「プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-17です。 adventar.org

day-17は「プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」です。

どんな本

この本は以前にも読後感想記を上げています。

daisuki.nichiyoubi.land

2020年に読んだ本の中で個人的ベスト3に入るような良書だと思っており、「とても読みやすくて、刺さって、自分の中にある”理想”が研ぎ澄まされる」みたいな印象を受けました。あと、ページ数が少ないという点でも凄い。他人に薦めてぇ〜〜ってなる1冊です。

この本は直接的に「アジャイルになろう!」なんて扱ったものではありませんが、「顧客に価値を届けよう」というのは正にアジャイルが手に入れたかった「結果」そのものであり、「答えを最初に決めず、仮説を持って実験をして常に最適を目指し続ける」というのはリーン思考やアジャイルの精神性そのものであるように感じました。

という訳で、ちょっとアジャイルスクラムを齧ってみた今の自分から、この本はどんな意味を持っているのか?をまとめてみようと思います。

お気に入りポイントかいつまみ

アウトカムに焦点を当て、実験マインドを取り入れる

これは、4章「プロダクト主導組織」での「○○主導」を類型化する中で、プロダクト主導組織について触れた節にある表現です。
本書の最も主要なテーマの1つであると同時に、個人的にもかなり刺激を受けた考え方でした。

そして、これは「動くソフトウェアを」「計画に従うことよりも変化への対応を」「価値のあるソフトウェアを早く継続的に」「フィードバック(XP)」「検査と適応(スクラム)」といった、アジャイルマインドとでも呼ぶべき重要な態度と同じ地平を見据えていると感じます。

本書の副題である「ビルドトラップ」が、「価値から逸脱した開発活動」や「柔軟性を欠いた硬直的なリリース計画」の先に陥る状況だとして、「顧客の方を向いて、必要なことをやっていこう」というのは偉大な処方箋となります。

そして、そんな「プロダクト主導組織とはどういう在り方か」「何が必要で、どう作るか」が本書で説明される話題でもあるのです。

既知/未知のマトリックス

「プロダクト開発は不確実性に満ちている」とし、それに対応するために「学習」が挙げられていますが、では何から学んでいけばいいのか?
状況を紐解いて進むべき方向(学ぶべき課題)を整理する、というための考え方として「未知・既知」を組み合わせたマトリックスが紹介されています。

「既知の既知」「既知の未知」「未知の既知」「未知の未知」という4象限で、情報を整理しようと試みるものです。 プロダクトマネジメントは、それらの「未知」との向き合い方が非常に重要になります。リソースをどう活かし、課題をどう解くか?に直結するからです。

この考え方・整理の仕方は、「プロダクトをどう作るか」という枠組みをこえて、今の自分がプロジェクトや組織だったり、あるいは自分自身がやるべきことを考える上で、非常に重視する考え方のフレームワークとなりました。
実際に、これをベースとしたフレームワークを、チームの形成期においてアイデンティティ強化のためのワークとして扱ってみたり、ファシリテーションをする際に情報の整理のための観点として利用したりしています。パワフルなツールだな、と感じました。

スクラム(など)との組み合わせ

スクラムは時折、勘違いされて期待されすぎている・・というように感じることがあります。
乱暴に言えば、「どうやってうまく協働するか」というフレームワークとして、スクラムガイドで説明されている内容は主に組織面をクローズアップしている”だけ”のはずが、「良いものが作れて、価値が最大化される」ところまで期待を背負い込まされてしまっているような、そんな違和感です。

価値のあるものを作りましょう、とは言うものの価値の求め方を教えてはいない。品質を上げましょう、とはいうものの品質の上げ方を教えてはいない。といったような。
そのシンプルさと汎用性が強みで魅力だと感じるのですが、それ1本で「完璧」なはずではないのです。

プロダクト開発を「プロダクト(やプロダクトビジョン)」「技術」「チーム」の3本柱から成るものとして捉えるなら、スクラムは「チーム」の話だと言うのが、個人的にはしっくりきます*1

