「正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-14です。 adventar.org

day-14は「正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について」です。

どんな本

スクラムを扱いながら「どうやって開発を進めていくか」という話をする本はたくさんありますが、それぞれ「どういう切り口で推すか」という所に個性も出てきます。
この本で言えば、「いかにフィードバックを獲得するか」「仮説をもって検査(検証)を進めていくか」というところにフォーカスを当てていたように感じます。
実際に、「仮説検証型アジャイル開発」というコンセプトが本書のメイントピックとなっています。
開発者やスクラムマスターを主たる対象とした本が多い中で、ロールとしてはプロダクトオーナー向けの1冊になるかと。

著者は、「カイゼン・ジャーニー」「チーム・ジャーニー」の市谷さんです。
副題に「アジャイルのその先について」とありますが、これはプロダクト開発につきまとう「不確実性」を乗り越え、あるいは味方につけたその先にある「チームによる共創」という姿について最終章で語られています。
ここでも「越境」というキーワードに触れられており、これは「目的(個人的には”ミッション”と読み替えてもいいと思います)で繋がったチーム」が辿り着けるものと書かれていました。

最後に。越境チームは、目的に忠誠を誓うチームのことだ。だが、目的が誤っていたとしても、目的に心中することなく、方向を自ら変えることができる。これが可能なのは、「自分たちは正しいものを正しく作っているか?」という問いを抱いているからだ。問いに向き合い続けられるならば、目的自体を捉え直すこともできる。
これからも高まっていくであろう不確実性に適応するためには、役割を中心とした調整によるプロダクトづくりから、問いと向き合い続ける共創によるプロダクトづくりが、より「ふつうのプロダクト開発」となっていくはずだ。そういうチームが次々と増えていくことを願っている。ともに前進しよう。

市谷 聡啓. 正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4916-4922). Kindle 版.

グッときたポイント

いかにプロダクトづくりの「仮説立て」を行うか

アジャイルがターゲットとしている「不確実性への対処」と「学習の向上」については、しっかりと仮説を持って実験を行うことが重要です。
本書では、「モデル化(仮説立て)」「検証」を繰り返すことをベースとしています。

そのための手法として、仮説キャンパス・ユーザー行動フローのモデル化と、どのタイミングでどんな手法を取り入れるか?が体系立てて説明されていました。
こうやって日々の活動の中でプロダクトを磨き込んでいくのか・・というのがイメージできました。

正しくないものを作らない

書籍タイトルが「正しいものを〜」ですが、実は「正しくないものを作らない」という事にこそ著者の気持ちが籠もっているのでは・・?と感じるくらい、個人的にはグッと来た表現でした。

ネガティブな結果、つまり「正しくないこと」の学びを積み重ねていき、そうした正しくないことを「除外」することで、結果的に正しさを残していく。これが、プロダクトづくりにおける仮説検証の戦略となる。すなわち、「正しくないものを作らない」だ(図4)。「プロダクトとして何が正しいのか」に対するチームの基準(共通理解)とは、正しいものを見つけようとして見定めるものではない。正しくないものの理解からこそ、その基準の輪郭を浮かび上がらせることができるということだ。

市谷 聡啓. 正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3445-3451). Kindle 版.

「ユーザーのために」と思って考えたつもりでも、いつのまにか「自分たちの頭の中にある都合のいいもの」になっていた!という事は多々あるかと思います。
そのくらい、「こういうのあったら良いよね」とか「これを作りたいな」という方向に物事を思考するのは自然なことです。
しかし、当然ながらそこに飲み込まれてしまうと望んだ結果は得られません。

なぜ「学び」「仮設を立て」「やるべきことを選ぶのか?」というと、自らが自然と持つ内発的な方向づけを律して、「失敗しないようにする」ためなのではないかと思います。
それが、「正しくないものを作らない」ということなのかと思いました。

わからないことを増やす

不確実性に対処するために、例えばクネビンフレームワーク等で想定されるような道筋は「分かることを増やす」のが王道だと思います。
しかし、本書では、それだけでは壁に突き当たることがあると言います。
そうした壁を突破する必要があります。

そこで、自身やチームが理解していることを時にはずらしたり捨てたりしながら、自分たちが知らないものを増やす事が重要とのことです。

わかっていることを並べてみて、そのうえでプロダクトの構想に行き詰まりを感じたら、それは今わかっていることだけではもっと先へ進んでよいのか判断できないということだ。そんな時はむしろ、「わからないことを増やす」活動を始めよう。守破離に則って表現するならば、「わからないことをわかるようにする」が「守」であり、「わからないことを増やす」は「破」にあたる。

市谷 聡啓. 正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4559-4562). Kindle 版.

そのための手段としては、視座・視野の操作をすることが挙げられています。

3回目の越境は、自分たちが見えている風景を変えること、つまり自分たちが捉えている現状への理解から離れて、新たな理解の獲得へと進むことだ。自ら不確実性を高めにいくような行為には強い意思が求められる。現状の理解に留まることは、コンフォートゾーン(安全領域)に身を置くのと近い。そこから出ていこうとすると、自分たちのこれまでの理解や経験が通じない可能性が高い。
この越境で求められる活動は、より高いアジリティでの実験と、そこから得られる学習への適応だ

市谷 聡啓. 正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4577-4582). Kindle 版.

ずっと同じところにいることが、ある種の「正しさ」への固執とも言えるのかも知れません。
そういったものを飛び出していくことで、自分たちの持っていた「正しくないもの」を客観視できるチャンスを獲得できるのかな?と考えています。

まとめ

概念っぽい話、説明っぽい話が多いものの、なるほどなるほど〜と思わされる部分も多くありました。
何よりも、プロダクト開発を「意味のあるものを作る行為」へと結びつけようとする、強いメッセージ性のようなものを感じました。

自分があまりPO的な立ち位置で働いたことがないため、少し読み飛ばし気味に進めてしまった部分もありますが、そういう場面が来たら改めて手にとってみたい感じがあります。

「アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-13です。 adventar.org

day-13は「アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット」です。

どんな本

先にアジャイルレトロスペクティブズも取り上げましたが、その「日本版」とでも言えるような本です。
「ふりかえりって、そもそも何だっけ?」から「良いふりかえりってどんなものだろう、そのためには何に気をつければ良いんだろう?」という話も抑え、多様なふりかえりプラクティス(アクティビティ)をカタログ的に紹介もしています。

