、「道標」として後者について = 価値や原則について触れてみることには大きな意義があると思うのです。

で、初手としては多少ボリューミーな感じもあるかもしれませんが、ここまで丁寧に描かれた本で読みやすくまとまっているとなれば、「ちょっと頑張って読んで見る」くらいには値する本なのではないかな・・
実際、個人的にはボリュームとしても難易度としても苦痛に感じるところも無く、楽しく読み進めることが出来ました。

特に「価値」「原則」のあたりは、折に触れて読み返してみたいなぁという気もします。

*1:Kindle for macで単語検索をかけた感じだと・・・。もしかしたら見落としているかも。とはいえ、本書のスタンスを理解する上ではクリティカルな見落としや誤解でも無い気がする

「スクラム実践入門 ── 成果を生み出すアジャイルな開発プロセス」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-19です。 adventar.org

day-19は「スクラム実践入門 ── 成果を生み出すアジャイル開発プロセス」です。

どんな本

スクラムの入門的な本で、内容としてはスクラムガイドにある内容の解説 + "how"の部分の肉付け、という感じでしょうか。
レベル感としては「スクラムの基礎的な学習はした、チームで使い始めた(検討している)」くらいの位置かな?と思います。
対象としては、スクラムマスター、スクラムチームのメンバー(PO+開発者)、組織にスクラ導入を考えているマネージャーとかそういう感じが。

ただし、これ1冊で「しっかりと型が身につく」というほど指導的な内容ではなく、どちらかというと「学習した内容を復習しよう」〜「より”現場的”な話や事例に触れてみよう」な印象です。

網羅している範囲としては「スクラムの基礎的な知識」と「スクラムと組み合わせて(=スクラムガイドには載っていない)使いやすいプラクティス」「実際に導入した企業でのチーム事例」「よくある問題と対応」のパートに分かれます。

特徴的なのは、日本国内のWeb企業に務める方々の執筆であり、事例についても「GMOペパボ」「mixi」「DeNA」と馴染み深い企業が並びます。
(自分が手にとった本が偏っているのもありますが)今まで、スクラムアジャイルについての書籍は翻訳本が多かったので、新鮮さを感じました。

お気に入りポイントかいつまみ

色々な現場の導入・運用事例の話はおもしろい

カンファレンスでの発表や雑誌記事などでも多く見られますが、やはり「導入してみた」「そのきっかけは」「難しかった所、上手く行かなかった所、工夫した所」というエピソードは読んでいておもしろいですよね。

とりわけ、本書は「どう導入するか」にやや力点が置かれているような印象があり、実際に事例3つのうち2つは副題に「導入」という単語が入っており、複数の章に分けて取り扱われている「よくある問題」のうち1章は「スクラム導入時によくある問題と解決策」です。

従来型の開発管理からアジャイル/スクラムへの移行には、とても「未知の壁」が多く立ちはだかります。
実践の当事者である著者たちが「こういうので困ったんだよね・・」という感覚が、良い意味で透けて見えるようでした。

自然な日本語で文量もコンパクト

執筆陣は日本国内で働く現役のメンバーであり、出版も2015年(第1版)・2019年(第2版)と比較的最近の本であることから、文章が読みやすいような気がします。
個人的には、「翻訳本は文体が読みにくい・頭に入ってきにくい」といった抵抗感はあまりないのですが、周りの人からはそういう声もチラホラと聞くことがあるので、本を読む上での1つの障害になったりするのかな?とも思います。で、この本についてはその懸念はなさそうだ、と。

また、文量も図表や見出しの装飾も十分にある上での200ページ強と、テーマの広さからいえばコンパクトに纏まっていると思います。
「WEB +DB PRESS Plusシリーズ」に対する信頼感もある─

これらの要素が揃うと、手に取りやすい・他の人にも薦めやすいものになっていくなぁと感じました。

まとめ

タイトル通り「実践入門」としての位置づけを目指した本だったな、という印象です。

内容の目新しさはあるか・新しく得られた知識があるか?というと・・・
例えば「エッセンシャル・スクラム」「スクラム現場ガイド」「アジャイルサムライ」「アジャイルな見積りと計画づくり」辺りを読了済みであれば、すでに十分に抑えられているかもなぁとは正直に思いました。それに、そうした方が深さも増すし実践しやすくなると思います。

・・・が、それって一体トータル何頁分を読むことになるんだ??という話があり。
あくまで「(実践)入門」として、次の学びに繋げやすいし「とりあえず現場でやってみるか!」となりやすい本である所に意義があると感じます。
(そういう意味では、参考書籍のリストとかあればメッチャ良かったなぁ)

重くなくて接しやすい1冊と言えるのではないでしょうか〜