それに対して、本書は「プロダクト」の側面を語ったものです。 「ウケるサービスの作り方」ではないけど。
プロダクトを考える、それを組織レベルでやるには?という。

(プロダクトを測定する)良い指標、戦略・戦術の策定と展開、プロダクトマネージャーのキャリア(階層と責任)、オペレーション・・といった内容です。

まとめ

アジャイルの本」で補いきれない部分を、しかし志を共にしながら描いてくれている!!という気持ちになる1冊です。
実現するには相当にレベルが高いとも思います。が、始めなければ進まないはずです。
理想的な組織状態に至るまでの大まかな道筋を与えてくれる良書だなと。

・・・この記事を書くにあたって、パラパラとページを捲りながら軽く読み返していたのですが、直近で抱えている個人的なモヤモヤに刺さりすぎてヤベェなってなりましたアドベント終わったら1回ちゃんと読もう!

*1:ただ、例えば「チームビルディングのためのパターン」とでもいうような、具体的な話を扱っている訳ではありませんが。「どこにでも適用できる」といった最大公約的な話をしており、チームによって「足りないものを補う」「細かい所を作り込む」という創意工夫は要求されます

「スクラム実践者が知るべき97のこと」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-17です。 adventar.org

day-17は「スクラム実践者が知るべき97のこと」です。

どんな本

「〜が知るべき97のこと」のスクラム版であり、つまりエッセイ集です。
オリジナルの97に加えて、日本のスクラムコミュニティなどで活躍する人たちのエッセイを10篇収録しています。

個人的に、こうしたエッセイ集には(タイトルとは裏腹に)「琴線に触れた所だけをしっかり大事にしていけたら良いのかな」というスタンスで対峙しています。
どれも素晴らしいのですが、いきなり「97項目」は多いじゃん?という気持ちがあり。
まずはざ〜っと読んでみて、その中でもタイトルや本文から感じ取るものや刺さる部分があったらじっくり読んだり読み返したりして、またふとした時に手にとって見て、それでまた気になるものを摘み上げて読んでみる・・・といった楽しみ方をしております。
そうすると、その読んだ時々に応じて気づくこと・感じることが大きく違ってくるのが面白いなと。

本書も、そうした楽しみ方をするのに十分足るような、示唆に富んで幅広く重厚な1冊でした。
一部でHowto的なものやプラクティカルな内容もありますが、全体的には価値観・原則を扱った内容が多いと感じます。
雰囲気としては、「スクラムを知るためのもの」というより「スクラムを深く味わうためのもの」というような。その道の実践者たちが「何を大事にしているか」を訴えてくる感じで、いろいろな視点からの「どうやってスクラムが活きるか」ひいては「スクラムを取り巻くチームが、いきいきとやっていくためには」について語るような本になっています。

お気に入りポイントかいつまみ

短く、バラエティに富んだ濃厚なエッセイ集

1つのエッセイが2頁と、とても短い構成になっています。
そのため、「ふと思った時に手にとって、目次を眺めてみて、その時の心が赴くままにパラパラとめくってみる」なんて付き合い方がしやすいのです。

そうした「利便性」は嬉しい所。

いくつか、今のタイミングでお気に入りのエッセイ

読む時々によって「どれが良かったか?」はとても変わりそうに思うので。
あくまで、この記事を書いている今の時点で〜という前置きをした上で、良いなと思ったものをいくつか挙げてみようと思います。