副題に「アジャイルな」と書かれており、また本文中にも「スクラム」といった単語も出てきたりはしますが、これでもし「うちはアジャイル開発やってないし〜・・・」と距離を置かれてしまっていたら非常に勿体ないな!という気がします。

(確かに、アジャイルの文脈の中ではプラクティスとして固有名詞的に「レトロスペクティブ」が出てきたりもしますが・・そもそもチームがもっと効率を高めることができるかを定期的に振り返りというのが「アジャイルになるために重要」な要素の1つな訳で、「アジャイルチームだからやらないと」というよりかは「それらをやっているってアジャイルだよね」といった話の流れではあります)

という訳で、かなり幅広いチームや現場に浸透して欲しい本であり、ふりかえりは「なんちゃら開発手法のプラクティス」というより「チーム(のプロセス)を良くするコミュニケーション」として、またこの本は「そんなコミュニケーションを質的に良くする指南書」といった捉え方をしております。

今の職場で、何かにつけて同僚や部下にオススメできそうな本を紹介する事が多いのですが、この本は最も多くの人にオススメした本でした。
更に言えば、自分が全く関わっていないところでも「買ってみました」「読んでみました」という人が現れており、かれこれ10冊くらいは直接的・間接的にコンバージョンしたんじゃないですかね・・・

お気に入りポイントかいつまみ

読みやすさ・とっつきやすさに振っている

SCRUM BOOTCAMP THE BOOKと同様のアプローチが取られており、「とある架空のチームを舞台にした、ストーリーに則った展開・進化」「(可愛らしいイラストの)漫画を挿入して課題とコンテキストの設定」「ポイントが視覚的に分かりやすい」「平易な表現、短い文章」といった特徴があります。
「あんまり普段は本を読まないんだけど」という人にも読んでもらえるようにしているな、と思います。

概念・理論的なところも抑えつつ、説教臭くない

理論として、あるいは説明的な説明を伝えるべき部分については「ちゃんと説明する」ようになっています。
例えば「受容が必要」「メタ認知が重要」といった、ともすれば堅苦しい内容もしっかり抑えているわけです。
しかしながら、「○○すべきだ」という押し付けるような形ではなく「○○出来ると良いよ!楽しいよ!」とやわらかく話しかけてくるような印象を受けます。

こうした部分も「人に勧めやすい」と評価できる要因になっていると感じます。

自分自身としても、体系として「ふりかえりをどう扱うか」が理解できましたし、また「抑えるべきポイント、重要な観点は?」についても抑えられて学びが促進されました。

シーンや目的ごとに取り出せるカタログ

一概に「ふりかえり」といっても、そのミーティングはいくつかのアクティビティを組み合わせたりしながら全体としての場の形成を進めていくことになります。
また、チームの状態やプロジェクトのフェーズに応じて「何をふりかえるべきか」は大きく変わってくるわけです。

そうした、「何をすればいいか」に大きな影響を与えるコンテキストを加味して「使えるアクティビティ」が紹介されているのです。
数自体もかなりバラエティに飛んでおり、本書の「第3部 手法編」だけで全体の4割ほどのボリュームがあります。
1つ1つの内容も、目的・進め方・ワンポイントアドバイスがあるだけでなく、イラスト付きで「どういう感じなんだろう?」がイメージしやすくなっています。

「状況に応じて設定するアクティビティの組み合わせ例」が紹介されているのも、個人的に更に良いなと感じた点でした。

例えば「チームに根強く残っている問題を解決したい」というシチュエーションでは「希望と懸念→信号機→5つのなぜ→ドット投票→SMARTな目標→信号機」といったような。
ミーティングの時間内のファシリテーションにとどまらず、「ふりかえりをデザインしていく」ことに対して主体的にイメージを持ちやすくなるな、と思います。

まとめ

とってもオススメで、多くの人に読んでもらいたいな〜と感じる本です。
もし「形式的にやってはいるものの、ふりかえりを回す立場としてクリエイティビティを持ち込もうって意識したことないかも」という人であれば、本書やアジャイルレトロスペクティブズは、1つ次元を上げてくれるヒントになるかも知れません。

「主体的に場をデザインし、ファシリテーションしていく」みたいなのはとても楽しいことだなぁと思います!

「More Effective Agile ~“ソフトウェアリーダー"になるための28の道標」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-13です。 adventar.org

day-13は「More Effective Agile ~“ソフトウェアリーダー"になるための28の道標」です。

どんな本

アジャイルをやりたい」という組織が世の中に多くいるのはわかったが、「ただプラクティスを真似するだけではうまく行かないのはなぜか?」という所に意識を向けながら、現場でどのように効果を上げるか?について書かれた本です。

「概念」と「実践」の軸で言えば実践寄り、「入門」「活用」「応用・発展」でいえば「活用」みたいな温度感だと感じました。
教科書よりは参考書。「問題の解き方」が解説されている感じ。
アジャイルとほ」を読者に提供するものではなく、主眼をおいているのはタイトルの通り「効果的なアジャイル」ないし「アジャイルの本来の(本質的な意味での)効果を上げる」という部分。
また、エッジの効いたプラクティスや理論を扱うものではなく、世の中で広く取り入れられて効果を上げたものについて話をしています。そういう意味では、とてもベーシックで、ある種の「地味」さすらあるかも知れません。

本書は、うまくいくことが実証されているプラクティスに焦点を合わせている。アジャイル開発の歴史は、1人か2人の熱心なアジャイルファンによってひと握りの組織でうまく利用されていたものの、普遍的に有効なことが結局認められたなかったアイデアでいっぱいだ。本書では、そうした用途の限られたプラクティスをあれこれ説明しない。

1.3 他のアジャイル本との違い(P6)

アジャイルの本」と題してはいますが、内容としてはおおよそスクラムの本だと思って良いのではないかな?という感想です。

一部の説明について「むー、そうだろうか・・?」と個人的には完全に同意はしかねる記述も見受けられたものの、「うまくいかないアジャイル(スクラム)」の罠!みたいなところを抑えており、面白く読めました。
対応に必要な態度、観察眼を与えてくれるかも知れません。

アジャイルソフトウェア開発を導入してみたものの、いまいちしっくりこない・うまく行っていない気がする」といった現場リーダーに読んでみてもらいたい気がします*1

お気に入りポイントかいつまみ

考え方のベースとしてクネビンフレームワークを据えている

「なぜアジャイル(が必要)か」という説明をする時に、よく出てくる横文字や略文字としては「VUCA」「OODAループ「クネビンフレームワーク」があると思います。
もっとも網羅的に「なぜ」を説明しているのはクネビンフレームワークなのではないでしょうか。