  • 13 「あなたのプロダクトは何?」という問いに答える
    • あまりにも当たり前すぎるような命題ですが、ふと忘れがちなものでもあると思います。様々な職種・ロールの人がコレボレーションするための依り代として、「プロダクトの定義」の原則を語ったもの
  • 26 あなたのチームはチームとして機能しているか?
    • スクラムを不全に陥れる4種類のパターンと、それに対応する3つの方法を記したもの。本書においては珍しく「価値観」や「心持ち」よりも「処方箋」よりの内容。こうした眼を持って、常にチームを観察していかないといけないなと思うのです。
  • 32 情報を発信するチームになる
    • これもまた「よくワークしているチーム」のための健康診断、といったような内容。「透明性」が発揮されている、とは?について語ったもの。
  • 54 いちばん大事なことは思っているのと違う
    • この短いエッセイのタイトルこそが、「アジャイルにやるべき理由」「スクラムに何故価値があるのか」を端的に言い当てているような気がする・・・内容としては、検査と透明性と適応について、改めてその価値を見直すもの
  • 56 「自分」ではなく「スクラムマスター」が大事なのだと気づくまで
    • ぐさっと刺さるようなタイトルで。でも、そうだな〜・・・と思う所。チームに奉仕するリーダーであれ、という境地に至るにはこうした「覚悟」もいるよなぁ
  • 75 スクラムではプロセスよりも行動が重要だ
    • スクラムを「プラクティスの集合であるフレームワーク」として(誤って)見た場合、単なる「プロセス」に堕ちる。その土台に、原則と価値があったはずで。このエッセイはスクラムの5つの価値基準から、どんな行動が創発するか?を語ったもの
  • 80 スクラムの6つめの価値基準
  • (日本版)09 インクリメントは減ることもある
    • 「フィーチャーを削除するPBIを追加すること」をオススメする話。じっくり考えてみたら、とても当たり前のような気もしてくるのだが、ハッとさせられるものがある

まとめ

癒やされたり、考えさせられたり、「そうそう!!」と共感して興奮したりするようなエッセイがたくさんあって楽しいな〜〜という本でした。
本当に、「目次だけ眺めてみて目があったタイトルの掲載ページを捲ってみる」っていう楽しみ方を続けていきたいなと思います。

「FunRetrospectives: activities and ideas for making agile retrospectives more engaging」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-16です。 adventar.org

day-16は「FunRetrospectives: activities and ideas for making agile retrospectives more engaging」です。

5日間続けてきた「レトロスペクティブ祭り」の最終回です。

どんな本

FunRetrospectivesというサイトがあります。

www.funretrospectives.com

その書籍版、というものです(ざっくりした表現)。

本書は大半を割いて「レトロスペクティブに関する(構成するための)アクティビティ」のカタログを成しており、その数は90個以上に及びます。
その中には、レクリエーションよりのアイスブレイクのためのものだったり、同様の形式で少し観点を変えるようなバリエーションであったりも含まれるので、人によっては「使えるものはもっと少ない」と感じたりするかも知れません。

平易でコンパクトな英文で、1アクティビティにつき1枚の解説イラストを用意するような形式になっており、パラパラとめくりながら面白そうなものを探してみる〜というのが良い付き合い方かも知れません。

webサイトと同じく、アクティビティを7つのカテゴリに分類して紹介しています。

  1. Energizer
  2. Check-in
  3. Main course: Team Building
  4. Main course: Retrospective
  5. Main course: Futurespective
  6. Filtering
  7. Check-out

これらを、「レトロスペクティブミーティングの型」のようなパターン(本書では”The 7 step agenda”にそって組み合わせたり、チームの状況(チームやプロジェクトの時系列上の位置・ステージ、レトロスペクティブによって何を得たいか?というコンテキスト)に合わせてピックアップして使いましょう!というものです。

お気に入りポイントかいつまみ

自分は、今回のAdvent Calendarに際してザザっと通読してみたのですが、その結果として「雑多なレトロスペクティブアクティビティが脳みそになだれ込んできた!!」という体験となりました。
それによって、レトロスペクティブの「自由さ」みたいなものを感じられたし、単に「引き出しが増えた」という以上に「やりたい事を考える上での種を手に入れた」という気がしています。