第3章が「複雑さと不確実さという課題に対処する」というテーマを設定しており、ここで「背景となる基礎理論」「今日の時代背景の解説」が為されます。
他の本でよくあるのは、ここで「背景」を説明したあと、「もう状況はわかったね?」と言わんばかりにそれらの概念が登場しないような構成です。
本書では、全体を通じて「煩雑」「複雑」という概念を用いた状況なり課題の整理を行うなど、説明の筋を通しているような印象を受けます。

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索引を見るとその雰囲気が伝わってきませんか

何で実践的 → アンチパターンの指摘が豊富

「more effective」を題する本であって、「どう活かすか」に焦点を当てた内容です。
では、その「うまくいくやり方」はどのように表現されているか?というと、「活用できるtips」だけではなく「こうなってはいけない、要注意」「こうした課題に対処していく必要がある」という観点での指南が多く含まれている事も要因だと感じます。

例えば「モノリシックなデータベースを避ける」「テストカバレッジの基準を必要以上に振りかざさない」「(計測は重要だが)計測やその数値が目的になってはいけない」など。

全体を通じてアジャイル(スクラム、XP)・DevOps・リーンのプラクティスやコンセプトを幅広く扱っていますが、「うまくいくために」「失敗しないために」の両方の観点が意識的に提供されているように感じました。

各章末にまとめとして「検査と適応」のチェックリストがあるのが良かった

副題(28の道標)にある通り、項目立てて「必要なこと」を紹介する構成となっています。
それで、各章の末尾には「推奨リーダーシップアクション」として、「その章の内容をしっかり実践して、組織を導くためには」というポイントが紹介されています。
このポイントが、「検査」「適応」に区分けて簡潔にまとめられているのです。

これは、本書を通読した後にリマインダとして使える箇条書きになっていると思います。
そして「検査」「適応」という概念は、アジャイルの勉強をしている人にとっては非常にしっくり来るものですよね。これは個人的に良いな〜と感じた点です!

「検査」は、自身の行動や感覚だったり環境において起きていることについての観察項目を指摘します。
「適応」は、自他にある事象が立ち現れた際にどうするべきか、推奨される行動・心構えについて指摘するものです。

こうしたインクリメンタルによって「more effective」を目指せ、というメッセージ性を感じます。

まとめ

リーダーやスクラムマスターが自分1人で読んでも、あるいは「もっと良くなれそうじゃない?」と感じ始めたチームで読書会をしても面白いかもな、と感じた1冊でした。 比較的に幅広く扱っている割にはコンパクトに纏められている気もしており、また、各章および巻末に参考文献も豊富に示されていることから、「ざざっと読んで全体感を抑えつつ、特に今の自分のチームに足りていないと感じるところがあったら、勉強を深めてみる」という使い方が良いのかな?とも思います。

*1:本書の言葉によれば、対象読者としてCxOレベルの人も想定している様子

「アジャイルレトロスペクティブズ 強いチームを育てる「ふりかえり」の手引き」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-12です。 adventar.org

今日から5日間は「レトロスペクティブ祭り」です。
day-12は「アジャイルレトロスペクティブズ 強いチームを育てる「ふりかえり」の手引き」です。

どんな本

(・・・全く本筋と関係ないのですが、これを忘れていて「訳者ふりかえり」を開いた時に笑ってしまった)

「ふりかえり」に関する本です! タイトルの通り、1冊の中でふりかえりに利用できるアクティビティが豊富に紹介されているのですが、「どうしてふりかえりを行うのか」「どのように効果的なふりかえりが実現できるのか」について語られた本です。

自分は、初めてこの本を読んだ時に「なるほど、こうやって組み立てるものなのか」と感銘を受けました。
それまで「ふりかえりをやりましょう」と言われると「KPTをやる時間」と思っていたのですが・・他のアクティビティの引き出しが無かったことも然ることながら、「ふりかえりの時間」と「KPTをやる」の主従関係が逆だったように感じます。
確かにそれがメインコンテンツであっても良いと思うのですが、それだけを実施するのでは不完全であり効果は半減するな、と。
もっと総合的・立体的に「ふりかえり」を扱う必要性があると感じました。

そうした「土台」を理解した上で、本書の約半分ほどを占める「ふりかえりのために使えるアクティビティのカタログ」に触れていきます。

最近は「プロセスを改善しても金にはならない、しかしプロセスを改善しなければ金を生めない」なんて気持ちで過ごしている日々です。
この本は、単なる「ふりかえり技法」ではなく「チームの状態を引き上げるために必要な手立て」と呼ぶのにふさわしいと感じます。
副題にある「強いチームを育てる」に偽りなしです。

お気に入りポイントかいつまみ

「ふりかえり」だけでなく、効果的なミーティングのファシリテーションに通ずる

具体的なアクティビティの紹介が始まるのが第4章ですが、それに先行する第1−3章では「振り返りミーティングの進め方・全体設計」を解説しています。
どういう流れで進めるか?何を見てチームに合わせた構成を行えばいいか?ファシリテーターとして何をすればいいか?といった事が書かれています。
例えば「3.4 あなたの管理」「3.5 次のレベルへ」などは、プロフェッショナル・ファシリテーターにも通ずるような内容でした。

書名の通り「アジャイル開発を実践している職場におけるレトロスペクティブの場をデザインする」という想定で作られている本なのですが、これは決してふりかえりミーティングだけに閉じた話ではないな、と感じます。
いかに生産的な時間にするか?どうチームの主体性を引き出すか?の話です。

この辺りがあるから、「単なるアクティビティの解説本ではないな」と本書の価値を1次元高めているように感じられたのです。

多様なふりかえりアクティビティ

言うまでもなく、本書には多量の「ふりかえりに使えるアクティビティ」が紹介されています。
アジャイル関連の本やスクラム関連の本では、「レトロスペクティブはなぜ必要か」「例えばどういうものが出来るといいか」を紹介しているものもありますが、決してアクティビティのバリエーションが多くありません。あるいは、種々のアクティビティが相対化されない事によって「どこが肝なのか」というメッセージが弱まってしまっているものもあります。

そうした意味で、この「レトロスペクティブ専門本」はとても頼りになります。
パラパラとめくりながら、気に入ったものを教科書的なカタログとして真似してみることが出来ます。
(実際に、自分もこの本を通読するより前に何度も「摘み食い」して活用していました)

ただ、「たくさんの数がある」「それぞれに少なすぎない分量の解説が加えられている」ことは、それ以上の価値があると思うのです。
こうした大量で質の安定したインプットを得られることで、読者の頭の中で「カクテル」が出来るようになるのではないでしょうか。
すなわち、これらをそのまま使うに留まらず、チームの観察に基づいてアクティビティをアレンジしたり、あるいはオリジナルの手法を編みだせるようになると思います。

どんなに良いアクティビティでも、ふりかえりのような知的生産活動においては「マンネリ化」が敵として立ちはだかります。
その点、多角的な「ふりかえり眼」をやしなっておけば、必要性があって効果的なものをいつでも提供できるようになるのではないか、と。

まとめ

自分の中で、本書は「実践への即効性が極めて高かった1冊」です。
ふりかえりは、ともすれば「ただ何となくやって終わった」「特に生産的な価値を感じられなかった」といった結果に至りがちです。
・・・「チームで喋ってみる」ことの効果はそれだけでも相応に高いと思うのですが、やはり参加者の実感、主観による「価値」は看過できませんので。
・・・ちなみに、「誰も積極的に発言しない」「発言する人が偏る」といった問題への対処、「ふりかえり自体をどうカイゼンするか?」も本書の中に解説されております。

他方で、ふりかえりという活動は、不安定だけどしっかりやった時にはユニークで大きな効果を生み出し得るものだと思っています。

ミーティングのファシリテーションをする人、プロセス改善や組織改善に興味のある人、スクラムチームで活動をしている人には必読なのではないでしょうか。

「Fearless Change」

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-12です。 adventar.org

day-12は「Fearless Change」です。

どんな本

副題には「アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン」と付いています。
「Fearless」とは「(変化していくこと・受け入れることを)恐れない」というニュアンスでしょうか。そうした形で「アイデアを広げる」ためのパターン、つまり「押し付けたり、恐怖によって駆り立てるのではなく、手を組みながらポジティブに変容を起こしていくには?」というのが本書のテーマになります。
アジャイル」とは付いていますが、それを標榜する組織やチームでなくても非常に有用な1冊だと断言できます。

扱っているのは組織の話、つまり「人と人」や「意思決定、フロー」の話・・・ピープルウェア風に言えば「社会学」の話になるかと思います。
そこに焦点を当てたパターンを共有していく、というもの。この「パターン」はパターン・ランゲージのパターンですね。

組織に新しいアイディアを広める(変化をもたらす)というのは、大変なことです。抵抗にあったり、人々の無関心を動かせなかったり。動き出したと思ったら状況が思わぬ方向に変化したり、勢いが失われたり。形になったかな?と思ったら、形式だけが出歩いてるような「やらされているだけで誰も乗り気じゃない」とか。
一筋縄ではいきません。

本書は、「ランゲージ」としての Patterns for Introducing New Ideas 、すなわち個々のパターンが総体として何を目指しているのか?どんなことをもたらし得るのか?について語る第1部と、変革の事例をパターンの観点から紹介した第2部(パターン32: 体験談の共有、ですね)、そしてパターン・ランゲージの「単語」となる各パターンのカタログである第3部からなります。

お気に入りポイントかいつまみ

それぞれのパターンが「人間的」であること

「恐れのない」というタイトルから分かる通り、組織の中にいる人達の「感情」に向き合っている本です。
人々の意思決定は決して合理的でも論理的でもない、というところからスタートしています。
なので「正論」「きれいな理想」だけでは、個人も組織も動かない。だから変革が難しい!!

そうした前提を抱えながら、どう取り組んでいくか・・・?というヒントになるの本書です。

第1章に引用されている言葉も目を引きます。

「事実とは便利なものだ。感情が正しいと決めたことに、正気で取り組めるようにしてくれる。」 P8

正に本書の根底にあるスタンスはこの表現に集約されているようなもので、「どうやったら受け入れてもらえるか、あるいは何が拒絶を和らげるのか」という処方箋をパターンとして取り扱っています。

納得感のある話、トークンとしての利用法

本書を一通り読んでみた時に、驚くほど「目新しい知識のインストールはない」ように感じました!
「パターン」とは、そもそも「名前のついて広く認められたパターンがあって、そこから行動が生まれる」ものではなく「頻出する課題と解放について、整理して名前をつけたもの」のはずです。
そういう意味では、自分が過去に実行した取り組みや考えてみた・意識したことが「ここに書いてある」というのは、この本の出来の良さを証明していると思うのです。
もっと言ってしまえば、「実際にそうすることで効果があるな」という納得感がしっかり得られました。それらが構造化され、「コンテキスト」「フォース」「結果」まで付与されている・・ということは、今後は「何となく知ってた」ことを、より適切で迅速に取り出すことが出来るようになるのだと感じます。

パターンの42に「トークン」が紹介されています。

要約 新しいアイデアを人の記憶に活かし続けるために、伝えた話題に紐付けられるトークンを渡そう。 P246

自分にとっては、正にこの本が「トークン」として機能しそうだな、と思いました。
引き出しの中に何があるかな・・・?を、パターン一覧やこの本の目次を見るだけで即座に思い出せるのです。

また、これは少し余談ですが、パターン名が直感的なのも良かったですw
(「組織パターン」とかは、少し比喩性が強く感じられて中身が思い出しにくいようなものも多かったので・・・)

段階に応じて適用する方法を考えている

そのままパターン名として設定されていますが、「イノベーター」「アーリーマジョリティー」というような概念が出てきます。
そこから分かる通り、「最初にやり始めた頃から、どうやって全体へ波及させていくか?」という観点が大事にされているのです。