もともと、本やネットで探したり出会ったレトロスペクティブの方法を、アレンジしたり使いやすいように言い換えたりするのは好んで行っていました。あるいは、「こうやって参加者を導くことができそうかもな?」とオリジナルのコンテンツを練ったり。
この本を全体を通して読んでみることで、それがもっと解放されたような感覚があります。

ざっくばらんな(しかも一定のクオリティを担保されている)インプットを多量に・集中的に得ることで、それらを包み込むパターンだったりエッセンスとなりうる部分が透けて見えやすくなったりします。
「こういう造りを持つことで、参加者からこの反応を引き出そうとしているのだな」とか「こういう部分に目を向けさせようとしているのだな」とか。
自分にとっては、そうした「守破離」の「破」に至るような題材としての効果があった感じが嬉しかったな〜と思いました。

とりわけ「1個ずつ、自分にあったものをカタログから探し出して使う」というユースケースであればwebサイトの方が理に適っているのかも知れません。
だらだら〜っとめくって目を通してみたいな、という時には書籍もおすすめです。

まとめ

いくつも「コレやってみたいな、面白そうだな〜」と感じるアクティビティもあったりで楽しく読めました!
個々のアクティビティを探ってみたいな、という時にはアジャイルレトロスペクティブズよりも手軽に読める感じがします。

今後も時折お世話になりそうな予感がする1冊でした!

「アジャイルCCPM: プロジェクトのマネジメントを少し変えて組織全体のパフォーマンスを大きくのばす」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-16です。 adventar.org

day-16は「アジャイルCCPM: プロジェクトのマネジメントを少し変えて組織全体のパフォーマンスを大きくのばす」です。

どんな本

この本を知ったきっかけは、↓の記事でした

blog.shibayu36.org

プロジェクトマネジメントって何・・するの・・・?って思いながら調べている内に出会した記事で、興味をもって買った次第です。

アジャイルCCPM」というプロジェクトマネジメントの中でもプランニングに関する手法を提唱する本で、クリティカルチェーンに着目しながら「どうやって納期に間に合わせるか」という話をしていきます。そこに「アジャイル」な取り組み方を組み合わせるというコンセプトですが、「ベロシティドリブンであること」「優先度の低いバックログを『バッファ』として扱えること」が大きな特徴だと感じました。

お気に入りポイントかいつまみ

CCPMについての概要が分かる

そもそもCCPMを知らないのだが・・という人は本来の対象読者ど真ん中ではないのかも知れませんが、概要レベル+αで言えばしっかりと説明されているため、(私自身も含め)どういったコンセプトなのか・どういう課題に対処できるものなのか、は抑えることが出来たように思います。
とりわけ、「スクラムガイドに従ってプロジェクトマネジメントするぞ、スクラム頑張るぞ」という入り口からプロジェクトマネジメントを学び始めた人にとっては、「全体の計画の立て方」よりも「個別のストーリーの見積もり方」「PO/ステークホルダーとの交渉が可能であること」の意識が強くなりがちなような気がします。そこに対して、「リリースまでないしプロジェクト全体の計画を立てる」とか「バッファをどのように設定するか」といった話は、総合的にプロジェクトを考える上で決して欠かせません。
そういった部分の補完になるような話だな、と感じました。

どう「アジャイルに」運用するか

「ベロシティを見ましょう(経験主義)」「フィードバック可能なものを漸進的に作りましょう(インクリメンタル)」「状況に応じてゴールや道のりをアップデートしていきましょう(計画に従うことよりも変化への対応/検査と適応)」・・・などの考え方、言葉があります。
とはいえ、「何もわかりません」「計画や約束はできないので」という主張のための材料となっては、アジャイルは単なるおためごかしになってしまいます。(開発の)チームとステークホルダー間で交渉をするためのインプットを用意する必要があるのです。

そうした面での、「どうやって見立てを持つか」「それを運用していくか(いつ・どのくらいアップデートするか)」についての手法が本書で語られていました。
アジャイル」とCCPMの掛け算であり、