付録Bには、「序盤の活動に関わるパターン」「中盤移行の活動に関わるパターン」というグルーピングもなされています。

今、どうやって動けば人々に受け入れてもらえそうか・・?というのを客観視し、適応的に動いていくためのヒントになりそうです。

個人的に(今の気分で)お気に入りのパターン

パターンのチートシートが、監訳者であるkawagutiさんの手によって公開されています。

kawaguti.hateblo.jp

どんな本だったか?何を得たのか?をより濃くふりかえってみるために、48のパターンの中から”今の気分で”お気に入りなものをいくつか列挙してみます。

  • 1 エヴァンジェリスト
    • 「Fearless Change」の最も原初にあるパターンだ、という風に言及されています。
    • まずは自分自身が、新しいアイディアに胸を躍らせ熱狂する!それがいかに素晴らしいものであるか、情熱を持って他人に伝える!!!
    • 長い道のり、まずはそういう風にスタートさせていかねば・・・と感じました
  • 2 小さな成功
    • エヴァンジェリスト」である自分は、多少は長くなっても良いと思うです。
    • ただ、2人称・3人称のアイディアになってきた時に、そこにいる人達はどうか・・・?と考えると、「辛抱強く待つ」だけでは熱が冷めてしまうかも知れません
    • まずは「わかりやすい結果を残す」とうのも大事、そういう視点は意識していかないとなーと
  • 3 ステップ・バイ・ステップ / 34 ちょうど十分
    • 「小さな成功」とも関わりますが、急進的すぎる試みは着地させにくいものですよね
    • 大事にしたいアイディアだからこそ、歩調を合わせて進めるようにしないとなーと
    • 求めてない所に突っ込んでもたぶん実らない
  • 22 種を巻く / 23 適切な時期
    • まさに「CAL-1」で言われたことだなーと
  • 26 テイラーメイド
    • 他者に賛同者になってもらうには、綺麗事や理性的な話だけでなく「あなたにとっても、素晴らしいことだって分かるでしょ?」って言う共有をしないとですよね
    • 「わからせる」ではなくて「感じさせる」みたいな雰囲気を感じました
    • 心から乗っかってくれる他人こそ1番強いと思うので、自分の好きなアイディアに「乗せる」のも丁寧にやっていきたい
  • 40 成功の匂い
    • これもCAL-1で解説されていた事に通じるな〜と感じていて、何かというと「面白そうに・楽しそうにやってたら、隣りにいた人も興味を持ち始めて覗きに来る」みたいなやつ
    • (Culture Bubbleの話です
    • まぁ命名的に「理を感じると、(アーリーマジョリティなどの人でも)やってくる」という話な気はするのですが、もっと踏み込んで「自分たちが、いかに良い匂いを演出していけるか?」も大事になりそうだな、と思った次第
    • あと、「解決方法」の中に書かれている「彼らの質問から学ぼう」という態度も凄い大事にしたいなって思ったのです
  • 47 お試し期間
    • この本を読む前に、まさに「ちょっと破壊的で抵抗を食らいそうだな?」って思ったアイディアについて「まずh2ヵ月って期限を設けた上で実験的に取り組んでみたい」と交渉をしたことがありまして。
    • その結果・・だけではないのですが(パターンの観点から見ると、凄い色々と仕掛けている動きになるなーとふりかえって思う)、「まぁ2ヵ月ならやってみるのが良いんじゃない』という声を実際にもらえたので、自身の体験として「最初から明確に時限や終了条件を示しておく」ことの価値は感じます
  • 46 恐れは無用
    • 心が折れそうになったらココに立ち返りたい
    • 「他人は変えられないが、自分の行動は変えられる」に通ずるものを感じて、そう信じた上で「エヴァンジェリスト」として、聞く耳を持って、常に自分と他人に一生懸命に取り組むようにしたな〜と・・
    • 「恐れ」の多くは、未知とか不安からくるものなので、対話大事。相手を尊重する。

まとめ

読みやすい・わかりやすい本でした。
見る人によっては「あたり前のことしか書いてない」とか思うのかも知れませんが(だって「根回し」とかパターンとして取り上げられているんですよ!)、遥かにそれより大きな価値のある1冊で、周りの人にもじわじわと薦めたいなぁ・・・と感じます。

これを見て「新しい動き方をしよう」ってなるよりかは、今の自分の置かれている状況や抱えているものを自省して、何が足りないか?もっと出来ることはないか?を棚卸しする際に手元においておきたいなって感じます。

「みんなでアジャイル」「チーム・ジャーニー」あたりと一緒に読んでも面白いかも。

認定アジャイルリーダーシップ Iを受けた

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h② Advent Calendar 2021」のday-11です。 adventar.org

day-11は、書籍の紹介の代わりに、参加した研修の話です。 今年の10月に認定アジャイルリーダーシップ I(CAL1)を受けてみたので、それについて「ひとりでアジャイルスクラム以外編〜」カレンダーの1篇としてふりかえってみたいと思います。

www.jp.agilergo.com

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※ 自分が受講した開催回のリンクではありませんが、アギレルゴの研修だったよーという意味合いのリンク。

受けてどうだったの

非常に考えさせられる研修で、いくつも「大事にしたいな」と思えるエッセンスを受け取りました。 全く新しい概念、根底から価値観を覆される体験・・・というものこそ無かったものの、それでも「改めて考え直したい」「重く受け止めたい」という考え方が多数ありました。
なので、もっともっと勉強も実践も内省も続けていかなければならないし、また自身の視野だったり興味関心の分野も少し広がったかな、と思います。

「ここに答えがある」という期待よりも「しっかりと一歩を踏み出したい」という期待からの受講だったので、「学ぶためのヒントがある・源泉となる」事が非常に有難いです。期待に沿うものでした。

これで、自分はCAL-E/CAL-Oのライセンスを取得したことになります。

どうして受けたの

「認定アジャイルリーダーシップ」なるものを知ったのは、 #scrumosaka の発表がきっかけでした。 このイベント自体が「せっかくCSMもとったし、スクラムとかアジャイルに興味を持ち始めたから、覗いてみよう〜〜」と思って参加したもの。
そこで、なんとなく見てみたセッションが「全く知らない世界だな」「面白そうかもなー」というものでして。

(録画が上がったら改めて観たいなー)

恐らく、「自分がチームを持ってスクラムをやる」以上に「組織全体を方向づける、よい方向に連れて行く」ことが現在の自分の仕事におけるミッションになりそうな気がしています。
急に広範囲へのチェンジ・エージェントに挑むような・・・・

そこで「リーダーシップとは」については興味分野となります。
とはいえ、CSM研修も受けたばっかだし、流石になぁ・・・・とか感じながら逡巡していたのですが、別の文脈で大きめな自己投資を決定したタイミングがあったので「こっち行くなら当然CAL-1も行くよな!?」となり。エイヤっと申し込んで振り込んだ次第です。

社内でマネージャーへの転身を打診された直後でもあり、「自分はマネジメントやリーダーシップというものを(アジャイルの文脈以外でも)武器として磨いていく必要がある」と感じたのも、エイヤっを後押しした要因にあります。

いずれにせよ、CSM研修とその後に別に受けたコースの体験から、くした研修は「たったの数日間や数十時間でも、自分だけで辿り着けるより遥かに濃く・高い地点に辿り着けるものなんだな」という事を理解していました。
なので、「恐らく学んだ方が良いであろう分野・方向性」について「費用さえどうにかしたら、しっかりと受けられるチャンスがある」となれば、学びたい気持ちに素直に従ってしまおう・・と。

ここで、「どうやって周囲を高いレベルにつれていけるか」「自分自身を影響を与えられる人材に引き上げられるか」のヒントや取っ掛かりをつかめればいいな、と期待してのものです。

当日に得たもの

中心的なテーマは「変革型リーダーシップ」でした。
ハイパフォーマンスな組織を築くためのリーダーシップ、となります。

講師のサホタ氏の会社で「アジャイル変革するための鍵」の資料を配布しているので、ここで概要はつかめるかも知れません。

shift314.com

文化が大事

研修タイトルは「アジャイルリーダーシップ」とありますが、実際には「文化とリーダーシップ」の研修であったといえます。
文化とは何か?どういう力を持つのか?be agileのための「よい文化」とは?

そういった点を論じていきます。

文化こそが進化と成長のキーである、と。
文化とは「何を感じて、何を話しているか」を決定するものなので、もし話している言葉が違えば「バベルの塔のように、目標に到達できずに崩壊してしまう」と。
ハイパフォーマンスな組織を実現するのは、それに見合った組織文化。

氷山モデルで「水面下にある大きなものは文化であり、目に見えない。目に見える戦略や先述というものは、氷山の一角に過ぎない」といった、印象的な表現も用いられていました。
アジャイルマニフェストで「プロセスよりも人を」とあるが、プロセスというのは正に「戦術」のことであって、人そのものがなすのが「文化」。
あのマニフェストに共感し、アジャイルを実践していくのであれば、文化に目を向けることからは逃れられないはず・・という理屈になります。

ハイパフォーマンスな文化を持つと生まれてくるのが、自己完結型・自律的な組織です。
なぜ「自律」が許されるか?といえば、全員が「同じように判断できる」し、それをお互いが信頼できているから。
「何を喋り、どう考えるか」が揃っているから、組織はその状態に行けるチャンスを手にします。

「生産プロセスの一部の歯車」のように扱う指揮統制型の組織でもないし、「支援してあげる・支援される」という関係性で成り立つ家族のような組織でもないし、自律的な組織は「皆が平等に考え、お互いに敬意を払って接する」という大人同士である必要があります*1

良い文化があると何がもたらされるか?継続的な進化、臨機応変でしなやかな意思決定と実践が、その答えの1つです。

失敗例として、「文化がないところに形だけ取り入れる」というパターンがあります。
(例: 「アジャイルをやる」のと「アジャイルになる」の差。価値観の共有をなくしてアジャイルラクティスだけを取り入れても、形骸化し空中分解する。寧ろ「押しつけ」によるストレスが、従業員のモチベーションを下げてパフォーマンスの低下をもたらす)

総じて、「組織の進化」は「文化の進化」であり、もっといえば「そこにいる人達を進化させる」ことがアジャイルリーダーシップに求められる事になります。

徹底的な傾聴

”レーザーリスニング” という概念で紹介されていました。
この研修において、リーダーシップは「ティーチング」「指揮統制」よりも「相手を大人として扱う」ことを重視しています。
そのために必要なことは、相手の存在を肯定し受容することです。

そのためのプラクティスとして「レーザーリスニング」です。

「相手の方へ、レーザービームのように視線を向けて、その中に置きていること・感じていることを聴き取る」というもの。
自身の価値判断や「教育」「フィードバック」は後回しで、とにかく全神経を「聴き取ること」に集中させます。

相手が「聴いてくれている」「私を見てくれている」と感じることで、(心理的)安全性がもたらされるし、「自分で考えること」への許可をもらっているように考え始めます。

更に、他人だけでなく自分に対しても「何が起き、どう感じているか」を聴いていく事も重要であると。
自分自身への観察をなくしては、「リーダーとしてどういう影響を与えているか」「どんな振る舞いをしている(見られている)か」に気づくことが出来ません。
自分を「正しく」保つことは大事です。 「自分自身を聴く」ことが必要になります。

これについては、瞑想のようなアクティブティを通じてマインドフルネスの獲得をすることで「聴けるようになる」という話でした。
瞑想とは、「自分の皮膚が何かを感じている、という事自体を感じる」ようなメタ認知のトレーニングでもあります。
「蒸し暑い・不愉快だ」「蒸し暑いという感情が湧いている」みたいな。

そして、「なぜ成功を手に入れられないのか?」について考える時に、自分の不足している部分 = 「リーダーシップの限界(を迎えている部分)」はどこか?を問い、認識していく必要があります。

まずは自分から / 忍耐を持って進める

文化とは「押し付けて形になるものではない」と説明されています。
「文化の芽が育つ土壌が整うのを待ち、その時が来たら種を巻きに行こう」という説明は、自分にとってはこの研修全体を通じても最も価値のあるものの1つであるように感じました。
「Calling」の考え方や、U理論で言う「プレゼンシング」に近い部分もあるのかな?と感じました。
機が熟した、準備ができた時に「一歩を踏み込む」ことができる、というのはとても感じます。

自分自身の体験として、職場において「レトロスペクティブ/ふりかえりをもっとやっていけると良いんじゃないかな〜」という気がして、実践的な知識の共有を働きかけた(勉強会の企画など)ことがありました。が、鳴かず飛ばずと言ってもいいくらいに反応が得られずに消滅しています。
そこから数ヵ月して、ふと気づくと色々なプロジェクトでも色々な形式でのふりかえりワークが行われるようになっていました。
これもまた、「土壌が整って、だから芽が出てきた」という一環なのかな?と思っています。

なので、リーダーは「芽が育ちそうな土壌があるか?を、歩き回りながらしっかりと観察して、良いタイミングに種を蒔く」必要があります。

では、どうやって土壌をつくるか・・?
まずは「自分からやってみる」というのが大事です。
「良いものだからやってみよう」なんて押し付けたり売り込んだりするのではなく、周りのニーズやインサイトに応える形で(例えば自分のチームなど、小さい範囲で)「こういうやり方をしてみよう」という取り組みをしてみる。
ある意味では、「他人にとっても良いものだと信じているから与える」のではなく「自分自身が良いと信じているから行う」に近いものですかね。
有名なムーブメントの起こし方に通ずるものを感じます。
人や文化も、自然と同じで、「自分のペースで成長していく」ものです。もし強引な接し方をすれば、それは折れて失われてしまいかねません。