  • ベロシティを元にして、いつまでにどのくらい終わるかを見据える
  • 理論をベースとしてバッファを設定する
  • 定量データで「終わらなそうな域に突入した(=バッファが枯渇した)」と判断したら調整を行う
    • 通常のバッファ回避策(残業やリソースの追加投入によるカバーetc)
    • スコープバッファの利用 = 低優先度のものをスコープから外す

と、ざっくりとまとめるとこんな感じになるはずです。

骨子だけを掻い摘むとあまりにも当たり前の事だけが語られているようですが、現場で適用可能な解像度を持ったルール化まで行われている点で、納得感もありつつ興味深い点でした。

まとめ

いわゆるプロジェクトマネジメントについて、まだまだ自分は理解が足りていないな〜と感じます。
それゆえに、こうして体系立てて說明を加えている本は新鮮で面白かったです。
そもそもの話として「PMBOKを読んでみよう」とか、もっとCCPMについて理解を深めていきたい*1なという課題も改めて得ることができました。

当然ながら、筆者が「自分の環境で、自分の考えたこのやり方が上手く行きました」ということで說明・提唱しているコンセプトであると思います。
說明が十分か?理論は万能か?については、(どんなものでもそうですが)答えは一定しないはずです。しっかりと組織や案件ごとのコンテキストに合わせて適用していく必要があるものだと考えます。
また、「アジャイル」と冠する割には探索についての言及が少ない(主旨ではない)ような印象も受けるので、そうした思考・哲学の素地は別途耕しておく必要性も感じます。「この本の真似をしたらアジャイルになれる」という感じではないです。

とはいえ、少なくとも自分にとっては、プロジェクトをやっていく上での武器が増えそうな予感も持てたので面白い1冊でした!

*1:この1冊で/この文量で「完全に理解した」と言える感じではないと思います

「LEADER's KPT」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-15です。 adventar.org

day-15は「LEADER's KPT」です。

どんな本

タイトルの通りKPTを扱った本で、その中でも「どうやってチームにポジティブな影響をもたらすか」「しっかりとカイゼンを根付かせるか、効果を上げるか」というリーダー目線のお話に重きをおいています。

私は未読ですが、同じ著者の別の本にこれだけ! KPT 【これだけ!シリーズ】があり、そちらを「基礎編」とするならコチラは「応用」に位置すると思います。
(とはいっても、「KPTってちゃんと説明できないかも・・」という人でも理解できそうな程度には、しっかりとフレームワークの說明も扱われています)

ふりかえりは「1回やって終わり」「ふりかえりミーティングで完結するもの」ではなく、寧ろ「ミーティングが終わった後に、具体的なアクションが行われるか。チームがどんな効果を得るか」の方が重要で、本書はその辺りもしっかりと強調されて書かれているなぁという印象です。
もっといえば、「ふりかえること」ではなく「チームがしっかりと進化し続けること、その文化を作ること」こそが本質的に目指すべき地平だとも感じるのですが、 正にこの本のテーマは「(KPTを用いて)自律的に動き成果を上げるチームを作る」なのです。

お気に入りポイントかいつまみ

改めて「KPT」の基本的な流れをおさらいできた

自分がKPTと初めて出会ったのは、過去に属していた会社で一緒に働いていた人が持ち込んできた時でした。
それが「原型」となっており、考えてみたらそんなにしっかりと「ルールの說明」をインプットしたことがないかも?という気もします。

もちろん、レトロスペクティブを扱った本ではshort stories/KPTに関して言及しているものは非常に多いので、その点でいえば流れは抑えています。その上で、やはり「もともとの体験していたこと」以上の知識のアップデートはあまりなかったかな?という気も。

改めて「KPTがメインの本」を読んでみると、色々な部分でなるほどなぁと思わされました。
とりわけ、ファシリテーションに関する指南がいくつか挙げられているのは注目すべき点かと思います。

「意見の整理、フィルタリングの方法」や「なかなか意見が出ない時はどうすればいいか?」など。
また、継続的・反復的に行われる事を前提とした、「前回のTryをどうするか」について触れている点も頼りになります。

うまくいっていないKPT

ふりかえりのファシリテーションをやっていると、「本当に効果があるのか?」という疑問や「もっと良い議論が出来るはずなのに」とモヤモヤする場面も少なくないと思います。

個人的に、この本の中で最も気に入ったのが「うまくいっていないKPT」についての解説が行われていた点です。
たとえば「トライありきのプロブレム」だったり、「言ったもの負けになっている(誰か1人がby-nameで取り組むことを前提としてしまっていて、チームのトライになっていない)」など。それらへの目の向け方が書かれているのはとても参考になります。

また、KPTで出たカードから「状態を測定する」という試みもなされています。
たとえば「キープとトライの割合」「全体に対して実施するトライの割合」「完了されたトライの割合、消化率」のような具体的なメトリクスを用意して、「良いKPT」だったり「どんな問題を抱えているのか」を示してみよう、というものです。

こうした観点も柔軟に取り入れながら、うまい感じにふりかりを回し続けていきたいものです。

まとめ

KPTの本でありつつ、それだけに留まらない「チーム作りを行うリーダーのための本」といった印象です。
平易な文章とコンパクトな分量でサクッと読みやすいのですが、時折パラパラと開き直しては復習にも使っています。

「とりあえチームでふりかえりはやっているんだけど。定期的に時間は取っているよ」という人に対して、更に踏み込んで「どういう効果を上げさせていくか」を考えるためのヒントとしてオススメ出来る1冊だと思います。

「アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-15です。 adventar.org

day-15は「アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~」です。

どんな本

アジャイルソフトウェア開発をやるにあたっての、計画や見積もりについて扱かった本です。
「そもそも完全な見通しを立てる、というのは現実的ではない」「不確実性に適応していこう」というようなスタンスで発明された「アジャイル」において、やはり「計画」「見積もり」は難しいポイントの1つです。
その辺りに悩んだり苦しめられた事がある人は必読・・・!といって良い本だと思います。

見積もりや計画づくりがアジャイルでないのに、プロジェクトがアジャイルであるということはありえない。

P23 イントロダクション

という一言が、本書のスタンスを言い表しているように感じます。
もしくは、

本書で扱うのはアジャイルな「計画づくり(planning)」だ。アジャイルな「計画(plan)」ではない。計画とはドキュメントや図表であり、ある時点のスナップショットを記録したものだ。そこに記録されているものは、不確かな未来にプロジェクトで起きるだろうと予測したひとつの姿に過ぎない。いっぽう、プランニング、すなわち計画づくりは「活動」である。アジャイルな計画づくりで重視するのは、計画よりも、計画を作る家庭そのものなのだ。

P33 1章 計画の目的

もハッとさせられたフレーズです。

本書は、

「なぜ(アジャイルな)計画づくりが重要なのか、どんな価値をもたらすのか」
「それはどうやって取り組めば良いのか、あるいは、計画づくりをより意味のある活動にするには何が重要なのか」
「作った計画をうまく活用する、プロジェクトの利益に結びつけるにはどうすればいいのか」

といった事を扱った本です。

よくある「なぜ理想日ではなくポイント、相対見積もりを用いるのか」といった話はもちろん、「優先順位付けはどのように行うのか」「1スプリント目においてベロシティはどうするのか」「バッファはどのように扱えば良いのか」などにも踏み込んで話しています。

お気に入りポイントかいつまみ

「なぜ計画するのか」に改めて立ち返って考える

計画や見積もり、面倒くさいんですよねぇ。。。それに正解もわからない!
とも思いますが、本書を読むと(特に第1部)、どんなプロジェクトであろうと・・あるいは「集中」を生み出すためにアジャイル開発にこそ計画って重要な経済活動なんだな、ということに気付かされます。