それで、もし「価値のある」「しっくり来る」ものだったのであれば、じわじわとチーム外にも評判が届くようになる・・・と。

Culture Bubbleという考え方が紹介されていて、これがとても興味深く感じると同時に重要なものであると思いました。
これについては記事があるので、リンクを貼っておきます。

shift314.com

さて、これらを達成するリーダーに重要な素質・態度は何か?・・・それが「忍耐」だ、と。

研修を終えて

研修最終日のメモに、こんな事を書いています。

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色々な組織理論、心構えについて教わりました。
それらを総合して「では、自分がどうしていくか?どんな行動を選択するか?」について考えると、「謙虚に、忍耐強さをもって取り組む」という回答になります。
謙虚さとは、「自分をしっかり客観視すること」「周囲の状況や他者、そのコンテキストを尊重し尊敬すること」だという解釈です。
そして、忍耐強さは謙虚さから生まれるものだと思うのです。「俺のほうが正しい」となった時点で、教育したり支配したいという誘惑に負けます。それよりも、相手自身という個を受容し肯定することで、「きっと良い方向に向かうはずだ」と信じられるようになるのではないか、と。進行や到着がわかっているのなら、少しくらいは気長に待てるようになります。

CSM研修以上に、その場ですぐに「わかった・掴んだ、正解を見つけた!」とはなりにくく抽象的な内容だったように感じます。
それでも、多くの非常に重要な示唆をいただけたように思いました。その内のいくつかは、今時点での理解レベルで「とにかく実践してみるか」と思えるものです。

今後も、定期的にor折を見て、研修資料を読み返したりノートを開いてみたいなーと思いました。
CAL-2も受けてみたいな〜英語が分からないのは本当に機会損失だなぁ。。

*1:この辺り、特に「成功例」としての参考情報として「ティール組織」の書籍を紹介していました。それと同時に、ティール組織(書籍)については、「形式ばかりに着目しているから、説明としては不足・ミスリーディングだ」と指摘しています

認定スクラムマスター研修を受けた

この記事は 「ひとりでアジャイルo0h① Advent Calendar 2021」のday-11です。 adventar.org

day-11は、書籍の紹介の代わりに、参加した研修の話です。
今年の3月に認定スクラムマスター研修を受けてみたので、それについて「ひとりでアジャイルスクラム編〜」カレンダーの1篇としてふりかえってみたいと思います。

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受けてどうだったの

楽しかったです!
自分の中で何かを「掴んだ」ような手応えもあったし、それ以上に「これから学んでいく上で、どういう部分を大事にしていきたいか」を受け取れたように思います。
勿論、決して長くはない研修なので「ここに答えがある!」「受けただけで全てが変わる!!」というものではないですが、しっかりと「やっていくぞ〜」という気持ちにはなれたかと思います。

研修というと「コンテンツ、形式知」について「何が得られるか」に意識がいきがちかと思います。自分もそうでした。
ですが、やはり「場」の価値も計り知れないのではないかと。半分以上は「参加型」な研修になるので、寧ろ「そこで何が起きているか、どういうことを経験できるか」から得たものが大きいようにも思っています。

相応の費用がかかるので「コスパはどうなの・・?」というのには一概には答えにくいですが、自分としては「買わない後悔より買った後悔」で動いてみて良かったなーと言い切れます。
実際、後悔はなくて「とてもよかったな〜」という気持ち。

(ちなみに、何となく「会社の費用or一部負担で受けてそうだな」って感じの人が多かったです。直接聞いたわけではないですが。同じグループになったのは大企業さんの人が多かった印象)

どうして受けたの

スクラムと言えば、前々職で「POいるし、2週間毎にプランニングしているし、ベロシティも測ってるし、レトロスペクティブもやっているよ」という経験をしていました。
その当時が「スクラム」なるものがあるらしい、と知った初めての場です。

とはいえ、(今思えば)スプリントレビューもなければスクラムマスターもいない状態でしたし、「スクラムをやっています」っていうには遠い感じでした。

その後、昨年末から今の職場で「新しくプロジェクトをやってみる」「初めてのプロジェクトリーダー」を任されることになり。

中期的な計画を立ててそれに付き従う?・・・要件もわからん、そもそも自分がドメイン知識もない、メンバーの実力もわからん、これで「計画」「見積もり」をして「工程を組む」なんて出来ないだろ・・・
であれば「少しずつ進めていく」しかない。
あ、アジャイルか?
ん〜、そしたら何となくスクラムは勉強すれば動かせるかも・・・?

という流れで、勉強をし始めてみました。
1週間で複数冊の書籍を買ったり摘み食いして読んだり・・を繰り返しながら、なる早で藻掻いていた感じ。
結局「スクラム風の何か」を採用して動かすことになり、ここで一定の手応えを感じつつ興味を持ちます。面白いなーと。
そうなると「ちゃんと勉強したい」という気持ちが湧いてきます。
また、「どうにかして健全で真っ当に開発できる組織を作りたい」と考え続けていた時期なので、「今後、(自分の立場で言えば)アジャイルっぽい動きを増やしたり、社内をそっちに寄せていく可能性もあるのかも?」とも思えてきました。そうすると、「オフィシャルに自身の知識・思考を証明できる」という後ろ盾になる材料もほしいな、と。

以前の職場で、同じチームにはならなかったものの「認定スクラムマスター」な同僚が居たことを思い出します。
当時は「えぇ、20万も支払って資格とかとるもんなの・・?全くわからん・・・・」と思っていたのですが、今なら「ここで支払っても、恐らく仕事で十分に取り返せる。職場が変わる/変える余地が存分にあるし、今後、キャリアを精査される場面に出くわしたとしても”そういう方面も行ける・興味がある”っていうのはプラス材料にできるだろう」という風に感じました。

・・・費用面、「本当に意味があるのかな?」という懸念、そしてClena Agileを読んだばかりでしたので少なからず悩んだのですが。

それに、自分はこれまでの人生において何らかの資格をとったり検定を受けたことが無く、研修も会社の費用で1度受けたくらいなので、「それが何になるのか」はイメージできていませんでした。高いし。

Clean Agileの第6賞には「認定資格」という節があり、"今あるアジャイルの認定資格は、完全なるジョークであり、完全にバカげたものである。認定資格を真剣に受け止めてはいけない。" "認定資格が意味するのは、数日間の研修お金を払ったこと(と研修に出席したこと)だけだ。”と痛烈な批判がなされていますw

それで、結論としては

  • 「ちゃんと学び始める」ための一歩になれば
    • このたった数日で完成するものはなくても、自分自身が「腹をくくる」までは行けるはず
  • 少なくとも今の環境で身の回りに「自信を持ってスクラムを実践している」ような人はいない
    • 本物の思考に触れてみたい
  • 社内で暗黙的に「アジャイル/スクラムに詳しい人」になるよりは、権威付けをしておいた方が効率が良さそう
    • なので、一応は形式的にも認定を持っておきたい

を期待する価値として定義しました。

どこの研修を受けよう?

早々にCSMに絞ったのですが、公開研修を提供している企業にはいくつか有名所があると思います。時期的に、どの会社もオンライン開催になっていたので地域や日程は大きな問題になりにくいです。

Odd-e、アギレルゴコンサルティング、アトラクタの3社が有名なのかな・・・・と悩んだのですが、ちょうど良い時期に↓のニュースが流れてきます。

www.attractor.co.jp

これに安心感を得て、アトラクタが一歩リード、ほぼ確だな〜と。
・・・で、もう少し調べてみると、メンバーが自分にとって「豪華!!」だという事が分かりました。
直近1年で読んだ中でトップレベルに良かった「プロダクトマネジメント」の翻訳者、それと並ぶか超えるかくらいに良かった「エラスティックリーダーシップ」の寄稿者、めちゃくちゃ刺さった「レガシーコードからの脱却」「みんなでアジャイル」の翻訳も・・・
ドリームメンバーみたいな状態だなって気がしてしまったので、コチラにお世話になろうと思った次第です。

当日に得たもの

座学とワークショップな3日間でした。
初日にグループに分けられて、同じメンバーでワークショップに取り組んでいきます。
自分以外に開発者はおらず、なんとなく「ビジネスよりのメンバーとプロダクト開発っぽい話をするのって久しぶりだな」と感じましたし、もっと言えば「どう開発するか?以外の部分が話題の中心となる」という経験は初めてかも知れなくて、新鮮な気がしました。 ワークショップは、スクラムの流れを一通り体験しながら、(コードを描いたりデザインをしたりはないものの)1つの「プロダクトを作ってみる」という内容です。
プランニング、プロダクトのスライス、優先度ぎめ、スプリントでインクリメントを作り上げ、そしてスプリントレビュー = プロダクトへのフィードバックも。そのあとにレトロスペクティブですね。 リファインメントして、次のスプリント。

実際に技術要素を用いて市場に出すものを作る!!というのとは程遠いとも言えるかも知れませんが、1つ1つに「なるほど、そういう事なのか」と思わせるようなエッセンスが散りばめられていました。
座学、ワークショップ、講評とQ&Aという知識と経験のI/Oが揃っていることで、どんどんと理解が深化していくような体験です。

(余談ですが、グループごとにSlackのチャンネルが用意されて「そこを自由に使っていいよ」という設定だったのですが、自分のグループは講師陣に「どのチームよりも、本当にプロダクトを作るような雰囲気のやりとりがされていた。スタートアップ企業みたいな」と言われたのは何となく嬉しかったです。)

短い時間・・「1スプリント○○分」という、極めて切り詰めたタイムテーブルを用いた架空の設定でも、実際に「チームがこういう風に進化していくのか」というのを感じられました。
特に、最初のスプリントはどのチームも「時間が足りない」といって居たのが、その次のスプリント最後のレビューでは「ちゃんと製品へのフィードバックをもらえる」ところまで形になっていたりとか。

自分のグループなど、最初のスプリントレビュー後にはプロダクトバックログをひっくり返すレベルで「何をしなければいけないか」を組み直す事態になった(というかチームに提案した)のですが、それでちゃんと「コアバリューが見えた、チームの目線が揃った」というのは新鮮な体験でした。
「何を提供したいのか」ができると、チーム内からもブレイクするーとなるアイディアも出てきやすくなるし、レビュー時にもステークホルダーに対する「ここを観て欲しい、評価して欲しい」というポイントがシャープになります。
というのを実際に体験できました。濃ゆい時間。

学んだこと

自分がもっとも腑に落ちた・大事にしたいと思ったのは、「スクラム(反復と漸進)はフィードバック駆動」という観点です。(こんな言い方をしていたわけではない気がする)。
勉強したての頃、印象深いのは「デイリースクラム」と「レトロスペクティブ」な気がしています。
しかし、価値を実現するための重要要素として「スプリントレビュー」があるぞ、と。

スクラムマスターの仕事は「デモまで連れて行く」「外に引っ張り出していく」「そのために抵抗や誘惑に抗う」ということであり、それが出来なければ「フィードバックを得られない」から。 そして、「次のスプリントが楽しみだという状態を作る」と。

チーム作りや技術課題へのしなやかな対応もとても大事で、不可欠なものですが、自分にとっての「スクラムは何をしなければいけないか」の優先順位が変わった!と思えるくらいの衝撃でした。

研修内容について事細かに触れるわけにはいかないので、ざっくりとはしますが、とにかく「1番重要と思える学び」についてはこの点だと思うのです。

研修を終えて

やはり「スクラムマスターになった」・・・というわけには行かず、あくまで「最初の1歩を踏み出した」くらいのもんだと思いますが。
ポケモン(初代)でいえば、マサラタウンを出て1番道路に入りましたくらいの。
ただ、「スクラムを学び始めた人になった」とは胸を張って言えると思うのです。

これまで資格や認定、研修などには縁のなかった人生ですが。
物凄い濃密で上質なインプットをもらえたと思っており、「なるほどこれが世の人々は知っていた、研修のすごさ・・!」とも思いました。
その後に「金を払って勉強をすること」へのハードルが下がった、積極性がかなりましたので、そういう意味でも自分にとって非常に意義のある経験となりました。

研修の最後に、トレーナーのharadakiroさんが言っていた 「(偉大なるスクラムマスターになるための)スクラムマスターとしての自分のバックログ」は常にメンテしていってほしい
という言葉は、これからも折に触れて思い出すようにしていきたいなーと思っています。