よい計画づくりとは、以下のような特徴を持ったプロセスのことだ。いずれも「ソフトウェア開発の問い」に対する答えを見つける手助けとなる

  • リスクを軽減する
  • 不確実性を減らす
  • 意思決定を支援する
  • 信頼を確立する
  • 情報を伝達する

P29

このあたりの「なぜ、そう言えるのか」について本書は全体を通して深めているような印象を抱きました。

理想日とストーリーポイント

スクラムに取り組み始めたときなど、なかなかイメージが得にくいことの1つが「ストーリーポイント」や「相対見積もり」ではないでしょうか。
時間ではなくタスクの規模を見積もること、という原則が本書で丁寧に解説されています。 (規模の見積もりの尺度として理想日を用いる、という方法も可能ですし、それは本書でも紹介されています)

本書は全体的に「少しスクラム(やアジャイル)の全体像・基礎が把握できてきた」というレベル感以上にある人が対象かと思いますが、この部分(4〜6章)については入門〜基礎レベルにある人にとっても価値のある話になるかも知れません。

優先順位付けとリスク

バックログ(のリスト)を作成した後に、優先度に応じて並び替える・・・というのは当然ながら必要なことですが、「どのように並べるのが良いか」というのはプロジェクトの成功の肝とも言える部分です。

その中でも、「リスクを下げるために」という観点は、なるほどなと思いました。
アジャイルは「不確実性」に立ち向かうものであり、検査と適応によってそれを成します。すなわち「未知のものを、いかに効率的に学習できるか」です。
そういった意味では、「未知性が高い」というリスクについては、早めに軽減することでプロジェクトをより確実なものにできます。

「リスク」と「価値」の軸で4象限を作り、「高リスク・高価値」に当たる部分を優先的に進めていこうというのがリスクに基づく優先順位付けです。

優先順位付けの例として、「コスト(後でやるより今やったほうが低コストになる)」「フィーチャーの開発によって得られる知識」「プロジェクトの成功を妨げるようなリスク」という順を提示しています。
知識というのは、「プロジェクトナレッジ」と「プロダクトナレッジ」があるとのことです。プロジェクトナレッジとは、技術検証等を含む「プロジェクト内部で必要とするもの」で、プロダクトナレッジとは「顧客に提供する価値の発見・創造につながるもの」とされます。検査と適応の態度について、とても重要な点です。

こうした複合的な軸で、全体を見渡して「最も合理的な進み方を考える」というのが計画づくりの価値と言えるのだな、と思いました。

ストーリーの分割

ユーザーストーリーのスライスについても、頭を悩ませる大きな問題の1つです。
そのあたりも本書ではまるまる1章を割いて扱っています。

  1. データ境界による分割
  2. 操作の境界での分割
  3. 横断的な関心事の分割
    1. 例えばロギングやエラーハンドリングなど
  4. パフォーマンス制約をストーリーにする
    1. 機能要件と非機能要件を別々のストーリーにする
  5. 優先度に沿って分割する

といった、具体的な観点を提示しています。

どうしても慣れが必要な部分だと感じるのですが、少なくとも「タスクごとに分割する」「コンポーネントやレイヤーで分割する」といった誘惑に抗うための自信が持てそうだな、と思いました。
「タスク」ではなく「フィーチャー」で捉える脳みそになりたいものです。

バッファ

バッファのもたせ方についても、具体的・数量的な方法が紹介されていました。
「なんとなく一律1.2掛けにしておく」といったおまじない的な方法ではなく、「(主観的な)自信・確率」に基づいて「バッファ = リスクをどの程度設けるか」という話が紹介されます。

まとめ

他にも、「予定に幅を持たせる」「ベロシティ駆動とコミットメント駆動」などは、自分がアジャイルっぽくプロジェクトを回している際に(摘み食い的に読みながら)非常に参考にした内容でした。

ともすれば「アジャイルなんだから、計画は雑にやってしまう」といった感覚になっているチームも数多いかと思います。
「不確実性を取り入れた計画づくり」と「どんぶり勘定」は別物であるということを、本書を通じて感じることが出来ました。

22章の「なぜアジャイルな計画づくりがうまくいくのか」もお気に入りの章であり、この本の全てであるとも言えるかも知れません。

「ドキュメントはいらない」「計画は立てない」という2大アジャイル勘違いの1つに対して、真摯に向き合った1冊でした。

「ふりかえり読本 実践編~型からはじめるふりかえりの守破離~」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-14です。 adventar.org

day-14は「ふりかえり読本 実践編~型からはじめるふりかえりの守破離~」です。

booth.pm

どんな本

ふりかえりガイドブックの森一樹さんの技術同人誌です。
2019年の技術書典7で販売開始とのことで、こちらの方が先で書かれたものになります。

「ふりかえりの型」という概念を導入して、状況に応じてどのようにふりかえりを設計するとよいか?というヒントを与えてくれます。

(目次より)

  • 2.1.1 短期間をふりかえる
  • 2.1.2 よいところを伸ばす
  • 2.1.3 問題を解消する
  • 2.1.4 学びを最大化する
  • 2.1.5 関係の質を高める
  • 2.1.6 多角的に捉える
  • 2.1.7 長期間をふりかえる
  • 2.1.8 未来を描く

「ふりかえりが何故必要なのか?」や「どうやったら、ふりかえりの目的を果たせるか?」という基礎的な部分は別の書籍等に譲りつつ、この本は問題解決のよりHow-to/実践に寄った内容が主題となっています。

お気に入りポイントかいつまみ

「型」がわかりやすい

ふりかえりの設計をしたりファシリテーションをする際に、「何を目的とするか」は最も工夫し甲斐のあるポイントの1つです。
それは、勿論チーム状況の観察に立脚したものになります。

しかしながら、ある程度のパターンがないと、「どういう状況で、なにを課題としてどうやって次のステージへ進めば良いのだろう?」というのは閃きにくいものです。
この本で掲げられている「型」は、正にそういったヒントとして即効性のあるフレームだな、と感じました。

他の本でも「イテレーションのふりかえり」「プロジェクトのふりかえり」だったり、「チームビルディングに」「感情に焦点を当てる?学びに焦点を当てる?」という切り口は提供してくれているものがあります。
本書は、それだけでなく「より問題の解決にフォーカスする」「よりパートナーシップにフォーカスする」といった、時期・成熟度を問わずに採用できるような型が紹介されているなぁと感じるところです。

「カタログ的に紹介したアクティビティから、選択して『コース』を組み立てる」ような流れではなく、「型→それと相性の良いアクティビティの紹介」という構成になるので、目的から逆引き的にいろいろなアクティビティに出会うような内容といえると思います。

もちろん、「型」にだけ囚われずにコンテキストに沿ったアジェンダを用意するほうが望ましいとは考えますが、そもそも「ずっと同じアクティビティを使っている」とか「ふりかえりって、どういう効果を求めれば良いんだろう・・?あまり具体的にイメージできてないな」といった人にとって、こうした考え方が提示されるのは「次に進むためのヒント」としてかなり大きいのではないでしょうか。

カラー写真嬉しい

各アクティビティの完成図的なイメージが、ホワイトボードの写真で掲載されています。
デフォルメされた図や概念図的なイラストではなく、「実際(っぽい)写真」が使われているのは嬉しい点です。

これによって、「実際にやるとどんな感じになるのかな〜」というのがより具体的にイメージしやすくなりました。

まとめ

說明も簡潔でありながら丁寧で、「どうやって使っていくのか」が想像しやすいのが嬉しい1冊でした。
こうした本を読むと、やっぱり「ふりかえりってとってもクリエイティブな活動だな〜」という感じがしてきます!